天野が水分補給をしに行ってからしばらく戻ってこないことに気が付いた。
あいつのことだからすぐに戻ってくるはずなのに…おかしい。
大仏チャレンジをしている侑と藍田を横目に俺はプールを出た。








「…大丈夫?」
「…あー、ちょっと休めば大丈夫だから」

給水所に行くと日陰で天野が体育座りをして俯いていた。
キャップを脱いでいたからいつものように髪に隠れて、こちらに向いた顔もハッキリ見えない。
ピンクのゴーグルだけが物寂し気に地面に干されている。

「本当は朝から体調良くないでしょ」
「え、何でバレた」
「…わかりやすいよ、お前は」
「これでも演技は上手い方なんですけどー」
「もう喋んなくていいよ」

不満げな顔をされたが、天野はすぐに口を閉じた。
天野の隣に腰を下ろすと天野は静かに俺の肩に頭を乗せた。
蝉がただただうるさくて、人の声はぼやけたBGMのようだった。
プールを楽しみすぎてる同級生は水分補給なんて忘れているようだ。
俺と天野だけがこの世界にいるかのような錯覚すら覚える。
しばらくして、天野がゆっくりと口を開いた。

「角名ってバレーしてるとかっこいいんだね」
「それって褒めてる?」
「どうかしらねえ…吉田さんもカッコいいって言ってた」
「あー…吉田さんはめっちゃ俺のとこ来るけど、別に俺は好きじゃないから」
「ふうん…」

天野はつまんなさそうにそう呟いた。

「よーし、何か元気でてきた」
「今の会話のどこに元気要素あった?」
「一限居眠りして起こされた角名思い出したら元気出た」
「おい」

天野は立ち上がるとゴーグルを洗った。
ビシッとゴーグルを着けるとプールガチ勢が完成した。

「角名、私は必ず高3の春高を見に行く」
「…どうした?」
「何が何でも角名の高校生活最後の雄姿を見届けてやるっつってんだよ」

しゃがんだままの俺を指さして、天野はそう宣言した。
何で、とか何でこんな時に、とか何でこの格好で、とか色々疑問は浮かんだけど、何故か取りあえず笑ってしまった。


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