その日は夜も遅かったためとりあえず寝ることになった。
凉夢にスウェットを借りた尾形は部屋のソファーに体を沈めた。
森の中で野宿をして、鹿に挟まって眠ったあの頃を少し思い出した。
自身の目に銃を突き立てて打ったあの時、自分は死ねなかったのだろうかと尾形は考える。
そんなはずはない、自分は確実にあの時死んだのだ。




「おはよう、眠れたかな」
「ああ、おかげ様で」

短いズボンに半袖シャツを着た凉夢を見て尾形が驚く。
凉夢の体の至る所には傷跡があった。
不死身の杉元を連想させるほどに凉夢は傷を負った人間であった。
凉夢は朝食にシリアルを尾形に提供し、自分も食べ始めた。

「殺し屋というのはこの時代になると一般的な職業なのか?」
「まさか。この世界は4つに分かれていることから説明しようか」

凉夢がこの世界の仕組みを説明すると、尾形は目を見開いて驚く。
凉夢は4つの世界について説明すると、次に自分の所属する匂宮雑技団について説明を行った。
誰であり何であり依頼があれば何だって殺す、それだけだと凉夢は言った。
生まれながら殺しを定められた人間と尾形は初めて出会った。
自分の悩まされた罪悪感というのをこの人間は感じたことはあるのだろうかと、ふと疑問に思う。
弟と妹がいると凉夢は呟く。
妹は殺され、弟はまだ生きているがもうすぐ自分と共に死ぬだろうと凉夢は言った。

「お前、死ぬのか」
「私と出夢如きでは暴走した人類最終には敵わんさ。まあそこが私と出夢の引き際っていうだけだ」
「…怖くないのか」
「死ぬのが怖かったらこんな仕事していない。人間というのはいつか死ぬ。自分で納得できる命の使い方をしたいんだよ」

妹の仇討ちなんて最高だろ、と凉夢は笑う。
笑えない尾形はようやくシリアルに口をつける。
溶け出した砂糖で牛乳が少し甘い。

昨日初めて凉夢と対峙したとき、その殺気に尾形は思わず怯んだ。
鶴見中尉とも杉元とも違う、確実に殺すという意思がそこには潜んでいた。
殺気で体が震えたのは初めてだった。

「さあ、次は尾形の事を教えてくれ」

違う時代の殺し屋の女であれば何を話したっていいのかもしれないと尾形は思った。
まずはアイヌの金塊について説明を行った。
いつの時代も金は人を狂わせると凉夢は思考する。
自分の知る限りの事の顛末について説明すると凉夢はふうん、と返事をした。

尾形は次に花沢家について説明する。
自分の生まれについて、母殺し、父殺し、そして勇作殺しについて。
凉夢は静かに、時に相槌を打ってその話に耳を傾ける。
話をしながら、自分はどうすればよかったのだと尾形は思う。

「表の世界の人間は罪悪感というのがあるから大変だな」
「やはりお前にはないのか」
「殺人に対しては全く。人が死ぬのが当たり前になりすぎて妹が死んだ時もそうか、と思ったぐらいだ」
「…それでも仇討ちするんだな」
「それが私の引き際だと思っただけだ。所詮私たちは殺しでしか自己表現できないんだよ。私は表の人間が羨ましい。生きている理由がたくさんあっただろう」
「……」
「私は死ぬ理由をいつも考えているよ」

こんな考え方がったのかと尾形は感心した。
凉夢はシリアルをおかわりしていた。

「尾形は自殺したんだろう」
「…なぜわかった」
「どうしようもなくなれば、もう死ぬしかない。私ならそうする」
「…その通りだ」
「大変な時代だったな。お疲れ様」

尾形は自身の死について話していなかったが凉夢は言いあてた。
明治時代は今とは考え方が異なり、家柄の重要性や男尊女卑などが当たり前であった。
世界の前提が違えば個人の考え方もここまで変わるのか。
凉夢の言葉に尾形は何となく救われた気がした。

凉夢はスピーカーで音楽を流し始めた。
明治にはない雰囲気の曲だと尾形は耳を傾ける。
もう2度と聞くことのない歌の歌詞が耳にこびり付いて消えなかった。



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