はじまり


早めに仕事を終わらせて友達がセッティングした合コンに行った。
上司に怒られた腹いせから無性に酒が飲みたくて、いつも以上に酔った。
元々酒に強くはないけれど、記憶をなくしたことなんてなかったから油断していた。
それが間違いだった。

気付いた時にはラブホテルだった。
自分が何も身に着けていないのを当たり前のように確認した。
目の前には男の寝顔。
やってしまった最悪だ。
まさかこんな形で純潔を失うことになるとは。

どうやら相手は合コン中に私のことを気に入ったと言っていた男のようだ。
彼は私のことを知っていたようだが私は知らなかった。
まあそんなのは適当な誘い文句だったんだろう。
そんな感じで話し始めて知らない間に滅茶苦茶飲まされたらしい。
彼は顔が良かったから私も彼のことを気に入ったとか言ったような気もする。

とにかく今はこの状況から逃れるしかない。
男は私に抱き付いて寝ていたので、起こさないようにベッドを抜け出した。
登録されていた私の連絡先を消そうとしたが、ロックが掛かっていたので思わず舌打ちをした。
服をもう一度着て、化粧を直して部屋を出た。
部屋代なんてものは知らない。
男はまだ寝ていて無性に腹が立った。


家に帰ってソファーに座るといつもの様に重たい体が沈んでいく。
そういえば長い間実家にも帰っていない。
母親が作る和食が懐かしい。
こういうどうしようもなくつらい時に私を慰めてくれる物も人もいないのだ。
寂しいということを伝える相手すらいないというのは酷く悲しいことなのだ。

一人虚無感に襲われても、明日はやってくる。
それだけは変わらないのだ。
化粧を落とすと疲れた顔をした自分が鏡の中にいた。
風呂に入って、選びに選んだシャンプーとコンディショナーで髪を生き返らせる。
自分の好みの香りに包まれて、少しだけ幸せになる。
風呂を出てヘアオイルを付けて髪を乾かしながら、今日一日を振り返る。
テレビではバラエティー番組が流れていた。
面白いはずなのに、何故だか自分から笑い声は聞こえない。

「寝るか」

歯磨きをしたらもう寝てしまおう。
いくら考えたって今日は戻ってこない。
歯磨きをして、布団に入った。
冷たい布団に体を滑り込ませる。
目を閉じると少し涙が出た。




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