臨時休校明けの学校は特に変わった様子はなかった。
B組は被害に遭うことはなかったが、やはり口々に発する話題は先日の襲撃事件のこと。A組のことだ。

入試試験1位通過の爆豪
推薦入学の��2ヒーローの息子の轟
聞いたことのある名前が数人

隣のクラスなのにみんなよく知ってますね。なんて思っていれば「そりゃ、体育祭でそいつらと当たるからな!」と言われた。そんなに分かりやすく顔に出てたかな。思わず顔を触って確かめてしまう。体育祭。確か二週間後だったようなと曖昧な記憶を手繰り寄せる。

この状態で開催していいものなのでしょうか。疑問を持てば、私達の心配は杞憂だというように例年通りに開催される。が警備は通常の5倍だとも説明され、安心して競技に集中してくれとのこと。

「期待してるぞ、お前ら」

担任の言葉に応えるように皆が頷く。
体育祭か、心の中で呟いた言葉を静かに咀嚼する。


 *  *  * 


もしも、己が愛した英雄がこの世界から消えてしまったと知ってしまった時、あの人はどんな顔をするのだろうか。抜け殻のようになり絶望するのかな。それとも、あの人が遺した世界の為、燃え盛る業火の谷にその身を投じるのだろうか。目の前に立ち竦む骸骨のような細身の男性。頭は私よりもずっと上にあり、その身に纏う黄色いスーツは丈はあっている筈なのに全身の幅があっていない。

ちぐはぐな格好。鮮やかな空色の瞳の男性の横顔に見覚えはない。でも、隣にいる男の子の身体から静かに滲み出す静かな蝋燭の火のような光には見覚えがある。
私は無意識にその名を口にしていた。平和の象徴の名前。二人は酷く驚いたように声を上げた。


「お久しぶりです、オールマイト」
「えッッ!!?」
「え!?」


振り返った男の子はヒーロー科の制服を着用していた。B組の人ではないので必然的にA組の人になる。雄英の制服は在籍する学科によって多少の違いがあり、そのデザインよってどの科に所属するのか判別することが出来たのですぐに分かった。

柔らかそうな癖毛はどこかあの人に似ていて、自然と笑みが溢れる。あの人の髪の毛はもっと硬いから違うかな、なんて思っていると慌てふためく二人に首を傾げた。


「あの、…えっと!?オ、オールマイトぉ!!?」
「いや、ちょっと待って!!入って話をしないかい!?」

促されるまま、とは言わずに半強制的に背中を押されながら前に進む私は仮眠室へと足を踏み入れた。
室内はやけに静かだった。防音が効いているのだろう、設備にお金をかけていると聞いているがこんな場所まであるなんて…。

「まぁ、座りなよ…。えっと、久しぶりだね赤格子少女」
「確か、去年のコンサート以来ですから一年ぶりかと」
「そうか、もうそんなに経ったのか。毎年ゴールデンウィークくらいしか話す機会がないからな。こうして向かい合うのは不思議な感じがするな」

オールマイトは急須の中に新しい茶葉を入れ、電気ポットのお湯がこぽこぽと音を立てて注がれていく。室内に仄かに広がる匂い。優しい緑茶の香りだ、どこの茶葉だろう。数秒だけ目を閉じて、その香りがどこのものかを探る。

「僕としては凄い二人がこんな間近で対談している姿を見れるなんて、記憶に焼き付けておかないと!」
「あ、あの…えっと、ずっと気になっていたのですが、どちら様でしょうか。A組の方とはあまり交流がないので、名前を知らなくて」
「緑谷です!」
「緑谷さん、赤格子です。ヒーロー科に在籍しています、隣のクラスなのであまり交流はありませんが宜しくお願いします」
「いやいや、二週間後に迫った体育祭では関わり合うんだからそんなこと言わないでくれよ」

「……あ、そう、ですね」
「?」

緑谷さんは首を傾げて、オールマイトはおいおいと困ったように笑っていた。歯切れの悪い台詞とどことなく曇る表情。私の性格を知っているための反応。申し訳なくなってしまう。

「で、いつから気付いてたんだい?寧ろ、どうして私がオールマイトだと?」

湯呑を私の前に置く彼の指はあの面影を残さない、枯れ枝のように痩せ細った男の人の手だと感じた。


「…迂闊なことを口にしました。平和の象徴という柱を背負っている貴方の存在に罅を入れてしまうようなことを」

そっと頭を下げる。貴方はきっとその秘密をどんな思いで隠してきたのだろう。暴くことの、暴かれることの恐ろしさを知っているくせに自分はこうも簡単に口にしてしまった。私の言葉は貴方の知りたい答えになっていないことは分かっている。しかし、これをどう説明すべきだろう。どこまで説明すべきだろうか。視線を伏せ、そっと瞼を閉じる。

オールマイト。あの人がこの世界で唯一、本物だと認めた英雄。己の愛を捧げ続ける存在。あの人にとっての世界の真実。あの人を生み出した存在。神にも似たような、存在。





「私の個性はご存知でしょうか」


先ず、そこから話始めよう。
静かに目を開け、あの空色の瞳を真っ直ぐに見る。届きはしない青空に手を伸ばした時のような、その青に怯えながら言葉を紡ごう。拙くて嘘の散らばる言葉を、あなたに。





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