この世界の仕組みの話をしよう。

事の始まりは中国。”発行する赤子”が生まれたというニュースだった。
以降各地で超常が発見され、原因も判然としないまま時は流れる。
いつしか『超常』は『日常』に 

    『架空』は『現実』に

世界の総人口の約八割が何かしらの”特異体質”である超人社会となった現在、混乱渦巻く世の中で、かつて誰もが空想し憧れた一つの職業が脚光を浴びていた。

「職業ヒーロー。超常出現より爆発的に増えた犯罪件数、取り締まるにも法律が追いつかない中、勇気ある人々がコミックさながらにヒーロー活動を始めたのが始まり、だっけ?」

ヒーローは世論に押される形で公的公務になり、ヒーローとなったものは国から活動に応じて収入を。人々から名声を得た。超常が日常となった今、特異体質は”個性”と呼ばれるようになり、ヒーローの絶対条件は個性持ちであること。自身の個性を用いて悪を打ち砕く存在であること。助けを求める人がいれば、どんな状況であったとしても助け出す。それがヒーローというものらしい。

「そういう認識で良かったんだっけ?」
「本当に銀憑さんはヒーローについて何も知らないんだね」
「うん、興味がなかったからね」

この超人社会で約八割が”個性”持ちであるなら残り二割はなんの超常を持たない”無個性”と呼ばれていた。
そして、緑谷出久君と私、銀憑依はその二割の中に含まれる”無個性”と呼ばれる人間だ。

人は生まれながらに平等ではない、それを齢四歳で知るこの社会。
それは普通に生活していても、無個性というレッテルを貼られた人間は何者にも成れないという社会であることを意味した。「僕さ…オールマイトみたいなヒーローになりたいんだ」恐れ知らずで、困っている人を笑顔で助けられるヒーローになりたいんだ。自嘲する笑みを浮かべ、ポケットから取り出したスマートフォンでとある動画を見せてくれた。

それは古い動画、昔起きた大災害直後の一人のヒーローのデビュー動画だった。
凄惨な現場、画質の悪い動画だが轟々と燃え盛る炎、崩壊した建物の下には幾人もの人が埋まり、助けを求めている。薄っすらと現れた歪な影、段々と濃くなっていくシルエットに撮影者と思われる男性も声を上げた。その光景に涙を溢して、喜びを露わにする。雑音が混じる音声、画面の先にいた男は高々と笑い誰の耳にも届くように

『もう大丈夫!何故って!?』

全ての人を救う男

『   私が来た !!  』

その名はオールマイト
言葉には力が宿る。まさしく、この男はそれを体現しているようだった。



画面を見つめる緑色の瞳、縋るように紡ぐ言葉。
憧れて、憧れて、追い求めている理想のヒーロー。いつか自分もこんな風になんて願い続ける緑谷君に私は―――。

「こんなカッコいいヒーローに僕も……」
「君には無理だよ」
「!」

緑谷君は目を見開いた。

「そ、う……だよね……」

助けを求めて伸ばした手を振り払われたような感覚になったのだろう。
ガチガチと震える奥歯、呼吸が出来なくなり喘ぐように絞り出した声、これ以上言葉を吐き出せばきっと耐え切れず叫び出してしまいそうになるのだろう。緑谷君は血が出るくらい唇を噛み締めていた。
私は飲み干した紙コップを近くのごみ箱に捨てた。

そして、俯く緑谷君の顔を掴んで上を向かせる。
私はとびっきりの笑顔でこう言ってやった。



「だって緑谷君、君笑ってないじゃない。カッコいいヒーローは常に笑ってるんだろ」



ALICE+