9
「百合ちゃん元気かい?もう最近テレビで見てるだけだから寂しくてねえ」
「私も会えなくて寂しかったです〜!一ヵ月お世話になります!」
大きなキャリーケースを引っ張って来たこの女は夏休みの間俺の家に居候してくる。
ただの親戚だが、まあ仲は良い方だ。
奴は隣の部屋で荷物整理をしているらしい。
ゴソゴソという音を聞きながら漫画を読む。
しばらくするとバタバタと近付く足音が聞こえてきた。
「…鉄朗でけーな」
「これでもバレーやってるんで」
「知ってる男みんなバレーやってるのは気のせいか…?」
「お前彼氏でも出来たのか?!」
「出来てねーよ」
何だか面を合わせての会話が久しぶりで、意味もなく笑ってしまった。
こいつに最後に会ったのは中学の頃だ。
同じ学校に通っていたが、芸能界での仕事が忙しくなってあまり学校では見なかった。
たまに家に来てゲームして帰って行くぐらいだ。
「百合の知り合いって誰?俺知ってるかな」
「角名倫太郎と宮侑っていうんだけど」
「知ってるわ。挨拶しとこ」
「鉄朗すぐ喧嘩売るからやめて」
「紳士だから売りませんヨ」
「うさんくせー。クソ使えない商品売り込むセールスマンかよ」
そう言いながら百合は持ってきていたゲームを起動し始めた。
どうも俺の周りにはゲーマーが多い気がする…
「つーか、お前体調とか大丈夫なのかよ」
「何とかやってますよ。学校も楽しいし」
「高校はちゃんと通えそうでよかったな」
「うん。友達のおかげかな〜」
「久世蘭ってことはバレた?」
「女友達には」
「え?!」
「でもすげー良い奴だし辛い事とかわかってくれて助かってるよ」
「…そりゃよかった」
まさか親戚から芸能人が出るとは夢にも思っていなかったが、現実はこうだ。
こいつは今をときめく現役女子高生女優。
やっくんとかリエーフが滅茶苦茶騒いでいた気がする。
「鉄朗こっち向いて」
「ん?……って急に写真とかどうしたんだよ」
「角名達が見たいって言ってる」
角名倫太郎や宮侑とはうまくやってるみたいだ。
しかしこいつが本当にテレビの人間っていうのは未だに信じられない。
俺のなかでこいつはまだただのお調子者なのだ。
勝手にゲームを始めやがったこいつはいつもと変わらないただの天野百合だ。
ALICE+