中学生の時の夢を見た。
中学生が終わった春休みに征十郎と江の島に行った時の夢だ。
あの時の征十郎はもう私の知らない征十郎だった。
征十郎は私に春を連れてきてから去って行った。

冬は空気が澄んでいて感傷的になっていた気がする。
電車に揺られて見た海がキラキラと光っていた。
江の島は凄い寒くて、手が凍えた。
水族館に行って魚を見た。
黄色、銀色、青色。
スイスイと魚が泳いでいた。
水族館は苦手だ。
何故だがどうしても悲しくなる。
まだ子供の私は感情を抑えきれずに涙を流した。
あの時隣の征十郎を見た気がする。
その時征十郎はどんな顔をしていたっけ。
何時もみたいに薄く笑みを浮かべていただろうか。
私を馬鹿にしたように笑っていたのだろうか。
それとも────




「芽唯子」

名前を呼ばれた。
これは夢なのか、もしくは現実か。

「起きろ」

どうやら現実らしい。
うっすらと目を開けると征十郎がいた。
赤色が目に入る。
やはり征十郎は春みたいに眩しいと私は思うのだ。

「おはよう」
「おはよう。もう夕方だけどな」
「はは…寝すぎた」

それからもう一度歯磨きをして、ココアを作った。
征十郎はコーヒーを作っている。

「今日は俺が湯豆腐を作ろう」
「昔から好きだよね。楽しみにしてる」

ソファーに座ってテレビをつけて、魚を見る。
大人になった私は水族館に行っても泣くことは無い。
出来ることが増える分出来ないことが増えていく。
大人になるというのはそんなことなのかもしれない。

「私あと一ヵ月以内には腹括ろうかな」

魚ちゃん達をテレビから消してニュースに変えた。
三月が始まって、梅の季節がやって来ていた。
白加賀という遅咲きな梅の開花が近いらしい。
まあそんなこと、私には関係ないのだ。
一ヵ月。
それが私最後の独身ライフになる。

「そうか」

征十郎が柔らかく微笑んでいる。
征十郎のマグカップには花が咲いていた。




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