「どうして、ヒーローではないものが人を助けてはいけないのでしょう」

どうして、人は命に優先順位をつけることが出来るのだろう。
どうして、優先順位の低い命に対して変わりがあると思い込むことが出来るのだろう。姿形が違うだけで命であることは変わりないはずなのに、
沸騰した鍋から吹きこぼれそうになる疑問に口を閉ざした。その問いを誰かに問えるほど私は強くなくて、声を上げて問えるほど、問い続けることが出来なくて。
頭を下げて、謝罪の言葉で、疑問に蓋をすることしか出来なかった。







一匹の犬が死んだ。看板の下敷きになり、苦しみながら息を引き取る瞬間を私は見ているしかなかった。



白昼堂々の犯行、敵が暴れたのが原因だった。突然目の前に目も開けられない程の強烈な光に包まれ、耳を劈く千鳥の鳴き声が聞こえた。
穏やかな昼下がり、町には土曜日ということもあってか大勢の人がいた。次に目を開いた時、放射線状にひび割れたアスファルト。周囲には地面に倒れて動かない人達がいた。

その中心にいた男。ゆらりと立ち上がり高々と笑い始める。広間は恐怖と悲鳴が支配した。
異変に気付いたパトロール中のヒーローがすぐに来た。始まった戦闘と応援に駆け付けた他のヒーロー達が順番に戦闘に加わり、戦闘から溢れたヒーローは怪我をした人達を救出していく。


不意に一人の女性の声が聞こえた。



「 助けて 」

泣いていた人がいた。助けてという声が聞こえた。
その声に私の身体は動いていた。



「どうしました」
「シオが…シオがいない、のっ」
「シオ?」
「あの子が居ないと私だめなの、家族なのっ……私の…っ…、私の大切な…子なの、私はあの子がいないと…」

生きていけない。息を詰まらせながら訴えた言葉に胸を締め付けられた。目を怪我したのだろうか、閉じた瞼から血の筋が頬を伝っていた。
土埃で汚れた頭を抱き締めた。彼女を落ち着かせるように頭を撫で、ゆっくり問い掛ける。大丈夫です。大丈夫。そして、静かに問い掛けていく。


「どこら辺か分かりますか…?」
「……分からない、…ごめんなさい、私…分からないの……あの子がどこにいるか……っ」
「分かりました。大丈夫です、助けます。貴方の大切な子を…助けるから」


だからここで待っていて、貴方の大切な子を助けた後、貴方がいなかったらきっとその子も悲しむから。




「必ず、助けますから」



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