瓦解





光ちゃんと仲良くなってから少し経った時だった。いつも通りの放課後、いつも通り謙ちゃんに今日も待ってると伝えようと立ち上がった時だった。


「名前先輩いてはります?」


教室の扉からヒョッコリと顔を覗かせる可愛い後輩の姿。そして私を見つけるやいなやズカズカと入り込んでくる。人のことは言えないが、先輩に物怖じしない彼も中々図太いと思う。


「光ちゃんどしたの?」

「今日一緒に帰ろ思て」


いつもなら光ちゃん呼びにキモいだの止めろだの言ってくるのに、それをスルーして一緒に帰ろうと。一緒に帰ろう、と。


「ええ!どういう心境の変化?!」

「ね、ええでしょ?はい指切り。約束破ったら針千本飲ましたりますからね」


勝手に私の小指に自身の小指を絡ませ指切りをさせられてしまったので、今日は彼と帰ることになりそうだ。光ちゃんは満足したのかそのまま教室を出て行った。

謙ちゃんの方を見遣れば、此方をポカンと見つめ立ち尽くしている。


「謙ちゃん、今日は一緒に帰れなくなっちゃったね」

「お、おん……」

「それじゃまた明日ね!」


話しかけても心ここに在らずなのでそのまま挨拶するが依然として立ち尽くしたまま。変な謙ちゃん。


「部活遅れちゃうよ」

「っ!それはあかん!ってちょお待ち!自分いつの間に財前と仲良うなったん?!」


部活という単語にハッとしたのも束の間、肩を思い切り掴まれ光ちゃんについて問いただされる。思いの外謙ちゃんの力が強く、ぐえっと端ない声が漏れる。


「しかもなんやねん光ちゃんて!あいつ光ちゃんとかいう柄じゃないやろ?!」

「あ、いつもは光ちゃんって呼ぶと怒られるんだよ」

「はあ?ほんなら呼ばなええやろ!」

「ちょっと、謙ちゃん肩痛い」


掴まれた肩がミシミシいう。


「謙也!そのへんにしとき。苗字さん困ってんで」

「え?あ、名前ちゃんすまん!あかんわ俺頭冷やしてくるわ」

「おーおー部活遅れるんやないでー」


白石が謙ちゃんの腕をガシリと掴み制止するよう声を掛けると、我に返った謙ちゃんは謝罪した後走り去ってしまった。冷静さを欠いた謙ちゃんが少し怖くなってきたところだったので、白石の行動には助けられた。


「白石ありがとう」

「あいつ苗字さんの事になるとちょっと熱くなってまうねんけど許したってな」

「うん!意外と力強くて吃驚しただけ」


そうして軽く挨拶を交わして白石も教室を出て行った。
今日は成り行きで光ちゃんと帰ることになったので、テニス部の活動が終わるまで洋楽でも聴いて時間を潰そう。

日常が壊れる音がした。




_____
201905 お肉