雄英体育祭当日。通常の学校とは思えない出店やプロヒーローの存在を横目に更衣室に向かい、制服から体操服に着替えながら緊張しますね、という言葉溢す。
すると、同じように着替えていた友人達から同意の声がちらほら聞こえた。
笑い声、話し声、競技のこと、沢山声が聞こえる中で私は少しだけ安心した。
これは特別なことではないのだと。
「夕霧さんでも緊張するのですか?」
「……ここにいるのは音楽家の赤格子夕霧ではありません、皆さんと同じただの雄英一生徒です」
棘の生えた蔦のような髪を持つ少女。塩崎さんは私の緊張を感じたのか声を掛けくれた。
「学校の行事にまともに参加したのって初めてなんです。いつも学校側に参加はしないでくれと止められていたので」なんて言葉は言えなかった。
いつだって私の首に嵌められたものは、音楽家という首輪。それを外そうと思ったことはない、与えられたものに抗うつもりはない。
だけど、
「今日は頑張りましょう」
服を整え、とびっきりの笑顔を向けた。
塩崎さんもつられて笑ってくれた、塩崎さんは笑うと綺麗ですね。素直な感想に塩崎さんは少し赤くなって、頬を覆い隠した。
「夕霧先行くよ」
「はーい」
皆が着替え終わり、更衣室を出ていく中、髪の毛を束ねるリボンが上手く結べずに手間取る。
見兼ねた拳藤さんが手伝おうかとも言ってくれたが迷惑をかけるわけにもいかずに、鏡と睨めっこして3分。頭の上には黄色のリボンがちょこんと顔を出していた。
オールマイトさんの色。1年前のチャリティーコンサートで出演者に配布されたリボン。音楽家として舞台に立った時の証明。
今でもそれをつけているのは、オールマイトという平和の象徴に執着しているのではない。
「………貴方なら、見つけてくれるかな」
大勢の人間の中に埋もれた私を見つけてくれるかもしれない。オールマイトという光に引き付けられ、私を見つけてくれるかもしれない。
なんて淡い期待を込めて、さらりとした手触りの良い布を撫でる。
鏡に映る私の瞳は酷く静かだ。夜明け前の海辺を思わせる、緊張している筈なのにこんなにも表面に出ない人間だったのかと今更ながら知った。