火種
「苗字さんどないしたん?元気なさそやね」
「白石」
昨日の帰り道に謙ちゃんが何か重大な事を言おうとしていた気がして、そしてそれを聞いてしまってはいけない気がして、結局寝るまでも起きてからもずっと考えてしまっていた。
睡眠だけはしっかり取れたので私は存外図太いと思う。
なんとなく気まずくて、いつもなら朝から謙ちゃんの席へ喋りに行くのも今日は出来なくて、自席でぐでぐでと項垂れていた時だった。謙ちゃんを通して仲良くなった白石が声を掛けてくる。
「謙也の事やろ」
「なんで分かるの?エスパー?」
「せやねん、俺エスパーやねん。せやからこの白石君になんでも相談してみい?」
「エスパーなら相談しなくても分かるよね」
「それは言うたらあかん」
「ふふっ」
「やっと笑ったわ」
「ええ?」
「自分朝からずっと暗い顔しとったで。やっぱ苗字さんは笑顔が一番似合うとるわ」
白石はそう言い頭をポンポンと撫でて自分の席へ戻っていった。どうやら顔に出ていたらしく、それに気づいた白石が慰めに来てくれたようだ。どこぞの王子様かと聞きたくなるくらいスマートなそれに感銘を覚える。
いつまでも昨日の事を気にしてたらいけない。それにいくら気まずいからと謙ちゃんを避けるのも違う。やっぱり彼は大切な友達なのだ。
次の休み時間は喋りに行こう。
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あれから謙ちゃんとも普通に喋ることが出来て、心の中で白石に感謝をしつつ無事に迎えたお昼休み。普段は教室で友人達とお弁当を食べているが、今日はお母さんが忙しかったのか千円札だけテーブルに置かれていたので食堂へ向かう。
「あ、謙也さんの彼女」
「ザイゼン!」
「やっと覚えたんすか。忘れてたらどつき回そ思うとったのに残念すわ」
昨日の今日では流石に忘れない。それにしてもどつき回すって大阪人特有のネタなんだろうか、彼が言うと冗談に聞こえないのが怖い。
だってこの前謙ちゃんのことを思い切り蹴っ飛ばしてたから。
「というか謙ちゃんの彼女じゃないから!ザイゼンこそそろそろ覚えてよね」
「はあ?知らんのんですか、謙也さんいつもいつも部活中アンタの話ばっかしてはりますよ」
「そりゃ仲良しだもの」
「うわー。流石に同情しますわ」
「意味わかんない!ってかそこどいてくれないと注文できない」
「ほんなら俺が注文しとくんで席とっといてください」
しっしと追い払われてしまったので、何故か私が二人分の席を取る羽目になった。本当に本当に生意気な後輩だ。
空いていた二人席を確保して待っていたら、カレーセットを手にした財前がやってきた。なんで今日の気分がカレーだと分かったのか聞けば、ずっとカウンターに置いてあるカレーの写真を見ていたから、だそうで。
「ザイゼンもっと取っつきにくい子かと思ってた」
食事しながら色々と話をしてみると、洋楽が好きだとか
善哉が好きだとか、その好きな事に関しては意外とベラベラ話すだとか。彼について知らなかった、知ろうともしていなかった事がたくさん分かった。
生意気だけど話してみると結構可愛げがあるかも知れない。
「アンタも謙也さんの彼女の割りには意外としっかりしてはりますね」
「だから彼女じゃないって」
「せやったら俺とも仲良うしてくれますか?」
悪戯をする子供みたいな表情でそう言った。帰宅部の私には後輩と呼べる後輩がいないので、財前がそう言ってくれたのが嬉しくて素直に頷いた。
これからは謙ちゃんの後輩、ではなく私自身の後輩になるのか。
「じゃ今日から光くんて呼んでください」
「光ちゃんね!おっけー!」
「アンタ耳付いてないんと違います?ちゃん付けとかキモいんでやめてもろてええですか?」
毒舌で生意気だけど可愛い後輩が出来たことに頬が緩んだ。
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201905 お肉