征十郎と出会ったのは春だった。
小学生になって、入学式後初めて一人で登校した時私は盛大に転んだ。
そうして泣いているところを征十郎に助けられた。
まるで春みたいな人だと幼心に思った。
自己紹介をしあって、私は征十郎と友達になったのだ。
学年が上がってクラスが離れたりしたけれど、私達はそれなりに友達だった。


小学五年生になった。
征十郎のお母さんが亡くなった。
子供だった私は何をしてあげられるのかわからなかった。
だからシロツメクサで花冠を作って征十郎にあげた記憶がある。
征十郎の涙を見たのはその時が初めてだった。


中学生になった。
征十郎は背が高くなった。
私とは相変わらず友達だった。
付かず離れずといった関係のような気がする。
互いに干渉はしないが、互いのことを誰よりも分かっていたと思う。
ふとした時隣に征十郎がいることは私の中で当たり前になっていた。
中学生の時私は何を考えて過ごしていたんだろう。
これからも征十郎とはこんな関係が続いて行くと思っていたんだろうか。
そんな思考を遮るように携帯が震えた。

『親子丼が食べたい』

征十郎からの連絡だった。
買い物の前に気付いてよかった。
卵と玉ねぎと鶏肉と、それから三つ葉を買った。

『ご飯一合炊いておいて』

そうメッセージを送って携帯を閉じた。
そういえばコーヒーも切れそうだ。
買って行こうかな。

私がプロポーズを受けたらその後どうなるんだろう。
多分今の彼氏と一緒に住むことになるだろう。
彼は私と同じように苦いものが好みでない。
そうしたらもうコーヒーの苦みが鼻を刺激することもなくなるのかもしれない。

「まあ、買っておくか…」

だってコーヒーが切れたら征十郎が怒るから。
花が咲いた征十郎のマグカップを思い出して少し笑った。




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