超人社会にとって強個性を持つものがヒーローになるのは疑うべき道理ではなくなった。自分自身がヒーローになろうと思わなくても、それが当たり前のように周りが口にする。

「お前は将来ヒーローになるかもな」
「君は将来ヒーローになるかもれしれないね」

この中にどれだけの人間がその言葉で未来を決められてきたのだろう。

「お前の個性じゃヒーローになんてなれない」
「そんな個性でヒーローになろうと思ったのか」

この中にどれだけの人間がその言葉で未来を諦めてきたのだろう。
個性は発現する前はどんなに純粋な気持ちで居られたであろう。


「お前の個性、敵みたいだな!」
「悪い事し放題で羨ましいよ」


真っ先に悪用を連想させる個性は悪のようだと言われ、心を折られるだろう。
個性を発現させる前は純粋な気持ちで在れた筈だ。憧れを持てた筈だ。







「君はヒーローになんてなれない。だって、君は■■■だろ」

けれども、私の未来はきっとあの時から、決まっていたのだ。
個性を持っていようが持って無かろうが、関係はなかったのだから。










第一種目、障害物競走

狭いゲートに雪崩れ込み、出口を目指す。既にふるいに掛けられている。ここでどれだけの人数が落とされるのだろうか。

入試試験の際の仮想敵、ロボ・インフェルノと対峙する。だが、敵と言うにはあまりにもお粗末だ。己の身体能力のみで対処しなければならないというのなら、考えろ。自身の持っている手札で何が出来るかを。思考を止めるな。お前の身体に詰め込まれた全てで挑め。

誰かが壊した敵の残骸が転がるフィールドに落ちていた鋭利な破片は私にとって状況を有利に運ぶ武器となる。

腕を振り下ろした瞬間、地面に突き刺さった隙を逃さなかった。地面を蹴り、アームの上を翔る。空気が変わる。
密度の濃い空気ではない。熱気なんて感じさせない、日差しに混じった冷たい空気が頬を撫でた。

視神経を焼くような鮮やかな青。

最上まで登り詰め、そして―――――――飛ぶ!

空中で身体を翻し、正面からでは見えなかった関節部分。人間でいうなら頸椎に当たる場所に目を向けた。


「 動きを止めたいなら関節を狙え 」

どこか遠くから聞こえた声。頭で理解する前に反射的に狙いを定める。刃物一つ通さない装甲の隙間の、更に奥を狙う。

3階建てのビル相当の高さからの落下。着地すれば一般人ならば足を痛めるか骨が砕けるくらいの怪我をするだろう。でも、そんな軟な鍛え方はされていない。

タンッ!軽い着地音とすぐに次の動作へ。体勢を直し、走り出した。周囲に人はいない、前方には二つの影。氷と火花の残影。A組の二人。



私は走れる。走らなければ、追いつかなければ…!


その後ろで壊れた機械のように動きを止めたロボ・インフォルノは異物を挟んだことによる動作エラーに行動不能となる。
しかし、A組の八百万が放った大砲によりドミノ倒しで倒れてきた他のロボに潰される形でその役目を終えた。










「一位の奴圧倒的じゃんか」
「個性の強さもあるがそれ以上に素の身体能力と判断力がズバぬけてる」
「そりゃそうだろ」

あの子、フレイムヒーロー「エンデヴァー」の息子さんだよ。
ああー…道理で!オールマイトに次ぐトップ2の”血”か。

早くも相棒争奪戦だな!!

例年通り注目の生徒には、今後の未来を想像するかのように話が進む。期待に胸が膨らむ。ヒーローの息子である彼はどんなヒーローになるのかを。

だが、今年はその空気が少し違うようにも感じられた。


「しかし、雄英は何を考えてるだろうな」
「入学を希望して受かってるんだから、実力はあるんだろう」
「それでも、ヒーローの娘だからってヒーローになる必要はないのに」

「赤格子夕霧には音楽家としての未来があるのに、なんでヒーローなんか選んだかね」


観客席から零れる声に耳を澄ませる。画面に映る姿は他の生徒達同様に必死に上を目指しているにも関わらず、


「(赤格子夕霧の評価は未だブレず、誰もヒーローの卵として見ていない)」

誰も彼女の今までしてきた功績を評価しようとしない。
君は可哀想だね。誰も君の本当を見ようとしてないのだから。

流れるような黒髪を振り乱し、疾走する姿。頬を伝う玉のような汗、余裕のない表情。



「………あの時の君そっくり、」

小さな呟きは、実況者の声で消えていった。


君は”現代ヒーロー”として決定的に欠けているものがある。それに気付かない限りは君はヒーローにはなれないよ。



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