「私の個性をご存知でしょうか」
赤格子夕霧の個性は『ステルス』
姿を消すことの出来る個性、それだけの個性。
情報が溢れかえる社会で彼女の個人情報なんて筒抜けだった。
誕生日、出身校、個性、経歴、コンサート出演回数、たった15年生きてきた彼女には沢山の説明文がつけられていた。
凄いなと尊敬したと同人に自分とは違う圧倒的な差に、静かにパソコンを閉じたのは懐かしい記憶だ。
ヒーローの娘に生まれた少女、はじめからヒーローになることを期待されて生まれてきた筈。でも、彼女はヒーローではない音楽家という道を選んだ。彼女を純粋に尊敬した。同時に嫉妬もした。君には沢山の未来があるのに、僕が欲しくて欲しくてたまらない個性を持っているのにその道を選ばず違う道を選んだことが、妬ましかった。
そして、もう一つ。三つ目の感情、君は眩しい人なんだって。君は強い人なんだって、ヒーローになるべき人なんだって、僕は思った。だって、君は他のヒーローが視界に入らなかった命さえも助けにいっちゃう人だったから。
でも、彼女は音楽の道から外れヒーローの道に戻ってきた。
これは四つ目の感情。
「おかえりなさい」
命を平等だと口に出来、それを実行できる人にヒーローって思った。
僕は君に憧れた。オールマイトに似た光を纏う赤格子夕霧に、自分は持ってない輝きを持つ彼女にどうしようもなく憧れた。
* * *
「君の個性は確か、ステルスだったかな。姿を消すってやつ」
「ええ、そうです。姿を消すというだけです」
その通りと言うように私は小さく頷く。
口元に手を当て、一語一句聞き逃さないというように耳を澄ませる。
ぶつぶつと唇が動き始めて数秒後、はっきりとした言葉を久しぶりに聞いた気がした。
「あの、それはどういう原理なのかな?」
「え?」
「赤格子さんは単純にそれを姿を消す個性というけど、その原理は?前提として、
『周囲の色に溶け込むことが出来る』のか。
『透明になれる』のか。
『相手の視界に入らないようになる』のか。
って色々考えられるけど、どれなのかなって」
ぽかんとする私に緑谷さんはすぐさま慌てて謝ってきた。
「ご、ごめん!!癖で!!気持ち悪いよね!?」
「いえ、純粋に凄いなと思って」
「え!?」
彼女から聞いていた。緑谷さんの噂、凄い分析能力を持ってるんだ。あれは一朝一夕で身につくものじゃない、小さい時から培ってないと出来ないことだよ。彼女は嬉しそうに笑った。
自分のことのように、自分の自慢だというように嬉しそうに私に話してくれた。なるほど、彼がその緑谷さんだったんですね。心の中で納得する。
「緑谷さんは一番どれが有力だと思いますか?」
「…僕は、透明になれるが有力なのかなって思う」
「正解です。私の個性はステルスというよりも透明化に近いものです」
「でも、それと私のことに気付いたのとは関係ないように思えるんだが」
「そうとも言えません」
「私自身原理は理解してませんが、自分の存在が希薄になるほど、透明になっていくほど周囲の存在を色濃く感じられます。体調、思考、感情、気配等」
「…出来ればもう少し詳しく聞いてもいいかな?」
これは口にしてもいいのか。緑谷さんの目が真っ直ぐにこちらを見ている、一瞬躊躇う。でも、ここまで来た以上言わなくてはならない。
私は、痩せ細った彼の身体に視線を移す。5秒、10秒、15秒、そして30秒。流れた沈黙の分だけ私の中に彼の情報が溜まっていく。気配とは生物が放つ感情だったり、霊的なものだったり、オーラとか言われるもの。いわば感覚的なものだ。個性ゆえにその感覚的なものが人よりも敏感である、それだけである。
右手で自分の肋骨を撫でた。目を見開く彼は、無意識に乾いた唇を薄く開く。
「ここ、とても歪に見えます」
オールマイトという器。左胸。肋骨部分、自分の身体なのにそこだけの感覚がないような。
ふと、隣にいた緑谷さんに視線を向けた。不安げな瞳、ゆらゆら揺れる炎は小さくて、誰かに守られないとすぐに消えてしまいそうな気配がする。不安。怯え。まだ先の現実なんだと、きっと受け止めていない。言葉を、言葉を変えないと。言葉を考えて、その炎の揺らめきを止めないと。
言えない、どういえばいい。どう言葉にすればこの人達を傷付けないで伝えられる。私は、この人達になんて言える。
「…全盛期に比べ、著しく身体能力を落としてしまうほどの大怪我をしてしまったんですね」
今はこれしか言えなかった。
そう、いうしかなかった。緑谷さんという存在がいる以上下手なことは口に出来ない。
いくら近い将来来てしまう現実が見えていたとしても、故意に伝えて何になる。オールマイトは絶対になくてはならない。気付いていたも、気付かないふりをしていればいいんだ。