可愛い先輩





最初は先輩の彼女。そんな印象。

部活が終わる頃になるといつも決まった場所で謙也さんを待っていて、そこに謙也さんが現れるとすぐに歩き出し楽しそうに帰っていく。それを眺めていただけだった。

面白半分に彼女扱いをすると困ったように否定してくるのが楽しくて、会う度にそうしてやった。でもある時から、謙也さんだけは否定しない事に気付いた。
色恋には疎いと思っていたから、それに酷く驚いたのだ。


「謙也さんの彼女やないですか」

「後輩くん!違うからね!」

「財前光」

「え?」

「名前。覚えといてください」


だから、別に邪魔しようなんて思った訳じゃない。先輩らの反応を見てみたくて、それをネタに揶揄えたらいいなって、そんな程度だった。

謙也さんの彼女(仮)は名前先輩と言うらしい。毎度毎度部活中にしつこいくらい名前先輩の話をする謙也さんのせいで覚えてしまった。
恋する乙女の顔ほんまキモい。

俺は嫌という程聞かされてるから名前を覚えてしまっているのに、その先輩は俺の名前を一向に覚えない。だから苛立っていた。そんな時だった。


「あ、謙也さんの彼女」

「ザイゼン!」


いつものように食堂へ足を運んだら普段見ない先輩がいて声を掛けた。それだけのつもりだったのに、彼女の口からやっと聞けた自分の名前に嬉しさが込み上げる。
もちろん顔には出さないが。

たったそれだけの事に無性に嬉しくなって、半ば強引に一緒に昼食を取ることにする。声を掛ける直前まで食い入るようにカレーの写真を見ていたので、これでいいだろうと持っていけば大当たり。そんな俺にキラキラとした笑顔を向けてくる先輩、それがまた嬉しくなる。

取っつきにくいと思われていたのは予想通りなので驚かないが、何よりも謙也さんの気持ちに全く気付いていない事には驚かされた。
これには同情っすわ。

気付いた時には名前先輩への興味が留まる事を知らなくて、謙也さんの邪魔をしてでも一緒に帰る約束を取り付けた。その帰り道。


「先輩って謙也さんの事好きなんすか?」

「好きだよ」


ずっと気になっていた事を聞いてしまって、その答えに頭をガツンと殴られたような衝撃を受けた。好きならなんで俺と一緒に帰っているんだ、意味がわからない。

でもその衝撃はすぐに柔らかい物で包まれた。普通に考えたら恋愛感情での話になるだろうに、名前先輩はすっとぼけたような表情で誤魔化す。そこで、彼女はこの手の話題が苦手なんだなと勝手に結論付けた。


「こういうのって恋人がやるもんじゃない?」


だから無理やり手を繋いでやった。恋愛感情に気付こうとしない彼女に嫌でも気付かせてやりたかった。
色々文句を言われるが上手く言いくるめて、挙句恋人がやるように指まで絡めてやる。そうしてチラリと先輩の方を見遣れば俯いた顔、でも髪の隙間から覗かせた耳がほんのりと紅く色付いていて、言い様のない気持ちになる。

ああ、俺先輩の事好きになってしもたんやろか。先輩は俺の一挙一動に照れてはるんやろか。かいらしすぎひん?


最初は先輩の彼女。ただの興味。
それがいつの間にか、俺の好きな人に変わっていた。




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201905 お肉