1年-02
「チョロ松、現国の教科書貸してよー」
耳に入った声に、次の授業で使う教科書とノートを出そうと机の中に入れた手が止まる。そのまま何事もなかったかのように手を動かし、必要なものを机の上に出すと、携帯を取り出して特にやりたくもないアプリを起動させた。
「嫌だよ!絶対落書きするだろ!他の奴から借りろよ!」
「だって遠いクラスにわざわざ行くの面倒臭くない?」
「絶対俺は貸さないからな!落書きまみれの教科書とか使う気にならねーよ!」
「えー!?酷くない?そこまで言わなくてもいいじゃん!このクラスにチョロ松以外で知ってる奴なんて……あ、」
不穏な発言が聞こえた。聞こえたけれど気のせいに違いない。何故ならば六つ子と同小、同中出身の生徒が例えこのクラスに1人しかいなくても、その1人は今携帯に夢中になっているという設定だからだ。
「秋ちゃんじゃーん!チョロ松と同じクラスだったの?」
「おいやめろ!携帯弄ってるの見えないの!?っていうか俺の席と秋ちゃんの席そこそこ離れてるから!ここから声かけないで!」
「聞いてよー。チョロ松の奴が俺に教科書貸してくれないんだよね」
「秋ちゃんのところ行けって意味じゃねーよ!おいコラ長男!」
聞きたくもない声が近付いてくる。
影が落ちたと思ったら、声の主が携帯の画面を覗き込んでいた。
「なんだっけこれ。数独?楽しい?」
顔の横から先程から聞こえてきた声がする。ここまで近寄られるとさすがに無視はできない。
携帯の画面を消して、制服のポケットにしまい込む。
「なに、おそ松」
「あっ、やっと気付いたー?」
恐らくジト目になっているだろう私の視線を物ともせず、おそ松は何やら得意気に鼻の下を指でこすっていた。こいつある意味大物だよな。
「ごめんね、秋ちゃん。携帯弄ってたのに…」
「あー…いいよ、別に。ゲームだし」
想定範囲内だがやはりチョロ松まで来ていた。
ここに六つ子の中で関わり合いたくないコンビナンバーワンが出揃った訳である。勘弁しろ。
内心大荒れの私を余所に、おそ松チョロ松の問題児コンビは話を進めていく。本当に勘弁しろ。
「現国の教科書貸してくれない?忘れちゃってさー。チョロ松貸してくれないんだよね。ケチだよねー」
「ケチじゃねーよ!秋ちゃん、貸さない方がいいよ。変な落書きされるからね」
「俺、将来大物になるよ?今は落書きかもしれないけどそのうち価値あるものになるからね」
「そういうこと家以外で言わないでくれる!?恥ずかしいから!」
もうこいつらがいる空間だけ切り取れる特殊能力を今すぐ会得したい。切り取った空間をどこか遠くにテレポートさせる能力もおまけで欲しい。
私の席の前で騒がないでくれ。このコンビが揃うと碌なことが起きないという、小学からの経験から冷や汗しか出ない。パブロフの犬かよ。
「ねえねえ秋ちゃん、教科書ついでにテスト前にはノート貸してくれない?」
「嫌だよ」
「えっ、なんで?」
「当たり前だろ!何びっくりした顔してんだ!」
チョロ松の突っ込みには目もくれずに、おそ松は私に不思議そうな顔を向けた。
逆になんで私がノートを貸すと思ったのか小一時間ほど問い詰めたい。嘘、嘘です。こいつと小一時間も一緒にいるとか耐えられる気がしない。主に私のガラスのように繊細な心が。
「俺と秋ちゃんの仲じゃん」
「それほど仲良くないよね」
はーい!心労により私のハートがブロークン!これにて閉店ガラガラおしまい!
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