芽唯子と仲良くなったのは中学一年生からだ。
たまたま隣の席だった。
芽唯子が私の世話を焼いてくれて、私は芽唯子に懐いた。
芽唯子は中学生の頃から落ち着いていて冷静だった気がする。
芽唯子が赤司君と小学校が一緒だったと知ったのはそれからすぐだった。

赤司君と芽唯子が一緒にいるところを何度か見たことがある。
友達にしては距離が近い。
でも恋人にしては距離が遠い。
二人の回りには独特な空気が漂っていた。
そんなに頻繁に会っている訳じゃないのに、二人で同じ空間にいるのが至極当たり前の様に見えた。
多分二人は互いのことを一番分かっていて、これからも多分ずっとそうなんだろうなとぼんやり思った。

高校で二人が離れると聞いた。
芽唯子は東京の女子高に入学した。
物理的に距離は空いていても二人はそのままなんだろう。
そしていつか結婚するのかな、と思っていた。
でもまさか二人ともがお互いの連絡先を知らないなんて。

「征十郎の連絡先ならいらないよ」

私が芽唯子に赤司君の連絡先を教えると言った時、芽唯子に言われた。
当たり前のように言われた言葉に私は驚いた。
私と征十郎はそういう関係じゃないから、って。
じゃあどうしてそんなに泣きそうな顔してるの。




大学生になって、芽唯子には彼氏が出来た。
告白されて、断る理由もないから付き合ったって芽唯子は言っていた。
何でもその彼はとても優しいらしい。
赤司君とは違うタイプだ。
それから二人はこれまでずっと付き合っている。
芽唯子は彼のことを好きになれたのだろうか。

飲み会の最中、芽唯子は彼氏からプロポーズをされたと赤司君が言っていた。
芽唯子は多分、プロポーズを受ける。
賢いけれど自発性に欠ける女の子だから。
芽唯子は彼と付き合ってから服もメイクも派手になった。
彼への愛情を示しているかのように。
もしくは足りない何かを補うように。

最後まで伝えられなかった赤司君への好意を芽唯子は思い出すことが出来るだろうか。
赤司君が何かしら起こさないと芽唯子は今の彼と結婚する。
芽唯子の彼には悪いけれど、私としてはやっぱり芽唯子には赤司君と結婚して欲しかった。
芽唯子が席を離れたタイミングを見計らって赤司君に声を掛けた。

「赤司君、芽唯子ってね水族館が嫌いなの」
「知ってるさ」
「水族館に行くと泣きそうになるんだって」
「それも知っている。中学生の時一緒に行ったんだ」

芽唯子が彼と水族館に行ったと前に聞いた。
その話をしていると、芽唯子が急に泣き始めた。
ちょっと悲しくなって、と芽唯子は言っていた。
けど本当はそうじゃない。
赤司君のことを思い出したんだ。
きっと彼の前では泣けなかったんだろう。

「私はさ、やっぱり芽唯子には幸せになって欲しいんだ」

そう言うと赤司君は私を見て軽く笑った。
私と赤司君の様子をテツくんが隣で見ていた。

「赤司君。まだ負けるのが怖いですか?」

テツくんがそう言うと赤司君は少しだけ目を細めた。
赤司君は芽唯子に接触してこれ以上芽唯子に心を揺さぶられるのが怖いのだろうか。
それとも芽唯子が青春を捧げた彼に負けるのが怖いのだろうか。

「…一つだけ二人に頼みたいことがある」

そう言って私達に頼み事をした赤司君を見て、私とテツくんは顔を見合わせて微笑んだ。

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