家に帰ってからすぐに、貰った二つ折りのケータイを開いてみる。
生まれて初めて(もしかしたら記憶を失う前は持っていたかもしれないが)ケータイを手にしたサナは恐る恐るなかを確認した。
因みにおばあさんたちは固定電話しか持っていないので、使い方の説明は出来なかった。
たどたどしい手つきでメニュー画面から電話帳を開くと、そこに見慣れぬ文字が一つ登録されていた。
「イルミ…」
そういえば、もう彼が店に来だしてから半年以上たつのに、未だに彼の名前を知らなかった。
イルミというのが、きっと彼の名前なのだろう。
そう結論付け、せっかくだし彼にメールでも送ってみようかなっと考えてみた。
彼は仕事ではなく、弟が家出したといっていたはずだ。
思い切ってメール画面を開き、慣れないてつきてポチポチ文字を打ち込む。
【こんにては サナでつ】
「あれ?なんか違う…
削除ってどうするんだろう…」
削除ボタンを躍起になって探しているうちに、間違えてそのまま送信してしまった。
「あ!」
どうしようと画面を睨めっこしついると、突然ピリリリと音を出してケータイが鳴り出した。
画面にはイルミと表示されている。
彼からの電話がかかってきた、勘を頼りに受話器のボタンを押すと電話が鳴り止んだ。
恐る恐る耳に近づけてみる。
『出るの遅かったね』
予想通り、いつもの彼の声が、電話口から流れてきた。
「ごめんなさい、まだ使い方よくわからなくて」
『みたいだね。メールがわけわからなかったよ』
押し殺したように笑っているのがわかる。
からかわれているのか、思わずムッとして言い返してしまった。
「だって、イルミさんが教えてくれる前に行っちゃったから」
『イルミさん?』
「あれ?名前イルミさんじゃないんですか?」
不思議そうに繰り返されサナは間違いなのだろうか、と不安になった。
『ううん、あってる。
珍しい呼び方だから、びっくりしただけ。』
「普段は何て呼ばれてるんですか?」
『イルミとか、弟たちからはイル兄とか呼ばれてるなぁ。サナもイルって呼びなよ。』
「ええー」
急に振られ思わず微妙な返しをしてしまった。
『いやかい?』
「いやってわけじゃないですけど…なんか慣れなくて」
『そのうち慣れるよ』
そんな風に他愛もない話をして、イルミが飛行船が到着するからまた今度と言って、電話を切った。
「イル、かぁ」
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