赤格子夕霧とヒーロー殺しステインは恋人同士ではない。
赤格子夕霧とヒーロー殺しステインは師弟というわけではない。
赤格子夕霧とヒーロー殺しステインは教祖と信者というわけではない。
赤格子夕霧とヒーロー殺しステインは一つの括りには纏められない。
だが、同じ視界を共有しながら、違う視点から同じ話をする。
この二人の形容しがたい関係の始まりは二年前のゴールデンウィーク。夕暮れ時の人気のない公園から。繰り返した邂逅と自答、そして言葉に出来なかった問答。真価を問うために向き合えば、片方が血を流し、片方が空を切るような思いをする。
だが、たった一度だけ。
初めて見せた赤格子夕霧の心にステインは静かに未来を観た。
「ヒーローとは、何でしょうか」
いつかその答えが見付かった時、お前は俺をどんな目で見るだろうか。
だから、ヒーロー殺しステインは赤格子夕霧が傍にいても刀を向けず、見詰める。
自身の持つ価値観と信念を否定せず、傾聴し、自身の信念へと成長させようとしている彼女を見つめている。未だに芽吹かない種が芽出し、蕾をつけるまで、守り続けようとする。
「誰かが正さねばならないんだ」
だから、赤格子夕霧はヒーローの娘だろうと、光の下を歩く人間であろうと。数多のヒーローを殺害し、他者の人生を終わらせてきた男。ステインを他人に差し出すことはない。世界に色を与え、言葉の熱で頬を濡らさせたのは彼だけだから。
赤格子夕霧を救ってくれたのは彼だけだったから。
ヒーローと呼ばれる者達に差し出すことはない未来永劫ないだろう。
敵とヒーロー娘。
二人はの名前もない関係は、気付けば一つの形になっていた。
誰にも知られることがない関係はきっとこの先も続くと願ってやまない。
開け放った窓から白い光が差し込んでいる。ボロボロのカーテンが小さく膨らんで、心地のよい風が吹き抜ける。頬を撫でた。時刻は朝の10時を過ぎていた、スマートフォンにはやはり着信はない。浴室から漏れるシャワーの音を耳にしながら、じくじくとした鈍い痛みの走る下腹部を撫でた。思い出しただけでも、羞恥心で泣きそうになった。
その時、浴室の扉が開き、ひたひたと足音が近づいてくる気配を感じた。白のタオルで頭を拭きながら、背中を向けて傍に座るステインさん。毛先からぽたりぽたりと雫の痕が床に残っていた。傷だらけの背中と真新しい引っ掻いたような傷跡。
少しの沈黙。起きていることに気付いているかは分からなかった。
でも、口を開いたのは私のほうだった。脈絡もない言葉だとは自分でも分かっていた。
「ヒーローになれませんでした」
静かに呟いた言葉、振り返ることはなかった。
「ヒーローになりたいのか」
「いいえ、でも」
助けたい、と思うことがありました。昨日のことを思いだし、自嘲するように穏やかに笑う。
身体を起した。流石に部屋の主を置いて一人寝ていることに気が引けたので身体を起すと走る痛みに再び蹲る。
それに気付いたステインさんが溜め息を吐いた。
「寝てろ」
「……っ…嫌です」
「今すぐにこれを剥がして、血を舐めることだって出来るんだが…?」
起きて動くという選択肢を与えられず、無意味な抵抗を止めた。
穏やかに流れる時間、二人しかいない部屋、開け放った窓の外からはなんの音もしない。
「、…ステインさん」
「なんだ」
「……ありがとうございます」
「なんのことだ、」
私ね、命を見殺しにしちゃったんです。救えなかったんです、私が弱かったせいです。ヒーローにはなりたくないです、でも助けたいという気持ちはあったんです。先日、私と同い年の子が敵に襲われました。同級生の子が無謀にも助けにいったそうです。それに感化されただけかもしれません。助けにいけば、貴方の見ている世界に近づける気がした。でも、そうじゃなかった。
貴方は弱い人間が許せない人。
それでも傍にいさせてくれる貴方にお礼を言いたかった。