複雑な恋愛模様

「虎杖くん、やっほー」
「あ、清宮先生!」


ニカッと、白い歯を見せて笑う虎杖くんが眩しい…。なんか後光が差して見える。


「なんか清宮先生に会うの久々な気ぃする!」
「最近なかなか会いに行けなくてごめんね〜悟との訓練は順調かな?」


作ってきたお弁当を机の上に置きながらそう聞くと、虎杖くんは「うん、順調だよ!」と元気いっぱいに答えながら視線は持ってきたお弁当に釘付けになっていて。クスクスと笑いながらお弁当箱をパカリと開ける。


「虎杖くんと一緒に食べたくて張り切ってたくさん作っちゃった♡」
「え、まじ!?!?先生ありがと!!すっげー嬉しい!!!」


キラキラと目を輝かせる虎杖くん。かっかわいいぃぃぃ。これが15歳…癒されるぅぅ。こんな喜んでくれると先生頑張って作ってきた甲斐があったよ…。
















「「いただきまーす」」

「うっっっっっま!!!!!!」
「ふふ。良かった」
「美人で強くて優しい上に料理上手って…清宮先生って最強じゃね?」
「そんな褒めても何も出ないよ?」
「思ったこと言っただけだし」


当たり前のようにそう言ってパクパクと唐揚げを頬張る虎杖くんをじいっと見つめる。するとみるみる顔が赤く染まって、照れ臭そうに私をちらりと見る虎杖くんがかわいくてついクスリと笑みがこぼれる。


「先生、そんな見られると食べづらいんだけど…」
「私のことは気にしなくていいから」
「いや、先生美人だからさ…流石に照れるって」
「虎杖くんは彼女とかいないの?」
「え、それ今聞く?」


先生、変わってんね。可笑しそうに笑う虎杖くんに「呪術師なんて変わり者しかいないよ」と返すと「あー確かに」と納得される。そもそもまともな人間に術師なんて務まらないよ。


「彼女いないよ」
「え、意外。モテそうなのに〜」
「いやぜんっぜんだめ。俺彼女いたことねーし」
「うそだ〜〜〜」
「嘘じゃねえって。清宮先生は彼氏いんだろ?」
「ふは、なんでいる前提なの」
「逆に清宮先生に彼氏いない方が驚くわ」
「それは褒め言葉として受け取っていいのかな?」
「もち」
「ありがとう」


クスクスと笑いながら卵焼きに箸をつけてパクリと口に含む。ん〜〜我ながら甘くてふわふわで美味しい。悟が私の卵焼き大好物なんだよね。


「なんか上手く交わされた気ぃすんだけど…」
「ふふ、ミステリアスな女の方が魅力的でしょう?」
「…先生から話振ってきたくせに」
「虎杖くんと恋話したかったんだよ。彼女の惚気話とかさ〜」
「ごめんね彼女いなくて」
「まだまだこれからだよ」


よしよしと頭を撫でると、虎杖くんの頬が赤く染まる。
まだ15歳なのに。こんな地下に軟禁されて、限られた人としか会話もできず、行動も制限されて。私ならそんな生活、絶対に耐えられない。


「…今日みたいに仕事の空き時間とか、早く終わった日はなるべく虎杖くんに会いに来るから」
「え」
「また一緒にご飯食べようね」
「っ、うん!!!!」


泣きそうな顔をしてくしゃりと笑う虎杖くんに、胸がきゅっと締め付けられる。虎杖くんは決して強い子なんかじゃない。強くいなければならない世界に急にポンっと放り込まれただけであって、中身はただの子供なんだから。













寂しそうな子を見ると
つい自分に重ねて、同情してしまう。

同情なんてされたくない。
その気持ちは、私が1番分かっているはずなのに。



私はいつまで、過去に囚われているのだろう。





「どうだった?虎杖の様子は」
「ん〜思ったより元気そうだったよ」
「それなら良かった」


そのまま医務室にいる硝子に会いに行って、パイプ椅子に腰をかける。


「…なんかさ、最近思うんだよね。私が孤独な子達をほっとけないのって、ただのエゴなんじゃないかなあって」
「エゴでもなんでもいいじゃん。結果、その子が救われたら」
「………昔の自分を見ているようで、辛くなる時がある」
「……」
「今でも怖くなる。いつかまたひとりぼっちになるんじゃないかって」


瞼を伏せながらポツポツと言葉を発すると、「なんかあった?」と優しい声色でそう問いかけられて。ぎゅっと唇を噛む。


「…硝子は知ってた?傑が…その、」
「ああ、夏油が希を好きなこと?」
「…知ってたんだ」
「なに、夏油に告白でもされた?」


ほら。とあったかいコーヒーを差し出され、ありがとう。と返しながら、鼻の奥がツンと痛くなる。もうやだ。最近泣いてばっかだ。


「……次会う時に、大事な話があるって言われた」
「へえ。で、希はどうすんの?」
「………………分かんない」


素直な気持ちを口にすれば、硝子が少し驚いたような顔をする。


「迷ってんの?」
「………愛してるのは悟だよ。でも…傑と今までの関係が壊れてしまうことが、怖い」
「じゃあ二人と付き合えばいーじゃん」
「……は?」
「3人交際。名案だろ?」


ニッと悪戯な笑みを浮かべる硝子に冷ややかな視線を送る。


「あのね、硝子チャン。今私真面目に相談してるんデスケド」
「うん。だから私も真面目に相談に乗ってやってる」
「……」
「ふは、なんだその目」


ケタケタと笑う硝子。いやかわいいんだけど。かわいいんだけどさあ!


「深く考えすぎ。昔から希の悪い癖だよ」
「だって、」
「だってもなにも、希は五条が好き。それが全てじゃん。それに夏油がそう簡単に希を諦めるとは思えないし」
「……え?」
「そんな不安にならなくていいって。夏油も五条も、誰も希の傍からいなくならないよ」


不思議だなあ。硝子に会うまではあんなに不安で押し潰されそうだったのに、すっと心が晴れやかになる。やっぱり持つべきものは親友だよ…


「……てかさ、」
「ん?」
「私、てっきり傑は硝子のことが好きなんだと思ってた」
「は?なんで」
「だってすごい仲良しじゃん。2人で旅行も行ってるし」
「まああんなんでも一応友達だからな」
「ふーーーん」
「夏油が好きなのは希だよ」
「硝子は?」
「は?」
「硝子は傑のこと、好き?」


「秘密」


誰かが言っていた。男女の友情は成立しないと。
今更そんな言葉が、頭を過る。

4人の関係が少しづつ、変化しようとしていた。

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