4
リーシャを筆頭としてやってきた秩序の騎空団は、綺麗な敬礼をして賊どもを引き取った。
「協力感謝します、ジータさん。拐われていた女性たちは大丈夫でしたか。」
「幸い誰も怪我はしていなかったから、みんな好きなところに行ってもらったよ。行き場がない人はうちの船に来てもいいよって言ったけど、ほとんどがこの街か隣村の人だったから。」
「そうですか。」
「人質の話が聞きたいこともあるかと思って、何処に住んでるかは聞いてある。」
「助かります。」
「それから……、」
拐われていた女性の数が合わないことについて話すと、リーシャは形のいい眉をひそめた。
「そうですね。では、情報を引き出せるかこちらで試してみます。その道のプロがいるので。」
「うん。よろしくね。」
「依頼料は騎空団ギルド経由でお支払いしますので。情報については、もし何か分かりましたら、後ほど連絡しますね。」
身柄の引渡しは粛々と済み、空の秩序を守る騎空団は速やかに帰って行った。
ジータもくるりと踵を返す。
「あの、」
振り返るとタラップでリーシャが立ち止まっていた。
「ジータさん、何かありましたか?」
秀麗な眉間に皺が寄っている。
どき、とした。リーシャは一時期仲間としてグランサイファーに乗っていたから、知らず気が緩んで漏れ出てしまったのかもしれない。
私は団長。引き締める。
「……何のこと?」
キョトンとした顔は我ながら上手く作れた。
「何かあったとしても、私は団長だから。なんとかするよ。」
明確に引いた線を、リーシャは踏み越えなかった。
大股で自室へ向かう足は段々と早足になり、最後はほぼ走っていた。
自室だからノックは要らない。勢いのまま扉を開けたら、ヴィーラの後ろ姿が見えてつんのめった。
「ヴィーラさん!?もう来てたの?」
「ええ。お邪魔しています。」
テーブルの上にはティーセットが出ていた。
ジータは用意していないから、ヴィーラが出したのだろう。
「不思議なものです。この部屋に来た記憶はないのに、何処に何があるか分かる。それに……それに、このティーセットも、窓際のポプリも、私のお気に入りのものです。」
開けたままの窓から風が入ってきた。ふわりと広がるレェスのカーテンが、星空を背に立つヴィーラを隠す。ランタンの火と、ヴィーラの紅い目がゆらゆら揺らいだ。
「私は本当に、貴女と友人だったのですね。」
息がしにくくて目を瞑る。
思わず止めていた息を、細く、細く吐き出した。
「……そうだよ。」
囁くみたいな声。か細い。かっこ悪い。
対するヴィーラはジータの言葉を、時間をかけて飲み込んだようだった。
椅子を引く。
「座ってください、団長さん。お茶会を始めましょう。貴女の話が聞きたいです。」
「私の話?」
「ええ。」
ヴィーラが小さく笑った。
眉尻の下がった、困ったような笑顔だった。
初めに自己紹介をした。
ジータです。騎空団の団長をやってます。カタリナとは、ザンクティンゼルで出会いました。ルリアを守っていて、私がルリアに守られたのをキッカケに、一緒に旅をするようになりました。
ヴィーラは、へえ、とか、そうなんですか、とか、穏やかに相槌を打つ。
止まっていた時間はぎこちなく動き出した。
ジータは夏の夜、甲板に寝転がって二人で星を見たことを話した。ヴィーラは静かに聞いていた。
ヴィーラはお気に入りの紅茶について話した。
アルビオンの学生だった頃に見つけたお店で初めて買ったこと。カタリナも美味しいと言ってくれたこと。ジータは一度聞いていたけど、そうなんだ、と初めて聞いた顔で聞いた。
ジータの話を聴きながら、ヴィーラは静かに微笑んで、時折記憶の底を探るように目を閉じ、痛みに耐えるような顔をしていた。
思い出すのはヴェトルの言葉。『記憶の扉に鎖がかかっている』ーーー。
「痛むの?」
ヴィーラは返事をしなかった。敢えて無視をされたことが分かるので畳み掛けた。
「頭。痛むの?」
「…………少しだけ。」
「絶対少しじゃないやつじゃん、それ。」
苦笑して、ヴィーラの手を取った。にぎにぎとマッサージをする。要は、思考に沈めさせなければいいのだ。余計な外部刺激を与えて思いだす行為に没頭させなければいい。
「無理に思い出さなくていいよ、ヴィーラさん。そのうち思い出すってヴェトルちゃんも言ってたし」
「……でも、」
「今日は『忘れたことを思い出す会』じゃなくて、『仲良くなるためのお茶会』だよ。ほら、紅茶美味しいなー。ヴィーラさんももう1杯飲む?」
意図的におどけたジータの姿を、ヴィーラは黙って見ていた。長い睫毛が縁取る大きな2つの目にじっと見つめられても怯まずにいられたのは、瞳の強さより懐かしさが勝ったからだ。
やがてヴィーラはふっと手元に目線を落として、
「では、お願いします。」
と静かに言った。
ティーポットを持ち上げて、お揃いのティーカップに注ぐ。
トポトポと白いカップに満ちていく紅茶は透き通った赤をしていて、ヴィーラの瞳にそっくりだった。
「貴方に……申し訳ないな、という気持ちが……半分くらいありまして。」
ゆらりと揺らいだ紅茶の水面。お揃いの瞳がうるりと揺れるのには気付かないふりをして、静かに先を促す。
「……もう半分は?」
「私の頭の中を得体の知れない連中に弄られるのは気に食わないという思いです。」
「んグッ」
噴き出しそうになって、慌てて紅茶を飲み込んだ。喉の奥で笑う。言われてみればその通り、ヴィーラが嫌いそうな事だった。
笑いの余韻を残したままの声で言う。
「じゃあ、もし戻らなかったらさ。幽世に乗り込もうよ。そんで、今回の事を起こしたヤツをとっ捕まえて、ボッコボコにするの!」
「それはいいですね。幽世の住人とやらは打撃がきくでしょうか。」
「殴るつもり?」
「斬ったら殺してしまうので。殺さず記憶を戻してもらうなら、殴った方がいいでしょう。殺したら記憶が戻るなら殺しますが。」
幽世に乗り込んで、幽世の住人たちをボコボコと殴り倒していくヴィーラを想像した。それはさぞ爽快なことだろう。
ふとヴィーラと目が合ったけれど、彼女はもう逸らさなかった。所在なげに伸ばした手でティーカップを取り、ぎこちなく飲んではいるが、拒絶は感じない。
きっとこれでいい。今まで通りとはいかずとも、これで。
2杯目の紅茶を飲み終えた頃、甲板の方がにわかに騒がしくなった。
「カタリナ達かな?」
ヴィーラも気になるようだったので立ち上がる。お茶会はお開きだ。
「また、近いうちに。」
ヴィーラの方からそう言ってくれるのが嬉しかった。
甲板ではカタリナとラカムを団員たちが囲んでいた。2人とも帰ってきたばかりのようでドレスとタキシード姿だ。ビィとルリアも駆けつけている。
「おつかれさま!」
ジータが声をかけると、団員たちがそれとなく道を開けてくれた。これ幸いとヴィーラもお姉様に駆け寄っている。
とりあえず、上から下までザッと見た。目立つ怪我はなく、ドレスにもパンプスにも汚れは無い。調査だけという約束通り、荒事はなかったようだ。ホッと胸を撫で下ろしながら訊いた。
「どうだった?」
「それが……、」
カタリナは眉尻を下げた。
「「求婚されたァ!?!?!?」」
困った顔のカタリナの向こうでヴィーラが卒倒しそうになっている。ラカムはおどけて床に片膝を付き、求婚したという男の真似をした。
「凄かったんだぜ〜。『なんて美しい金髪なんだ!貴方こそ私の女神だ!結婚を前提に付き合って欲しい!!』ってよ。」
「それで?カタリナはなんて言ったの?」
「それはその……私たちはまだ会ったばかりだから、お互いのことを知らないと何とも言えないと……、」
「真面目か!?!?」
ビィのツッコミで、幽世まで意識を飛ばしていたかもしれないヴィーラがハッと正気に戻った。顔は笑顔だが地を這うような声で言う。笑っているのが逆に不気味だ。
「……お姉様?相手は何処の馬の骨ですか?」
「カジノオーナーの息子さんなんだ。」
「ハァ!?姐さん一本釣りじゃねえか!」
「う、うむ……。」
ジータは頭を抱えた。
「なるほど、分かってきた……つまり、普段はなんとかナンパもあしらえていたはずのカタリナだけれども、今回は相手が怪しいカジノのオーナーの息子さんだったから、話を保留して持ち帰ってきた、と。」
「相手の好意を利用して、カジノの状況を探るってことか?……姐さん、そーゆーの向いてなくねぇかなぁ。」
問題はそこである。
カタリナという女性は根っからの騎士で、清く正しく、自らの弱さと向き合って尚弱者のために剣を振るえる強い女だ。事件解決のためとはいえ、人の好意を利用するような真似ができるのか。
ちらりとヴィーラを見た。
彼女は高速で首を横に振っていた。そりゃあそうである。
今度はカタリナを見た。
彼女は決心した目をしている。
「あのカジノでは数名の女性が行方不明になっていて、最初の女性が居なくなってからはもう5ヶ月ほど経つそうだ。カジノ内のどこかにいるのなら、早く助け出してやりたい。」
ジータは悩んだ。カタリナの言うことも分かるけれども、今回は間違いなく不向きだ。
「うーーーーーん……。とりあえず、まだ決定的な情報は掴めてない。カタリナに色仕掛けしてもらうのは最終手段として、明日は少しそっちにも人員を割こう。隠密が得意な子達に任せる。カタリナとラカムは追加人員を連れて引き続きカジノの調査を。私は街で聞き込みをしてみる。それから、ビィ、明日ってシェロさんとこの荷運びがあったよね?」
「おう。そうだったはずだぜ。前のデカい屋敷だろ?」
「じゃあそっちはカリオストロに任せよう。剥製を見たいって言ってたから引き受けてくれるはず。ヴィーラさんはどうする?」
「私は…………、ジータさんと街に行きます。」
「えっ」
カタリナと行くと言うと思っていたので、予想外なことに声が出た。
ヴィーラは難しい顔をして言う。
「いざ目の前でその男を見たら……殺さない自信が無いので。」
ああ、うん、そうだねとその場にいる全員が頷いた。
(20240523)
「協力感謝します、ジータさん。拐われていた女性たちは大丈夫でしたか。」
「幸い誰も怪我はしていなかったから、みんな好きなところに行ってもらったよ。行き場がない人はうちの船に来てもいいよって言ったけど、ほとんどがこの街か隣村の人だったから。」
「そうですか。」
「人質の話が聞きたいこともあるかと思って、何処に住んでるかは聞いてある。」
「助かります。」
「それから……、」
拐われていた女性の数が合わないことについて話すと、リーシャは形のいい眉をひそめた。
「そうですね。では、情報を引き出せるかこちらで試してみます。その道のプロがいるので。」
「うん。よろしくね。」
「依頼料は騎空団ギルド経由でお支払いしますので。情報については、もし何か分かりましたら、後ほど連絡しますね。」
身柄の引渡しは粛々と済み、空の秩序を守る騎空団は速やかに帰って行った。
ジータもくるりと踵を返す。
「あの、」
振り返るとタラップでリーシャが立ち止まっていた。
「ジータさん、何かありましたか?」
秀麗な眉間に皺が寄っている。
どき、とした。リーシャは一時期仲間としてグランサイファーに乗っていたから、知らず気が緩んで漏れ出てしまったのかもしれない。
私は団長。引き締める。
「……何のこと?」
キョトンとした顔は我ながら上手く作れた。
「何かあったとしても、私は団長だから。なんとかするよ。」
明確に引いた線を、リーシャは踏み越えなかった。
大股で自室へ向かう足は段々と早足になり、最後はほぼ走っていた。
自室だからノックは要らない。勢いのまま扉を開けたら、ヴィーラの後ろ姿が見えてつんのめった。
「ヴィーラさん!?もう来てたの?」
「ええ。お邪魔しています。」
テーブルの上にはティーセットが出ていた。
ジータは用意していないから、ヴィーラが出したのだろう。
「不思議なものです。この部屋に来た記憶はないのに、何処に何があるか分かる。それに……それに、このティーセットも、窓際のポプリも、私のお気に入りのものです。」
開けたままの窓から風が入ってきた。ふわりと広がるレェスのカーテンが、星空を背に立つヴィーラを隠す。ランタンの火と、ヴィーラの紅い目がゆらゆら揺らいだ。
「私は本当に、貴女と友人だったのですね。」
息がしにくくて目を瞑る。
思わず止めていた息を、細く、細く吐き出した。
「……そうだよ。」
囁くみたいな声。か細い。かっこ悪い。
対するヴィーラはジータの言葉を、時間をかけて飲み込んだようだった。
椅子を引く。
「座ってください、団長さん。お茶会を始めましょう。貴女の話が聞きたいです。」
「私の話?」
「ええ。」
ヴィーラが小さく笑った。
眉尻の下がった、困ったような笑顔だった。
初めに自己紹介をした。
ジータです。騎空団の団長をやってます。カタリナとは、ザンクティンゼルで出会いました。ルリアを守っていて、私がルリアに守られたのをキッカケに、一緒に旅をするようになりました。
ヴィーラは、へえ、とか、そうなんですか、とか、穏やかに相槌を打つ。
止まっていた時間はぎこちなく動き出した。
ジータは夏の夜、甲板に寝転がって二人で星を見たことを話した。ヴィーラは静かに聞いていた。
ヴィーラはお気に入りの紅茶について話した。
アルビオンの学生だった頃に見つけたお店で初めて買ったこと。カタリナも美味しいと言ってくれたこと。ジータは一度聞いていたけど、そうなんだ、と初めて聞いた顔で聞いた。
ジータの話を聴きながら、ヴィーラは静かに微笑んで、時折記憶の底を探るように目を閉じ、痛みに耐えるような顔をしていた。
思い出すのはヴェトルの言葉。『記憶の扉に鎖がかかっている』ーーー。
「痛むの?」
ヴィーラは返事をしなかった。敢えて無視をされたことが分かるので畳み掛けた。
「頭。痛むの?」
「…………少しだけ。」
「絶対少しじゃないやつじゃん、それ。」
苦笑して、ヴィーラの手を取った。にぎにぎとマッサージをする。要は、思考に沈めさせなければいいのだ。余計な外部刺激を与えて思いだす行為に没頭させなければいい。
「無理に思い出さなくていいよ、ヴィーラさん。そのうち思い出すってヴェトルちゃんも言ってたし」
「……でも、」
「今日は『忘れたことを思い出す会』じゃなくて、『仲良くなるためのお茶会』だよ。ほら、紅茶美味しいなー。ヴィーラさんももう1杯飲む?」
意図的におどけたジータの姿を、ヴィーラは黙って見ていた。長い睫毛が縁取る大きな2つの目にじっと見つめられても怯まずにいられたのは、瞳の強さより懐かしさが勝ったからだ。
やがてヴィーラはふっと手元に目線を落として、
「では、お願いします。」
と静かに言った。
ティーポットを持ち上げて、お揃いのティーカップに注ぐ。
トポトポと白いカップに満ちていく紅茶は透き通った赤をしていて、ヴィーラの瞳にそっくりだった。
「貴方に……申し訳ないな、という気持ちが……半分くらいありまして。」
ゆらりと揺らいだ紅茶の水面。お揃いの瞳がうるりと揺れるのには気付かないふりをして、静かに先を促す。
「……もう半分は?」
「私の頭の中を得体の知れない連中に弄られるのは気に食わないという思いです。」
「んグッ」
噴き出しそうになって、慌てて紅茶を飲み込んだ。喉の奥で笑う。言われてみればその通り、ヴィーラが嫌いそうな事だった。
笑いの余韻を残したままの声で言う。
「じゃあ、もし戻らなかったらさ。幽世に乗り込もうよ。そんで、今回の事を起こしたヤツをとっ捕まえて、ボッコボコにするの!」
「それはいいですね。幽世の住人とやらは打撃がきくでしょうか。」
「殴るつもり?」
「斬ったら殺してしまうので。殺さず記憶を戻してもらうなら、殴った方がいいでしょう。殺したら記憶が戻るなら殺しますが。」
幽世に乗り込んで、幽世の住人たちをボコボコと殴り倒していくヴィーラを想像した。それはさぞ爽快なことだろう。
ふとヴィーラと目が合ったけれど、彼女はもう逸らさなかった。所在なげに伸ばした手でティーカップを取り、ぎこちなく飲んではいるが、拒絶は感じない。
きっとこれでいい。今まで通りとはいかずとも、これで。
2杯目の紅茶を飲み終えた頃、甲板の方がにわかに騒がしくなった。
「カタリナ達かな?」
ヴィーラも気になるようだったので立ち上がる。お茶会はお開きだ。
「また、近いうちに。」
ヴィーラの方からそう言ってくれるのが嬉しかった。
甲板ではカタリナとラカムを団員たちが囲んでいた。2人とも帰ってきたばかりのようでドレスとタキシード姿だ。ビィとルリアも駆けつけている。
「おつかれさま!」
ジータが声をかけると、団員たちがそれとなく道を開けてくれた。これ幸いとヴィーラもお姉様に駆け寄っている。
とりあえず、上から下までザッと見た。目立つ怪我はなく、ドレスにもパンプスにも汚れは無い。調査だけという約束通り、荒事はなかったようだ。ホッと胸を撫で下ろしながら訊いた。
「どうだった?」
「それが……、」
カタリナは眉尻を下げた。
「「求婚されたァ!?!?!?」」
困った顔のカタリナの向こうでヴィーラが卒倒しそうになっている。ラカムはおどけて床に片膝を付き、求婚したという男の真似をした。
「凄かったんだぜ〜。『なんて美しい金髪なんだ!貴方こそ私の女神だ!結婚を前提に付き合って欲しい!!』ってよ。」
「それで?カタリナはなんて言ったの?」
「それはその……私たちはまだ会ったばかりだから、お互いのことを知らないと何とも言えないと……、」
「真面目か!?!?」
ビィのツッコミで、幽世まで意識を飛ばしていたかもしれないヴィーラがハッと正気に戻った。顔は笑顔だが地を這うような声で言う。笑っているのが逆に不気味だ。
「……お姉様?相手は何処の馬の骨ですか?」
「カジノオーナーの息子さんなんだ。」
「ハァ!?姐さん一本釣りじゃねえか!」
「う、うむ……。」
ジータは頭を抱えた。
「なるほど、分かってきた……つまり、普段はなんとかナンパもあしらえていたはずのカタリナだけれども、今回は相手が怪しいカジノのオーナーの息子さんだったから、話を保留して持ち帰ってきた、と。」
「相手の好意を利用して、カジノの状況を探るってことか?……姐さん、そーゆーの向いてなくねぇかなぁ。」
問題はそこである。
カタリナという女性は根っからの騎士で、清く正しく、自らの弱さと向き合って尚弱者のために剣を振るえる強い女だ。事件解決のためとはいえ、人の好意を利用するような真似ができるのか。
ちらりとヴィーラを見た。
彼女は高速で首を横に振っていた。そりゃあそうである。
今度はカタリナを見た。
彼女は決心した目をしている。
「あのカジノでは数名の女性が行方不明になっていて、最初の女性が居なくなってからはもう5ヶ月ほど経つそうだ。カジノ内のどこかにいるのなら、早く助け出してやりたい。」
ジータは悩んだ。カタリナの言うことも分かるけれども、今回は間違いなく不向きだ。
「うーーーーーん……。とりあえず、まだ決定的な情報は掴めてない。カタリナに色仕掛けしてもらうのは最終手段として、明日は少しそっちにも人員を割こう。隠密が得意な子達に任せる。カタリナとラカムは追加人員を連れて引き続きカジノの調査を。私は街で聞き込みをしてみる。それから、ビィ、明日ってシェロさんとこの荷運びがあったよね?」
「おう。そうだったはずだぜ。前のデカい屋敷だろ?」
「じゃあそっちはカリオストロに任せよう。剥製を見たいって言ってたから引き受けてくれるはず。ヴィーラさんはどうする?」
「私は…………、ジータさんと街に行きます。」
「えっ」
カタリナと行くと言うと思っていたので、予想外なことに声が出た。
ヴィーラは難しい顔をして言う。
「いざ目の前でその男を見たら……殺さない自信が無いので。」
ああ、うん、そうだねとその場にいる全員が頷いた。
(20240523)