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毎日映画の撮影漬けで死にそうだ。
青春な恋愛映画なんて自分が演じていいものだろうかと毎日思いながら撮影に挑む。
手にしたペットボトルを弄りながら、ゆみか達と早く遊びたいと思いを馳せる。
角名達が頑張ってるインターハイを見に行くためにも、自分と相手役との撮影を最速で終わらせる必要があるのだ。
「蘭ちゃん何か気合入ってるね」
「そうですか…?」
「うん。俺も引っ張られるぐらい」
「じゃあ一緒に頑張りましょう」
稲荷崎とは違う制服を着て、私はまた純粋で一途な女の子になる。
私とは違う人間になることは楽しい。
色んな人間の人生を歩んでいる錯覚すら覚える。
「あなたのこと、ずっと忘れない……だって、だって好きだから!」
役に入り込む頭の隅っこで、こいつならどう考えどう行動するだろうかを考える。
一途な女の子は、告白した相手に涙など見せない。
笑顔が自分の武器だと知っているから。
自分が一番好きになれないタイプの女だ。
『インターハイ会場に来ました』
『ホンマ?!どこおるん?!』
『入口…』
『どこの入口か聞いてんねん』
今期最もNGを出さなかった私を誰か褒めてくれ。
映画の撮影も何とか早く終わって、その後に控えていた雑誌の撮影も前倒しでやってもらえた。
ありがとうございます本当に申し訳ございません。
マネージャーに車を回してもらって、私はここにやってきた。
まだ我が稲荷崎が試合をやっているらしいではないか。
鉄朗は昨日負けたらしくて滅茶苦茶落ち込んでたから慰めておいた。
膝枕をしてやるとそのうち眠ってしまったのだから可愛いもんだ。
やべえ私だけ制服じゃねえ、と気付いたのは会場に入ってから。
名物の稲荷崎の応援をしている生徒たちは当然のように制服を着ていた。
学校からシャトルバスで来たから当たり前だけど…
かくいう私の制服は実家にある。
鉄朗家に持ってきてすらいない。
なんなら今来てる服だって撮影で着たものをそのまま買い取って来た。
着替える時間すら惜しいと思うほどに私は急いでいた。
髪は適当にばらしてぼさぼさにした。
申し訳程度にカラコンだけ車の中で入れた。
あと左目の涙黒子もコンシーラーでゴリゴリに消した。
これでバレたらもう面倒なことになる。
まあ、誰も私だとは気付くまい。
『端っこの席の前の方にいる〜』
写真付きでゆみかにメッセージを送ると、応援団の中の一人がこっちを向いた。
そしてそのまま私の方まで移動してきた。
「あんたアホなんバレるで?!」
「急いでたの〜しょーがないもん」
「ホンマにバレても文句言えへんでこれ」
「誰も私が天野百合だとは思わねーよ」
「せやけど久世蘭がここにいるってバレたら面倒やで」
「大丈夫!カラコンをしてきました」
「顔で分かるわボケ。化粧バリバリしてるやん」
バレーボールが主役のこの空間では私もみんなもただの観客に過ぎない。
ふと、ちょっと離れた稲荷崎の応援団が大きな歓声を上げたのに気付いた。
稲荷崎が逆転したらしい。
フルセットだからか、稲荷崎も対戦校も応援には力が入る。
「角名あああ!!!頑張りなさーい!!!」
「侑ううう!!!きばりやああ!!!」
なんだかこっちも興奮して、席を立って暴れるみたいに応援した。
ふと、角名がこっちを見たような気がした。
手を大きく振ると小さく笑われた。
「笑ってんじゃねーよぉ!!」
そんな風にバカやってるうちにサーブが放たれてプレイは続いた。
バレーは勉強したけどやっぱりわからない。
ただバレーをやってる彼らを見るのは楽しい。
掻き乱される。
もっと、ずっとこの景色を見ていたいと思わせてくれるのだ。
そのうちに試合は稲荷崎が勝って、私達は抱き合いながら踊った。
「あーよかった」
「ホンマに焦ったわ。こんなとこで負けたらしばいたろか思ってたわ」
「鬼教官かよ」
「角名達のお祝いしに行くで!」
「イエッサー!」
ゆみかの後ろをトボトボと着いて行く。
知らない場所なのになんでこんなにスムーズに歩ける…?!
いや、前の試合の時も来たのか…
こういう時にどうでもいいことを考えてしまうのは悪い癖だ。
「藍田……と天野!」
「やっと百合も来れたわ」
「やっとこさ来ました」
「天野!何で毎回おらんのや!東京で何してんのや!」
「金になるカブトムシを探してるってことにしといてくれ」
「なんやそれ」
侑はいつもの調子だ。
いつもの調子すぎてこちらがビビる。
「あれ、天野」
「角名さっき笑ったでしょ、見たからね」
「ジャンプしながら手足バタつかせてる人いたらそりゃ笑うでしょ」
「俺見てへん、今やってや!」
「心が追い付かないから無理…」
角名も何かいつも通りだ。
そんなに時間は経ってないのに何だか凄い久しぶりな気がする。
「…おかえり」
「…うん」
東京なのに何でおかえりなの、とかどこにおかえりだよとか、あんたは私のママか、とか色々思ったけど、何故か笑ってしまった。
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