私の猶予期間は今日で終わる。
昨日の夜に予約を取った店の情報を彼に送った。
私にしてはオシャレな店を選んだんじゃないかなと思う。

仕事をこなしてから彼に会う予定だ。
いつも通り目覚ましに起こされ、焼いたパンとココアを腹に流し込んだ。
薄ピンクのワンピースに薄手のコートを着てパンプスを履いた。
約一か月前に履いていたブーツはもう箱の中で眠っている。

「いってきます」

誰もいない部屋に声を掛けた。
それから職場に着いていつもの様に仕事をこなした。
心の中は今までにないぐらい落ち着いていた。

仕事を終わらせた後は再びワンピースに着替える。
化粧を直して髪をまとめた。
今日気合入ってるねと言われたが、そりゃあそうだ。
軽い私は重装備しなくてはいけないのだ。
同僚や先輩方に挨拶をして、私は職場を出た。
空には落ちそうな太陽がいて、私を強く照らした。
真っ赤な太陽だった。






















玄関でパンプスを脱いだ。
薄ピンクのワンピースはやはり少し動きづらい。
まとめていたはずの髪が少し解けてきた。
重装備はもうしないと決めた。

家に常備してあるクラッカーとチーズを皿にのせてソファー前のテーブルに置いた。
牛乳とココアを混ぜて電子レンジに入れた。
その間にクローゼットから部屋着を出して着替える。
部屋着と言ってもただのジャージだ。
そうしてからソファーに座ってテレビをつけるのがいつもの流れだ。
チーズを乗せてクラッカーを食べると口の中が変にパサパサする。
マグカップから昇る湯気が消えていく。
ココアを飲むとパサついた口内が生き返るのを感じた。
その代わりに舌が火傷してヒリヒリと痛む。
いつも見ている魚の映像が流れるだけのチャンネルに変える。
ゆるゆると泳ぐ魚を見ていると心が落ち着く。

「ねえ、何でいるの」

当たり前の様に隣にいる征十郎に私は問いかけた。
私はその時、多分泣いていた。




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