ゆうこはいつも俺に遠慮する。
俺はゆうこの醜い部分だって見たいし受け止めてあげたい。
それなのにゆうこは何時だって俺に遠慮をしてわがままをなるべく抑えつけようしていた。

「ゆうこ、もっと我儘を言ってくれないか」
「我儘だなんて、そんなものはないのに」
「君は俺に遠慮しすぎている」

俺だけがゆうこを求めているような焦燥感に駆られてしまう。
俺はゆうこを必要としているのに、ゆうこは俺を必要としていない。
そんな風に思えて仕方なかった。

「俺が頼りないからなのか?」
「そうじゃないよ」
「じゃあ何故君は俺に遠慮するんだ」
「私が自分のことをあまり語りたくないことを知ってるのにそんなことを私に言わせようだなんて、赤司くんは酷い人だなぁ」

ゆうこはクスクスと笑って言った。
このままゆうこがどこかへ行ってしまうような気がして俺は握った手に力を込めた。

「赤司くんはかわいそうな人だね」
「…どうして?俺はゆうこと居れて幸せだし現状に何の不満もない」

俺が可哀想?
どこをどう見れば俺を可哀想だなんて思うんだ。
この俺でもそのゆうこの言葉は流石に理解出来なかった。

「今の赤司くんは私みたいな平凡な女のご機嫌をとろうと頑張っているように見えるよ?」

俺が…?
別にゆうこのご機嫌を取ろうとなんて思っていない。
その筈なのに自分の言動を振り返ると確証を持ってゆうこのご機嫌を取ろうとしていないと言うことが出来ない。
矛盾する自分自身に、俺は言いようもない無力感を感じていた。

「もっと私に対して自信を持ってよ赤司くん。赤司くんは私の中の赤司くんを過小評価しすぎてるよ」
「俺はゆうこがそんなことを考えているとは思わなかったな」
「ふふっ、今まで隠してきたからね」

ゆうこは柔らかく微笑んだ。
何故かゆうこに負けてしまったような、適わないような気分になってしまった。
俺の心の内側が剥がれ落ちる音がした。

「赤司君は脆い人だね。すぐに壊れてしまいそうだよ」
「……ゆうこ、」
「いつか、いつか本当に壊れてる日が来てしまうのかもしれないね」
「…そんな、ことはない」
「そっか。赤司くんがそう思うならそうなのかも」

ゆうこは俺の手をぎゅっと握っていた。
何故か俺は動悸と冷や汗が止まらずにただただゆうこの手を握って歩くことしか出来なかった。
ゆうこが何故突然こんなことを言い出したのか、それを俺は理解することが出来ずにいた。

「でもその時が来ることは宿命だと思うよ」

ゆうこははっきりとそう言った。
なんの確証があるのかは知らない。
彼女が本当に何を思っているのかも知らない。
それでも彼女は前を真っ直ぐ見てそう言った。

「その時赤司くんが私を覚えていてくれたらいいなぁ」

ゆうこは目を細めて、地平線に沈もうとしている太陽を見ていた。
俺は何も言えずにゆうこを見た。
はっきり否定するべきだと分かっていたのに何も言えずにゆうこを見た。
自分の行動に疑問を持ちながらもそれを変えることが出来なかった。
自分の中で何かが変わっていること、そんなことは自分でも自覚していない。
それなのにどうしてゆうこは、

「明日も会えるといいね、赤司くん」

ゆうこが赤司くんと呼ぶ人物はこの世で俺一人しかいないのに、俺は明日も会えると言える自信すらなくなってしまった。
明日、ゆうこに会っているのは俺ではない俺かもしれない。
それでも彼女が俺を捨てないでいてくれるのなら僕は

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