任務から帰ってきたら東堂と恵が殺気ダダ漏れで対峙していた。……え?何事??一瞬なにが起こってるのか理解が追いつかなかったけど、流石は私。すぐに思い出した。
…そういえば今日だったわ。交流会の打ち合わせでジジィが来んの。色々なことがありすぎてすっかり頭から抜けてた。
「おお。これは久々だな。Ms.清宮」
「っ、清宮先生?」
ニヤリと口角を吊り上げる東堂と驚いた顔をしている恵。はぁ、とため息を溢して恵の前に立つ。
「ちょっと東堂。うちのかわいい恵「おい」虐めないでくれる?」
「相変わらずイイ女だ。まあ、高田ちゃんには負けるがな」
「ねえちゃんと会話しよ???」
東堂は、強い。恵が到底敵うはずがない。ジリジリと距離を詰めてくる東堂は不適な笑みを浮かべている。なに、この2人喧嘩でもしたの?
「そこを退け、Ms.清宮。俺は伏黒に用がある」
「悪いけどそれは無理な話ね。生徒を守るのも教師の義務なのよ」
ギロリと刺すような目つきで睨みつけられるけど、学生時代あの最強と謳われる男と校舎が半壊するほどの激しい喧嘩を数えきれないほどしてきた身としては、こんなこと全く臆することではない。
ただ東堂を相手にするのはちょっと、いやかなりめんどいだけで。いろんな意味で。
そんなことを思ってゲンナリとしていると、見知った呪力を感じて、っ?!心臓が跳ねる。
「東堂。なにをしているんだい」
「夏油傑…」
は?なんで????なんで傑がここにいるの????今日高専に寄るなんて一言も聞いてないんですけど??!一人脳内でパニックになっている私に反して、傑は東堂に向かって張り付けたような笑みを浮かべている。うわー…長年の付き合いだからこそ分かる。あれは、かなり怒ってる顔だ。
「ほんっとに君達は…少し目を離したらこうだ。交流会前の揉め事は厳禁だと何度も言ったはずだろう」
「俺をがっかりさせた伏黒が悪い」
「え?なに、恵なにかしたの?」
「別に何もしてませんよ…」
「伏黒は女の趣味がつまらん。俺はつまらん男が大嫌いだ」
「「はぁ………」」
くだらない。多分、いや絶対今傑と同じことを思ってる。でもまあ、それが東堂葵という人間だから、厄介なのよ。
「恵!大丈夫か?!」
「しゃけ!!!」
「パンダ先輩。狗巻先輩」
「ん???おっっと、傑久しぶりだなっ!」
「や。久しいね、パンダ」
どうやらこの2人(?)は恵を助けにきたらしい。パンダは大好きな傑を見るなりパァッと表情が明るくなってブンブンと大きく手を振っている。か、かわいい。
「希。私の生徒が迷惑かけてすまなかった」
「迷惑などかけて「東堂」……」
「後は真依か…」
「大丈夫。その分交流会でこの子達に思う存分暴れてもらうから。ね?」
「しゃけ!」「任せとけ!」「ふっ」
「ははっ。楽しみにしてるよ。さ、東堂。真依のところに行くよ」
「言われなくてもそうする所だ。上着どこだっけ。
どうやら、退屈し通しってワケでもなさそうだ」
恵が東堂に強い眼差しを向ける。
めぐ…そんな目をできるようになったんだね…まま泣いちゃう…っ
「乙骨に伝えとけ。『オマエも出ろ』と」
「オレパンダ。ニンゲンノコトバワカラナイ」
「……」「……」
「じゃあまたね、希」
「………またね、傑」
また?
ドキドキと心臓が煩くなる。
今度会った時、大事な話がある
急すぎてまだ心の準備できてないよ。せめて連絡くらいしてよね。ていうかいつもはするのになんで今回だけ……あぁもう傑のバカ!!!!!!!
『今どこ?』
悟から着信が入ってたから掛け直してみれば、1秒も経たずに電話に出る私の彼氏。今日も悟は私のことが大好きで可愛い。
『今高専の喫煙所だよ。悟は?』
『ジジィに言いたいこと言ってた』
『ふは、流石は五条悟』
『少しスッキリしたよ。学長が来る時間も嘘ついてやった。ざまあみろ』
『うん。私、悟のそういうところ好きだよ』
『当たり前でしょ。ところでさ、傑にはもう会った?』
傑の名前が出た瞬間、心臓がキュッとなって、冷や汗がたらりと首筋を流れていく。なんでこんなに動揺してるのか自分でも分からない。悟はただ深い意味なんてなくて何となく聞いてるだけかもしれないのに。
『うん、会ったよ。傑も来るなんて聞いてなかったからびっくりしたよ』
『アイツ、僕にも来ること秘密にしてた。やんなるよ』
『え、悟にも言ってなかったんだ』
『うん。何を考えてんのかね〜』
『え』
『声聞いたら実物に会いたくなっちゃった♡』
携帯を耳に当てながら片手を上げてニカっと笑う悟にも〜なんて言いながらすぐに着信を切って、たったったっと駆け寄ってぎゅうっと勢いよく悟に飛びつく。
「はは、熱烈〜♡」
「悟だぁ」
「はいはい希の悟くんですよ」
頭をよしよしと撫でられて胸がキュンと高鳴る。なんでいつもこんなかっこいいんだろう?悟と何十年も一緒にいるけど、未だかつてこの男のかっこよくないところを見たことがない。いつだって信じられないくらいかっこよくて、私をドキドキさせるの。
「「え」」
しばらくぎゅーしたりちゅーしたりイチャイチャしていると、傑の呪力を近くに感じて2人してばっと視線を向ける。
「……イチャイチャしてるとこすまないね。希借りてもいいかい?」
え、タイミング悪くない?悟が「は?」と苛立ちを含む声で言うと、「希に話しがあるんだけど」と傑は困ったように眉を下げる。
「ムリでーす。今僕彼女とイチャイチャしてんの。空気読めよ、ムッツリ」
まるで高専の頃みたいな強めの口調に、ピキリと傑の額に青筋が浮かぶ。うん、知ってるよ。傑も悟に負けず劣らずの短気だもんね…!
「少しくらいいいだろう。それともなんだい?悟は私と希が2人きりになって何かあるのかもしれないって、自信がないのかな?」
「あ゛?」
「ちょっと傑…」
「僕は希のこと信用してるし、自信ありありなんですけど」
「じゃあ希借りるね。希、いいかい?」
傑の問いかけにコクンと頷くと悟がぎゅぅぅうっと痛いくらい強く抱きしめてきて、いっ!と思わず声を上げると「ごめん…」と弱々しい声で謝られる。え、なにそれかわいい……
「私も忙しいし、そんな時間取らないから安心してよ」
「だーかーらー!不安がってねえから!!!!!」
ぐわっと大声でそう叫ぶ悟。私と傑への態度が違いすぎて笑ってしまう。なんだか高専の頃に戻ったみたいで、ほんの少しだけ、嬉しくなる。
「じゃあ行こうか、希」
…行くって、どこに?
というか、当たり前のように手繋がれてますけど。悟が後ろから光の速さで繋がれていた手を離してきて、「俺の女に手ぇ出すな!!!!!!!」なんて叫ぶように傑に言うもんだから不覚にも胸がきゅんってして顔が真っ赤になる。
「妬けるねえ」
ねえ、そんな愛おしそうな眼差しで私のこと見つめないでよ。色々な感情が混ざり合ったものが胸を突き上げてくる。
どうしよう
心臓の音が、煩い。