『わかった。芽唯子が結婚したいと思える時まで待ってるから』

一ヵ月待ってくださいと連絡した彼から返事が来ていた。
彼は優しい。
優しすぎるぐらいに優しい。
それを見て、私は携帯を閉じた。

今日はさつきと黒子くんの結婚おめでとう飲み会が開かれる。
キセキの世代と私が呼ばれている。
さつき達は婚姻届けを提出してそのまま飲み会に来るらしい。
友達として本当に喜ばしい。

仕事を終わらせて急いで着替える。
白いニットにベージュのタイトスカート、ショートブーツを履いた。
いつもより少し派手に化粧を直した。
灰色のコートを着て外に出ると冷たい風が突き刺さる。
春はまだまだ遠いようだ。
一か月後、私に春はやってくるのだろうか。




「黒子くん、久しぶりだね」
「お久しぶりです。元気そうでよかった」

一番最後にお店についたのは私だった。
主役の二人の他に、キセキの世代と呼ばれた五人が既にそこにいた。
私の中で急に緊張感が高まった。

黒子君と話すのはもう10年ぶりぐらいだ。
さつきとは高校に入っても連絡を取っていたが、それ以外の帝光生とは誰一人として連絡をとらなかった。
黒子君はすらっと背が伸びて大人の男になっていて驚いた。
隣でデレデレしているさつきにちょっかいを掛けると恥ずかしそうに俯いた。

「では、黒子と桃井の結婚を祝しまして。乾杯」

征十郎が指揮をとる。
流石はキャプテン。
右にはさつき、左には黄瀬、目の前は征十郎。
カラフルな頭の中で私だけが普通だった。

料理も美味しいしお酒も美味しい。
黄瀬は中学生の時少し仲が良かったから思い出話に花が咲いた。
中学生の時のノリや空気を思い出して少し泣きそうになった。

「そういえば芽唯子は結婚の話とかないの?芽唯子ずっと付き合ってる彼氏いるじゃん〜」

さつきがそう聞いてくる。
ああ、結婚か。
うん、そうだね。

「最近彼氏にプロポーズされたんだろう?」

目の前の征十郎がそう言った。
えー!マジッスか?!とか黄瀬が隣で騒いでいる。

「そうなんだよね…はは」

まだ返事はしていないけど。
彼氏は私の一番の理解者であると思う。
私の仕事の愚痴だって聞いてくれるし価値観が合う。
甘いものが好きで苦いものと辛いものは嫌いで。
それに私が恋人としてやるべきことを全てやった初めての人だった。

「ってか何で赤司っちが知ってるんスか?」
「この間偶然再会したんだ」
「芽唯子!そんな話聞いてないよ?!」
「あれ、言ってなかったっけ」

マジか。
さつきに報告する案件でもないと思ったんだろうか、私は。
興奮気味の黄瀬に肩を揺さぶられて頭がグラグラする。

「あーでもまだ返事してないんだぁ」

自虐的に笑いながらそう言うと黄瀬とさつきが止まった。

「…何で…?」
「何かこう、いまいち覚悟が出来なくて」

半笑いを浮かべてからシャンパンを飲んだ。
自分一人の生活から彼もいる生活に変わる。
それがまだ想像出来ずにいるのだ。

「ま、私の話はいいじゃん!今日の主役はさつきと黒子君なんだしさ」

さつきが煮え切らない顔をしていたけれど、話題をさつき達のことに転換した。
私だって好きな人と早く結婚して早く家族になって早く子供とか生みたい。
でもいざとなると、どうしても足踏みしてしまうのだ。
やろうと思っても中々出来ないのは昔からの悪い癖だ。
征十郎がこちらを見ていたので困ったように笑っておいた。




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