第一種目での順位発表も早々に終わり、次の種目に移った。
第二種目 騎馬戦
「赤格子ちゃん」
「依ちゃん?」
「組もうよ!」
中学時代、唯一出来た友達と呼べる存在。雪のような白髪と氷の断面を思わせる灰色とも青とも緑とも呼べる不思議な色の瞳の少女は笑顔で私の手を取った。明るくて眩しくて、オールマイトさんのような光を体現したような子という印象を受ける。
「後、あの子」
「知り合い?」
「全然!けど、なんとなくあの子が良い」
彼女が指差すのは紫色の髪の男の子と話す黒髪の女の子。普通科の二人。
その傍には数人の男の子が佇んでいるが、少し様子がおかしかった。目が虚ろで、心此処にあらず。大事な舞台である場所でどういうことだ。いや、確かあの男の子…第一種目で。
「(……あの個性、洗脳…?)」
以前に彼と似たような人間に鉢合わせしたことがあった。
いつもの帰り道。後ろから肩を叩かれ、振り向く。目が合った瞬間、視界がブレて平衡感覚を失った。橙色の地面を見ていることしか出来なくて、どこかへ人気のない場所に引き摺り込まれた。何をしているのか、理解出来なかった。冷たい地面に転がされて、丁寧に制服のボタンを外されていく。外気に触れた肌が粟立つ―――――――あの時、人が来なければ…。
思い出しただけで混乱する。一体何をしたかったのか、理解出来なかった。
何をされるか、その先のことを私は理解していなかった。誰も教えてくれない、その先のこと。
「赤格子ちゃん、大丈夫?」
「え?」
「普通科の灰被、宜しく」
「ヒーロー科の赤格子です」
「知ってる。有名だからね」
灰被さんは私とそんな身長の変わらない女の子だった。ざっくばらんに切られた髪とルベライトのような深紅の瞳。
物事を冷静に見つめることのできる人の眼だという印象を受ける。
「赤格子ちゃん、灰被ちゃんは顔こそ無表情だけど全然話しの分かる子だよ!」
依ちゃんに後ろから頬っぺたを伸ばされる灰被さん。されるがまま、抵抗しないまま「表情が出にくいんだ。これでも好意を込めて笑顔のつもりなんだ」握手でもする?と手を差し出される。
戸惑いながらも、そっと握ればその手は思ったよりもずっと温かかった。
「作戦会議をしよう」
協力的な姿勢。言葉だけではない、この人は本心で協力しようとしていると感じることが出来た。
* * *
結果として上位には食い込めなかった。
依ちゃんとの身長差を無くすために灰被さんは個性でジャンピングシューズを作った。細かい構造、バネの強さ、瞬時に発現させる知識の豊富さに感嘆の息を漏らす。
「でも、素材が全て鉄だから少し不利な部分があるわよ」
視線の先にはA組の金髪の人物がいた。確か彼の個性は放電のようなものだったような…。鉄と雷。相性が悪い。感電したらと、最悪のことを考えてしまう。
騎馬戦終盤、距離を置いていた轟チームの無差別放電の餌食となった。
放電される一歩手前、依ちゃんは宙へ飛び上がる。直感的に危険を感じ取ったのだとその時はそう思った。
放電の瞬間、宙に浮いた私達を灰被さんが個性を使って押し退ける。――――――騎馬が崩れた。
最悪は現実となる。
私の眼には見えた。糸のように切れそうな細い電流が灰被さんの右の指先から左足へ流れるのを。
先程まで見えていた命の残量が一気に減ってしまったのを。
地面に叩きつけられた彼女は微動足りともしない。
「灰被さん!」
すぐに駆け寄り、状態を確認する。
呼吸なし、脈も触れない。心臓が止まってるのだと理解するのに時間は必要なかった。
次にしなくてはいけないことは……!
AED、心肺蘇生、気道確保、他の応援を……!!
「少し、心臓が止まったくらいだ」
騒がないで、大丈夫だから。スゥ…、動かなくなっていた胸が膨らんだ。閉じていた目を開かれ、身体を起した灰被さんは両手を開いたり閉じたりを繰り返す。自身の身体の不備がないかを確認するような行為に「動かない方がっ…」慌てる私をよそに彼女は立ち上がり、身体を伸ばした。
「それ大丈夫じゃないでしょ」
「大丈夫。すぐに再開されてるから、血流障害も脳への損傷も今の所見られない。それに感電くらいじゃ私は死なないよ」
服についた土を払いながら、周囲を確認する。残り5分。参加資格を失った私達は他の選手の邪魔にならないようにフィールドの外へ退場する。
「それって自己判断で分かるものなの?」
「念のためにリカバリーガールの所にいくよ」
だから、そんな顔しないでよ赤格子さん。なんでもないような顔で笑う。
多分笑ってると思う、無表情だけどなんとなくそんな気がした。
「優しいね、赤格子さんは」
私にそんな顔してくれるなんて。
静かに零れた言葉。私には理解出来なかった。貴方が何故そんなこと言うのか。貴方が何を抱えているか。
理解出来ず、貴方が簡単に命を投げ捨ててしまいそうな程、冷徹な横顔に。
勝てなかったことへの悔しさを滲ませる変化のない表情に。
命はもっと大切にしないもダメだよ、って言いたかった。
誰も彼女が心臓を止まったことに気付かずに、競技を続ける異常さに背筋が凍る。手が震える。
誰も、死ぬかもしれないなんて思っていない。
いつだって生と死は紙一重で、隣り合わせだということに気付いていない。
私は間違っているのだろうか。
これはドラマでも、コミックでもない―――――――リアルであることを。