その日は星が綺麗な夜だった。
母の誕生日で、誕生日プレゼントは何がいいかな、おこずかいを貯めて靴下を買った。可愛いリボンのラッピングもしてもらった。
今日の夜、生まれたばかりの弟とお祝いして幸せに眠りにつく。そう思っていた。
外気に晒される体、息を吐く度に漏れる白い息とこぽりと音を立てて溢れ出す鮮血、反転する世界と見知った瓦礫に埋もれる自分に今の状況を理解する術はなかった。全壊した我が家、天井は破壊され夜の色が良く見える。あれ、どうしてこうなったんだろう。全身が火で焼かれたように熱く、お腹から血が抜けていくように冷たくなっていく感覚。嗚呼、どうしよう。怖い、怖い怖い、やだっ、しにたくない、死にたくないよ…。本能的に死を感じたのだ。
男が着物に身を包んだ母の首を締め上げている、爪先がつくかつかないかぎりぎりの高さ。
母の顔は見えないが足の指には一切力が入っていないのかだらしなく、宙を揺れている。それが何を意味しているか理解できない。でも、それが数分続き、男は母を投げるように捨てる。
―――――――視界に映り込む母の顔は苦痛に歪み、開いた口からはべろんと舌が飛び出していた。それは一体どういうことだろうか。簡単なことだ。
それは生まれて初めて見た他人の“死”
遠くで泣き声が聞こえる、弟の声だ。あの子を守らないと、この男から弟を守らないと…!
「……ッ…、…」
なのに、身体は言うことをきいてはくれなかった。
全身に突き刺さる数十本の大小様々な刃物、医療用メス、銀食器に使われるナイフ、料理用の包丁、日本刀等々。特に酷いのは足を縫い付けるように骨を砕き、地面を深く貫くサバイバルナイフ、悪意。完全に、安全に、確実に殺すという意志を感じ、恐怖する。
流れ出す血の量はまるで雨上がりの水溜りのように私の姿を映し出す。死の足音が近づく、ぴちゃり、ぴちゃり、本当に水溜りでも踏むような音がした。
「継の娘がまさかの”無個性”か」
高くもない低くもない、けど幼さを感じさせる声は背筋を凍らせた。
この男がした行為よりもだが、まるで子供が蟻を踏み殺すような無邪気さが見えたから。
「あーぁ、折角継のやつを見つけてやってきたのに。もう、次のあいつを見つけるのも大変なのにな」
ぷぅ、と可愛らしく唇を尖らせる動作は子供のよう。数秒何かを考える素振りを見せて、
そーだ、いいこと思いついた。笑って私の首を掴んだ。
ぶちっ、ぶちぶちっ、ナイフに貫かれた私の体を力任せに引き抜き抱き上げる。
溢れ出す血が夜空の下に足跡を作る。そっと降ろされた先は、柔らかなベットの上、男は私の上に跨り、無邪気に見下ろした。
何をするのか想像できなかった、どうして、何をするの…?
星が綺麗な夜だった。
見上げた先の美しさと現実とはかけ離れた現実に涙が零れた。まるで、フィクションだ。
弟の泣き声が響く、耳に残る。
ごめんね
その夜、私は星に手を伸ばすことを止めたんだ