五月といえどもまだ少し肌寒い。
その日体育館に集まったのは相当なギャラリーだと思う。
試合前に体育館裏に呼び出された。
勿論天野と藍田に。
北さんに見つからないようにそそくさと体育館を出た。
双子が俺を見ている気がしたけどそれは無視しておいた。

体育館裏に行くとダメージジーンズにジャケットを羽織った女がいた。
キャスケットを被っているからあまり顔は見えないが、多分天野だ。
黒いヒールを履いているからいつも以上に背が高い。
他に人がいないから天野だと思えるが、人混みに紛れたらわからないかもしれないぐらいには自信がない。
初見でモデル…?と思ったことは誰にも言わないでおこう。

「…天野?」
「角名!遅いよ〜」
「ごめんごめん。藍田は?」
「あいつトイレ行きやがったタイミング悪いあとでしばく」

こいつってこんなにスタイルよかったっけ…?
毎日見てても気付かないもんだな。
キャスケットの下からはおもっくそ不機嫌な顔が見えた。
その表情はいつもふざけているときと変わりはない。
ほらこれ、とでかい袋を手渡された。

「10秒チャージのやつじゃん」
「5秒でチャージしな」
「無茶言うな」

結構重いぞこれ。
二人でこんなに買って来てくれるとは、意外と気が利くな。

「コレ渡しに来ただけだから。皆さんさんに配って下さいよ」
「ありがたく受け取ります」
「じゃあ私そこら辺から見えたら見てるから」
「そこは見ろよ」
「バレーのこともちょっと勉強してきたんだぞ!」
「偉い偉い」
「だろ〜?んじゃ頑張ってきてくれ〜」
「おー、ありがとう」

天野は親指をビシッと立てて観客席に向かって行った。
その後ろ姿を少し見送ってから俺も急いでコートに戻った。
貰った差し入れを北さんに渡すと「最初からそう言えばええのに」と言われた。






練習試合自体はそつなく圧勝して終わった。
途中で天野と藍田が手を振って来たから無反応でいると怒っているのが見えた。

「角名って天野さんと藍田と仲ええんやな」
「…何で?」
「手ぇ振られてたやん!」
「あーまあまあ仲いいんじゃない」
「藍田はたまに絡むけど天野さんは大人しいから絡んだことないなあ」

いや、あいつ全然大人しくはない。
静かにボケて冷静にツッコむタイプの人間だ。
しかもあいつ試合中に10秒チャージを落としかけた俺の真似を藍田に披露して立てないぐらいに爆笑させてた。

しかしあいつのスタイルの良さには高校入って一番驚いた。
制服じゃあスカート長いし、ジャージも大体長ズボンにだるいTシャツだから分からなかった。
侑が天野と藍田について質問攻めにしてくるが、俺はそんな大層なことを知っている訳じゃない…
北さんが「角名の恋路を邪魔するつもりか?」と言っていたが俺達はそう言う関係じゃない。


「あ!久世蘭ちゃんや!」

双子と銀島で帰っていると侑が斜め上を向いてそう叫んだ。
釣られて同じ方向を向くと有名な清涼飲料水の宣伝が目に入った。
軽く水に濡れた久世蘭がこっちを向いて微笑んでいた。
特徴とも言えるヘーゼル色の瞳と左の涙黒子が綺麗に写っていた。
久世蘭は俺達の世代では知らない人がいないほどの女子高生モデルで、女優だった。
多分俺達みたいなふつーの高校生には想像もつかないような生活を送っているんだろう。

「角名、どっちかと付き合ったらすぐに教えるんやで」
「なんでだよ」



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