攪拌



もうすぐ中間考査。
一週間前から部活動が休止になるこの時期は毎日謙ちゃんと勉強していた。その筈だった。


「嫌や!俺は白石と勉強すんねん」

「じゃあ三人でやろうよ!白石もいいよね?」

「俺は構へんけど……」

「絶対にあかん!今回は絶対や!」


今まではいつも一緒にテスト勉強をしていたのに、今回はどうしても一緒にはやってくれないらしい。ちょっと傷付いた。


「分かった。もういい」


もう謙ちゃんなんて知らない。
帰りの挨拶もせず教室から飛び出した。今までは自分か謙ちゃんの家で勉強していたが、一人ならどこでもいいと図書室へ足を運ぶ。



▼▲▼





皮肉にも謙ちゃんがいないお陰でテスト勉強が捗ってしまった。もう辺りは暗くなっていてそろそろ下校時間だ。図書室も締まる時刻で、みんな帰宅したのか勉強していた生徒は私一人しか残っていない。


「名前先輩帰るんすか?」

「あれ、光ちゃんもテスト勉強してたの?」


帰ろうとすると光ちゃんが図書室の扉に寄っかかってスマホを弄っていた。


「ちゃいます。俺図書委員なんすけど、どっかの誰かさんがダラダラしよるせいで鍵掛けられないんすわ」

「え!早く言ってよ!」

「ま、先輩と二人きりになれたんでええです」


最近の光ちゃんはサラリとこういう事を言うので心臓に悪い。ただでさえ顔が良いのに、平気で恥ずかしい事言ったりやったりしてくるのはずるいと思う。


「照れてはるんです?かえらしいですね」

「この女タラシめ」

「名前先輩にしかこういう事言いませんて」

「そういう所がタラシなの!」


顔が熱くなる。
ニヤニヤした光ちゃんを見るに揶揄われていたのだと分かる。生意気が服を着て歩いてるみたいだ。
そのまま彼は私の手を取って図書室を出て鍵を掛けた。最近たまに二人で帰る時はこうやって手を繋いでいるが、やっぱり何となく釈然としない。

それでもまた今日も、二人で手を繋いで帰った。



▼▲▼





結局あれから謙ちゃんと気まずくなってしまい、毎日一人でテスト勉強をした。そうしてテスト期間が始まるが、どの教科もそこそこの手応えを感じる。良かった。良かったのだけれど、それは一人で集中できたからだ。決して楽しくはなかった。
テスト期間中は午前で帰れるので、もう帰ろうと席を立つ。


「苗字さん、ちょっとええ?」

「どしたの白石」

「テストの事で相談あってん」


毎回ほぼ満点の白石が私に聞く事なんてないと思うのだけれど。真剣な顔つきの彼にそんなことも言えず、ついオーケーを出してしまった。


「ここじゃ落ち着かへんし場所移動しよか」


そのままついて行く事数分、辿り着いたのはテニス部の部室。何故。
ちなみにこの間無言である。


「その辺適当に座りい」

「お邪魔します?」


部外者なのに立ち入ってもいいものか、と疑問符を付けたらなんやそれと笑われてしまった。


「ほんまは勉強の事やあれへんのやけど」

「あ、やっぱり?学年トップ常連だし違うとは思ってた」

「バレバレやったな。実は謙也の事やねん」

「え!謙ちゃん何かあったの?」


思わず椅子からガタリと立ち上がる。
勉強するしない問題で揉めて以来全然喋っていなかったし一緒に帰ってすらいなかった。それでも謙ちゃんの様子が気にならないといえば嘘になる。腐っても友達なのだ。


「あー、謙也は一旦置いといて、自分財前と付き合うとるん?」

「白石までそれ聞くの?」


初めて光ちゃんと帰った次の日から(まこと)しやかに囁かれていた噂話。光ちゃんは中学時代から大層モテているようで、女の子と二人で歩くだけで噂になるらしい。一々反応するのも面倒なのでスルーしてきたが、勿論真相を聞かれたら否定していた。
というか謙ちゃんの事は置いとくのか。


「光ちゃんとは付き合ってないよ。仲良しの可愛くて生意気な後輩」

「ふぅ〜それ聞いて安心したわ。なあ謙也?」

「は?」


部室の扉をガチャリと開けて入ってきたのは、最近疎遠の謙ちゃんだった。




_____
201905 お肉