モクテルで酩酊






※下ネタ注意




蒸し暑い夜の廊下を歩いて、ジータはラードゥガの扉を開けた。カランカランと涼やかな音が鳴る。

「いらっしゃい……あら?」

夜更かしさんの交流の場の主であるファスティバは、カウンターの中で蒸し鶏のカルパッチョを盛り付けていた。太い声が優しく響く。既に床についた団員たちの眠りを妨げないような、穏やかで静かな声だった。

「珍しいお客さんね。眠れなかったの?」

ジータはチラリとカウンターを見た。今日の客は二人。細く長い足を艶っぽく組んでカウンターに凭れるメーテラと、いつもの花魁姿よりやや飾りが少ないもののそれでも尚艶やかなウツセミが、同じ色のカクテルを飲んでいた。
暫し逡巡して、(まあ、この2人ならいいか)と判断する。

「ちょっと聞きたいことがあって。」
「あら、何かしら。」

カウンターに腰掛けると、メーテラとウツセミは顔を見合わせた。

「アタシら席外した方がいい?」
「別にいいよ。2人なら」

意味深な言葉選びに2人は首を傾げたが、大人らしくその場では聞かないでいてくれた。話が前後せずに済むので助かる。

ファスティバが蒸し鶏のカルパッチョをウツセミとメーテラの前に置いて、ジータには赤いドリンクを渡してくれた。まさかアルコールかと鼻を近付けて匂いを嗅いでみる。甘く爽やかなスイカの匂いがした。

「スイカのソルティドッグよ。モクテルだから安心して」

モクテルとはノンアルコールカクテルのことだとこの間学んだばかりだ。安心して傾けたドリンクは、スイカの甘さと塩のしょっぱさが絶妙なバランスを醸し出していた。

ファスティバはカウンターを挟んでジータの斜め前に肘を着いた。今からアナタの話を聞きますよと全身で示してくれている。

「それで、団長さんは何が聞きたいのかしら?」
「うん。あのね、『ブロウ・ジョブ』って何のことか知ってる?」

チロチロとスイカのモクテルを舌先で舐めながら言うと、ファスティバが笑顔のまま凍りついた。メーテラは目を輝かせて、カクテルを口に含んだところだったウツセミは噎せた。ゴホッ、ゴホッ。紙ナプキン入れはジータの前にあったので、2、3枚取って渡してやる。

「…………だ、団長さん?それ、誰に教わったのかしら?アタシってば、ちょっと急にその人にラブを届ける用が出来ちゃったんだけど」
「ヤダァ、ファスティバさんちょっと過保護すぎなーい?団長だっていつかはオトナになるんだし〜、教えてあげればいいじゃない」

メーテラはきゃらきゃらと笑って、右手の親指と人差し指でマルを作った。オッケーのサインではあるが、そのままの意味でないことはジータにもわかる。

「『コウイン』って意味のスラングよ。」

聞き慣れない言葉すぎて瞬時に理解できなかった。
ジータがポカンとしたのに気がついて、メーテラはオッケーサインを舐める真似をする。

「フェラよ。フェーラ。聞いた事あるっしょ?オトコのシンボルを舐めるやつ」
「ああ、それで」

納得いった様子のジータを見て、メーテラは芸術品のように長い睫毛を瞬かせた。音が鳴りそうだ。
酒の肴になりそうだと判断したのか、メーテラは席ひとつ空いていたジータとの距離を詰めた。カクテルとカルパッチョも隣席から引き寄せる。続いてウツセミが、元々メーテラが座っていた席に座り、3人が横並びとなった。

「で?誰に教わったの?そんなワルイ言葉」
「昨日の依頼で会った人」
「誰?オトコ?」
「知らないよ。知らない男の人。その時はカクテルの名前だと思ったけど」

今度はファスティバが、ああ、と納得した声を出した。

「あるわよ、『ブロウ・ジョブ』。」
「どんなカクテルなの?」
「ちっちゃなリキュールグラスに注ぐ、コーヒーリキュールベースの甘ーいカクテルね。上に生クリームの層があって、手を使わずに、こう、咥えて持ち上げて飲むのが作法と言われてる……まあ、ちょっと下品なカクテルよ。」
「その手の『お遊び』を好む男性は何処にでもおりんすなぁ。」

予想していたこととはいえど、ジータは居心地悪い心地で下唇を舐めた。慣れない話題だ。心がソワソワする。
そんなジータの様子はお見通しのようで、メーテラが肩に寄りかかってきた。

「で?で?何があったわけ?」


何が、と言われても説明が難しいので、最初から話すことにした。










ことの起こりは数日前。シェロカルテが持ってきた依頼は金持ちのボンボンが夜会に参加する際の護衛だった。
護衛がついているということを知られたくない理由があるとかなんとかで、女性団員数名の指名。

「多分、嘘でしょうね。」

シェロカルテから概要を聞いたヴィーラがバッサリと言って、シェロカルテは苦笑いした。

「護衛ついでに女性を連れて、箔を付けたいだけでしょう。」

シェロカルテは否定しなかった。

本当にそうなら、あまり気乗りのしない内容だ。ウチの大事な団員たちをアクセサリー扱いするつもりのようである。
跳ねてしまおうかな、と依頼書をつき返そうとしたところで、ヴィーラがジータをチラリと見て言った。

「……二人で行きますか?」
「え?私とヴィーラさんで?」
「ええ。以前、こういった夜のパーティーに興味があると言っていたでしょう?私と貴女なら戦力的にも十分でしょうし、最悪依頼主がいけ好かなくても、二人で楽しんで帰ってくれば良いでしょう」

それはとても魅力的な誘いのように思われた。
騎空士は荒事の多い職業だ。依頼の多くは盗賊退治とか、猫探しとか、荷運びとか、とにかく土埃が立つようなものばかりで、綺麗な格好をすることはそうそうない。
一方ヴィーラは良家のお嬢さんであるため、時折実家の方で開かれるパーティーに参加していた。ヴィーラ曰く『ニコニコ相槌を打つだけのつまらないパーティー』からグランサイファーに直帰した彼女の黒いドレス姿が本当に綺麗で、いつか機会があったら一緒にパーティーに行ってみたいなと何気なく呟いたことがある。ヴィーラはそれを覚えていてくれたのだろう。

「……そう、だね。二人だけなら。」

かくして依頼を受けることになり、ジータはまずコルワに相談した。コルワは自分の事のように喜んで、驚くべき早さでドレスを一着仕立ててくれた。いつかフォーマルが必要になった時のために、前々から用意してくれていたのだと言う。白いシフォン生地のミニ丈のドレスで、肩の部分がレース生地になっている、上品なドレスだった。

当日はコルワが話をしておいてくれたらしく、依頼の2時間も前にクロエがやってきた。
ふわふわの筆を何本も使い、何をされているのか分からない内に眉を描かれ、瞼と睫毛はキラキラになり、控えめなピンクリップが塗られた。髪は短くてどうしようもないかと思っていたが、一体どうやったのか、可愛く編み込まれている。

嬉しかった。いつもと違う自分になったようで。

合流したヴィーラはいつか見た黒いドレスを着ていて、赤と白の羽織が映えてとても綺麗だった。いつもは隣に並ぶのも気後れしてしまう美しさだけれど、今日は、いつもより少しだけ自信があった。カツンとヒールを鳴らして横に立つ。ジータと同じく、瞼にキラキラを乗せたヴィーラが微笑んだ。女神のようだった。

「似合ってますよ。とても。」

女神に褒められたのだから、今日の私はきっと、本当に、いつもよりちょっと素敵なのだろう。



依頼主のお坊ちゃんはいけ好かない男ではあったが、当初想像していた通りの男ではなかった。ビックリするほどの『ウブ』だったのである。少しでも女性と話そうものなら真っ赤になって吃りまくり、視線をうろつきまくらせて戸惑う。終始そんな様子だったから、『女性団員限定』というのは、彼の様子を心配したご両親か誰かが勝手に付け足した条件だとすぐに知れた。

護衛なので一応付かず離れずの距離を保つが、話はしないし、必要以上に近付きもしない。本当にヴィーラと二人でデートをしているようで、少し気分が浮ついていた。

「すみません」

会場を歩き回るウェイターに、慣れた様子でヴィーラが声をかける。トレイの上に載ったカクテルを1杯頂戴しながら質問した。

「彼女用にモクテルが欲しいのですが、どこにありますか」
「ノンアルコールなら、あちらに用意がございます。お持ちいたしましょうか。」
「お願いします。味は……そうですね。私のこれと似たものを。」
「かしこまりました。素敵なお連れ様にピッタリのものをお持ちいたします。」

ウェイターが戻ってくる前にこっそり聞いた。

「モクテルって何?」
「ノンアルコールのカクテルのことですよ。」
「そうなんだ」

つまりはジュースのことかと思ったけれど、言い方ひとつで大人の仲間入りをした気がした。モクテル。初めての単語を口の中で転がす。

ややもせずウェイターが持ってきたのは鮮やかな黄色のモクテルだった。ヴィーラのものは黄色と赤のグラデーションだが、ジータのものは黄色一色だ。代わりに、上に赤いハイビスカスが載っていた。色合いだけ見れば似た感じで、ヴィーラのリクエストにできるだけ答えてくれたのだろう。
そっとグラスに口を寄せる。マンゴーの甘酸っぱい香りがブワッと広がった。美味しい。

いつもより少し背伸びをした格好をして、瞼と睫毛をキラキラにして、聞いた事のない名前の飲み物を飲んで。

少し、調子に乗っていたのかもしれない。







「ちょーーーっと待って!」

ピタ、とメーテラが顔の前で手のひらを広げた。楽しんでいるのか酔っているのか、頬が薔薇色だ。

「今んトコめーっちゃイイ雰囲気じゃない?ここからどう転んだらフェラとか何とか言う話になるワケ?あとそのカワイイお坊ちゃん、後で紹介してくれる?」
「やめなんし、メーテラ。おぼこがおまはんの毒牙にかかっては、一生モノのトラウマになりんす。……それに、判断がちと早い気がしんすな。まだ役者が出揃っておりんせん。」
「役者ぁ?」
「最初の『知らない男の人』ね。」

なるほど、という顔をしたメーテラは大人しく椅子に座り直した。

「テンション上がったら暑くなってきたわ。夏の騎空艇ってどーしてこんなに蒸し蒸しするのかしら。ファスティバ!アイスなぁい?」
「ジェラートならあるわよ。レモン、ラズベリー、あとメロン」
「メロン」
「わっちはラズベリーをお願いしんす」

サッと2人分のジェラートを用意したファスティバは、スイカのモクテルをほとんど飲み干していたジータの目の前に2杯目を置いた。今度は雨上がりの空のように真っ青な炭酸で、上にミントが載っていた。

「それで、どうなったの?」

聞き上手の相槌に優しく話を戻される。





声をかけられたのはヴィーラだった。

「お姉さん、ひとり?」

明らかにひとりではないヴィーラにそう声をかけてきたエルーンの男は、脱色のし過ぎで傷んだ明るい茶髪をスプレーでガチガチに固めた、ナルシストそうなチャラ男だった。顔の作りは……まあ良い方なのかもしれないが、自船でアイドルやモデルもビックリなほど整った顔を見慣れているせいで特に琴線に触れる程では無い。というか、あからさまにヴィーラが嫌いそうなタイプである。案の定ヴィーラはこめかみをヒクつかせていたが、一応依頼中なので精神力だけで笑顔を取り繕った。

「……………………………………何か?」
「暇そうに見えたからさ!どう?ひとりなら俺と飲まない?」
「…………………………生憎連れがいますので。」

会話もしたくなさそうな様子に苦笑して、ジータは一歩前に出た。
そこでようやく、ナンパ男がジータを見た。上から下までサッと視線を走らせる。この感覚には覚えがあった。厄介な魔物の討伐任務を受けた時、此方を子供だと思って侮ってくる相手の目だ。つまり、明確に今、値踏みをされた。

「連れってこの子?ふぅん」

言葉にはされなかったけれど、その先には多分、『芋臭いね』とか、『ガキじゃん』とか、その手の言葉が入ったに違いないと感じるような声色だった。

「妹さん?まだ酒場は早いんじゃない?此処ではミルクは出ないよ。」

心が固く縮こまる。

受け答えをしようとしたジータを遮って、ヴィーラが早口で言った。



「分かりました。一杯だけ飲みます。飲んだら放っておいて貰えますか。」



ジータは目を見開いた。
流石にこの頃になると周りに人集りが出来ていて、それもヴィーラがイライラしている理由のひとつだった。ギャラリーは能天気にナンパの行方を見物している。輪の中には護衛対象の坊ちゃんの姿もあって、オロオロ辺りを見回していた。本来、「僕のパートナーが何か?」とか何とか言いながら男性側が助け舟を出すところである。

「ヴィーラさん?嫌だったんじゃないの?」
「嫌『だった』というか、現在進行形で嫌ですが、ジータさんに嫌な役回りを押し付けてまで拒否することでもないので。一杯飲んで帰ります。あの人のこと見失わないようにしておいて下さい。」

あの人というのは護衛対象のことである。


ナンパ男はヨッシャ!とガッツポーズをして、バーテンダーに何か耳打ちをした。
よもや薬か何かを混入させる気かと目を皿にして手元を見ていたが、特におかしな工程は
見当たらない。
出来上がったのは、ごく普通の、スモールサイズのカクテルだった。
にも関わらず、ギャラリーは沸き立った。特に男性が。ナンパ男はニヤニヤし、ヴィーラは柳眉をしかめる。

「『ブロウ・ジョブ』ですか」
「へえ、知ってるんだ?それはよかった。正式な作法でどうぞ?」

いやらしい笑顔だった。

ジータはカクテルの種類に詳しくなかったが、それでもこの場の雰囲気から、『ブロウ・ジョブ』とやらがあまり良い由来を持たないことは容易にしれた。おそらく卑猥な意味で、実行するか否かを見世物にされている事も。

「……ヴィーラさん、飲まなくていいよ。帰ろ」
「こっちのネーチャンが飲まないなら、『妹さん』が飲んでくれてもいいけど?」

チッ、と舌打ちの音。
したのはヴィーラだった。

上半身を折ってカウンターに顔を近づけると、唇と歯でグラスを咥える。
そのまま宙に持ち上げると、琥珀色と乳白色の液体が、コポコポコポと音を立てて口腔内に注ぎ込まれていった。ターン!と音を立ててリキュールグラスがカウンターに叩きつけられる。

舌打ちからグラスを叩きつけるまで、僅か5秒足らずの出来事だった。
その様は勇ましく、卑猥さの欠けらも無い。囲んでいたギャラリーが思わず拍手をするほど。

飲みきれず口端から零れた生クリームを指先で拭うヴィーラが、先程までの凛々しさとは打って変わって、うっそりと微笑む。

「こんなことでご満足ですか?可愛らしいお人」

侮蔑を孕んだ声音にナンパ男が怯んだのを見て、颯爽と踵を返す。

「あと、妹ではなく『恋人』ですので。」

たったそれだけの言葉で、沈んでいた心が嘘のように晴れ渡った。
我慢できず、ジータはしたり顔で笑う。

「私の『恋人』、カッコイイでしょ?」

感嘆の拍手と口笛が響く中、その場を後にした。いつもより少しだけ高いヒールの音が、ヴィーラと重なるのが嬉しかった。






「……っていうことがあって、惚れ直しました。」
「「「分かる。」」」

大きく頷いて、3人はドリンクを煽った。
いつの間にかファスティバまで自分用のカクテルを入れている。

「いや〜ん、何それ〜。ヘタなオトコよりかっこよくない?」
「ホントよ!ヴィーラちゃんは、アナタの初めての夜会を嫌な思い出にしたくなかったんだわ。ラァブ、ね。」
「ところで初心な坊ちゃんはどうしたんでありんすか」
「ああ、なんかヴィーラさんにひどく感動したらしくて。『僕も好きな女の子ができた時、貴女のように凛々しく守れるように頑張ります!』って、意気込んで帰って行ったから、親御さん達にはめちゃくちゃ感謝された。」
「「「可愛い。」」」

ジータも自分のノンアルコール・ブルーキュラソーに口をつけた。ライムの風味が爽やかで、話し疲れた口に心地よい。
お酒は飲んでいないというのに、熱に浮かされたように、ヴィーラの姿を思い出す。美しい黒いドレスの後ろ姿。白い項が髪で隠れて、リキュールグラスを一気に煽る、その様子を。


「……カッコよかったなぁ、ヴィーラさん。大人で。」

今日確かめたあのカクテルの意味は、やはり卑猥なものだった。多分飲む側もセクシャルな意味を込めて、同席している相手をそういう気分にさせるために飲むものなのだと思う。
だというのに、ヴィーラの姿は美しかった。まるで巫女が神様に祝詞を捧げているようにすら見えたのだ。きっと堂々とした振る舞いと、彼女の精神性のせい。
そこには大人の世界に憧れて、背伸びしてヒールを履いて、綺麗なドレスとメイクをしても、決してひっくり返らない年齢差があった。

ウツセミとメーテラは顔を見合わせた。眦を優しく下げて苦笑する。

「まー、それはさ。今はそう見えるかもしれないけど、すぐに気にならなくなんだから。今は年下の特権思いっきり使って、可愛がられとけばいいんだって」
「そうでありんすよ。それに、年下もあながち悪くはありんせん。年下だからこそ、不意に見せる大人びた表情にグッときたりするもんでありんす。」
「そうかなぁ。」

大人たちは、ジータの複雑な感情を笑い飛ばしてカクテルを煽った。不意にニヤァ、と悪い顔をする。

「……ねぇ、ところでさ。アタシ、そのナンパ男に興味出てきちゃったなぁ?そのバーに行けば会えるかしら?」
「奇遇でありんすなぁ。わっちも、わっちの大事な仲間に粉をかけたお礼はしないといけないと思っていたところでありんす。」
「ちょっと2人とも、あんまり可哀想なことはしちゃダメだよ。」
「なぁに、ほんのちょっと、公衆の面前で飲み潰すくらいのもんでありんすよ。」

ウワバミ2匹がケラケラと笑う。
お代わり用のシェイカーをシャカシャカ振りながら、ファスティバも仕方なさそうに微笑んだ。問題児を見る先生みたいな顔だった。

「ヴィーラちゃんだけじゃなくて、お姉さん二人もカッコイイところ見せたいみたいよ。」






その2日後の朝。
ジータはバーの外の路地で裸になって飲み潰れている茶髪のエルーン男を見た。
思わず半目でウツセミとメーテラを見ると、いけしゃあしゃあと「アタシたちは飲み潰しただけ。身ぐるみ剥いだのはその辺のチンピラじゃなぁい?」「いい薬でありんすよ。」とのたまった。

「ジータさん?どうかしました?」

ヴィーラが振り向きかけたので、慌てて止める。

「汚いものが落ちてたの。見ない方がいいよ。」

ヴィーラはきょとんと目をしばたいた。
あの夜はあんなにカッコよく、美しく見えたのに、今はいささか可愛らしい。太陽の光のおかげだろうか。
今日のジータは動きやすいぺたんこ靴だったけれど、ヴィーラのヒールは低く、あの夜よりも視線が近かった。

(今はまだ、こっちの方がいいな。)

夜も自信を持って隣に並べる日はまだ先らしい。









(20250420)

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