次の日、凉夢が起床したのは昼を過ぎてからだった。
尾形はそれよりも数時間前に目覚めていた。
テレビを見て、いつものシリアルを食べていた。
昨日帰宅した際にリビングは好きに使っていい、勝手に何を食べてもいいと凉夢に言われていた。
尾形はこの生活に慣れてきていた。

「随分遅かったな」
「ああ、出夢と連絡を取っていて」
「弟か」
「そう、明日来るみたい」

凉夢は尾形の隣に座り、シリアルを食べ始めた。
凉夢が食べ終わると尾形は2人分の食器を洗い始める。
凉夢はふらりと自室に戻り、それから数時間そこから出てきやしなかった。

「おい」
「…、ああ悪い。暇だったろう」
「俺にも何か手伝わせろ」

尾形がこう言うとき、引かない男だということを凉夢は理解していた。
2人は黙って目を逸らせずにいたが、1分程が経過したところで凉夢が降参とばかりに両手を挙げた。

「じゃあそのナイフのグリップを替えてくれ。ここにある」
「わかった」

ナイフと新しいグリップを渡し方法を説明すると、尾形は器用にそれをやってのけた。

「明日、死にに行くんだろ」
「ああ。でも帰ってくるよ」
「死ぬんだろう」
「死んでも帰ってくるさ。尾形が消える所を見届けないといけないだろう」
「はは、お前実は本当に馬鹿なんだろ」
「私がそうしたいだけだ。破らない約束はしない」
「…楽しみに待っててやるよ」

ナイフを研ぎながら凉夢は言う。
それからは各々が作業する音だけが部屋で漂っていた。












「終わった!飯にしよう」
「ああ」

それから数時間して、ようやく凉夢の明日の準備が整った。
凉夢は立ち上がり冷蔵庫を覗く。

「餃子を焼くぞ」
「初めて食べるな」
「ニンニクは控えめだけどおいしいからな〜ビールでも飲んで待っててくれ」

尾形は冷蔵庫からビールを出して、缶のまま口をつけた。
餃子が焼ける美味しそうな匂いと音が部屋を満たした。
テレビからは相も変わらず下らない映像が流れている。
この時代で、普通に生まれて普通に育って普通に働いている人間は、こんな風にどうでもいい取るに足らない日々を過ごしているのだろうかと、少し熱くなった頭で尾形は考える。

「出来たぞー」

大きな皿に餃子が数え切れないほど乗っている。
凉夢は白米をお椀いっぱいに盛って食卓に出した。

「醤油にちょっと付けて食べるんだ。こっちの酢胡椒に付けても上手いんだよな…まあ好きに食べてくれ」
「ああ」

凉夢が1つ食べたのに続いて、尾形も箸を進める。
野菜と肉のバランスが絶妙で、いつも通り美味しく仕上がったと凉夢は満足していた。
餃子の皮は少し厚めでモチモチしているのが特徴だ。

「既製品か?」
「いや、1度で大量に作って小分けにして冷凍庫にいれて凍らせてある」

うまい、と尾形が思わず洩らしたので凉夢はドヤ顔で応えた。

「尾形は好きな料理とかある?」
「鮟鱇鍋だ」
「あーうまいよね、特に冬の鮟鱇は最高だよな」
「お前はこの餃子ってやつが好きなのか?」
「そうなるのかな、でも仕事の前にはいつも食べちゃってるな」

凉夢は自分の事ながらよく分からなかった。
殺しの前日に餃子を食べることはいつからか習慣になっており、好きだ嫌いだでは食べていなかった。
ご飯が終わると尾形は皿を持ってシンクへ向かう。
勝手知ったる様子で皿を食洗機へ入れ、電源を入れた。

「じゃあ風呂入ってくるわ 」

凉夢は台所に立っていた尾形を横目に風呂場に向かった。
凉夢が風呂に入ったのを確認して、尾形はシンクの隣に鎮座する冷蔵庫の冷凍室を覗いた。
冷気だけが尾形の頬を優しく撫でた。




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