全てを欲しいと願う愚か者

悟から連絡がきた時に嫌な予感がしていた。
私の勘は、こういう時にでさえ良く当たる。


「わざとでしょ」


部屋中の空気がピリピリと張り詰めている。座っている悟の前方には冷や汗を垂らしながら立っている伊地知がいて、私はその2人の中間に壁に背を預けながら腕組みをして立っている。
伊地知のことは不憫に思うけど、今回ばかりは伊地知の肩を持てない。冷静に見えるかもしれないけど、これでも私も結構怒っているのだ。


「と、仰いますと」
「特級相手。しかも生死不明の5人救助に一年派遣はあり得ない。僕が無理を通して悠仁の死刑に実質無期限の猶予を与えた。面白くない上が僕のいぬ間に特級を利用して体良く彼を始末ってとこだろう。他の2人が死んでも僕に嫌がらせができて一石二鳥とか思ってんじゃない?」


ガンッと後ろの壁を思いっきり殴ると、伊地知がカタカタと震えだす。やってらんない。深く息を吐き出してタバコを取り出す。


「いやしかし、派遣が決まった時点では本当に特級に成るとは…」
「犯人探しも面倒だ。


上の連中、全員殺してしまおうか?」


「珍しく感情的だな」


声のした方に視線を向けると、指で髪をいじりながら硝子が部屋に入ってきて、私を見るなりすたすたと近付いてきて頭をよしよし撫でられる。それだけで抑えきれない感情が少しづつ落ち着いていくから、硝子は私の精神安定剤のようだと思った。


「随分とお気に入りだったんだな、彼」
「僕はいつだって生徒思いのナイスガイさ」
「あまり伊地知をイジメるな。私達と上の間で苦労してるんだ」


硝子の言葉に伊地知の顔がいつも以上に気持ち悪くなって、なんかイラッとしたから伊地知をキっと睨みつけると伊地知は ヒィッ と小さな悲鳴を上げる。毎回思うけど私のこと怖がりすぎじゃない?いつも悟から庇ってあげてるのに酷すぎるでしょ。希ちゃん泣いちゃう…。


「男の苦労なんて興味ねーっつーの」
「悟に同意〜」
「そうか」


もっと言って!!と伊地知の顔に書いてあるけど全員スルー。硝子が「で、コレが」とバサッと白い布をめくりながら「宿儺の器か」と呟く。


「好きに解剖バラしていいよね」
「役立てろよ」
「役立てるよ。誰に言ってんの」
「硝子かっこいい…抱いて…」
「空気読みなよ、希」
「そこが希の愛らしいところだよね」
「オマエは希を甘やかしすぎだ」
「そーいう硝子もね」
「…っ2人とも愛してる!!」





「僕はさ、性格悪いんだよね」
「「知ってる(ます)」」
「伊地知後でマジビンタ」
「マ…マジビンタ?何故私だけ!?」
「希はかわいいから許す」
「ドンマイ、伊地知☆」
「り、理不尽…っ」
「教師なんて柄じゃない。そんな僕がなんで高専で教鞭をとっているか、聞いて」
「なんでですか…?」
「夢があるんだ」
「夢…ですか」
「そっ。悠仁のことでも分かる通り、上層部は呪術界の魔窟。保身馬鹿 世襲馬鹿 高慢馬鹿 ただの馬鹿 腐ったミカンのバーゲンセール。


そんなクソ呪術界をリセットする。
上の連中を皆殺しにするのは簡単だ。でもそれじゃ首がすげ替わるだけで変革は起きない。そんなやり方じゃ誰も付いて来ないしね。だから僕は教育を選んだんだ。
強く聡い仲間を、育てることを。
そんなわけで自分の任務を生徒に投げることもある。愛のムチ」
「それサボりたいだけでしょー」
「ハイハイ希ちゃんは黙ろうねー」
「はーい」
「皆優秀だよ。特に三年秤、二年乙骨。彼らは僕や希、そして傑に並ぶ術師になる」


ギュウッと拳を握りこむ悟の上にそっと自分のソレを重ねる。悟の気持ちは痛いくらい分かるよ。大人しく悟の話を聞いていた伊地知が、ふと不思議そうに私を見つめて口を開いた。


「清宮さんは…」
「私?」
「清宮さんは、何故教鞭をとろうと思ったのですか」


ああ、そうか。伊地知は知らないのか。私が何故、教師になろうと思ったのか。


「大切な人を、守りたいから」


もう二度と、傑にあんな思いをさせたくないから。
キョトンとする伊地知はきっと私の言っている“大切な人”が誰か想像がつかないんだろうなあ。


「ちょっと君達。もう始めるけど、そこで見てるつもりか?」


えっ


「おわっ!!フルチンじゃん!!」


う、嘘でしょ…?!!?おっおきて…!?


「ごごごご五ご五条さん!!せせせせ清せ清宮さん!!いいいいいい生き「クックッ伊地知うるさい」
「まじかー…うわまじかー…」
「ちょっと残念」
「あの〜恥ずかしんスけど…誰?」
「悠仁!」「虎杖くん!」
「「おかえり!!」
「オッス!ただいま!!」


パンっとハイタッチをする悟と虎杖くんをニコニコしながら微笑ましく見ている私と本当に残念そうな顔をしている硝子。
虎杖くんが生きてた。死んでいなかった。本当に、本当に良かった…。思わず目の奥がじんわりと熱くなって、ぽたぽたと涙が頬を伝う。硝子はそんな私を見て優しく微笑むと、ぎゅうっと抱きしめてくれた。うぅ、大好きだよしょーこぉ…。





「あー報告修正しないとね」
「いやこのままでいい。また狙われる前に悠仁に最低限の力をつける時間が欲しい。記録上、悠仁は死んだままにしてくれ」
「んー?じゃあ虎杖がっつり匿う感じ?」
「いや交流会までには復学させる」
「何故?」
「簡単な理由さ。若人から青春を取り上げるなんて許されていないんだよ。何人たりともね」


「ふーん。ていうか五条、希と喧嘩した?」
「え?なんで?」
「昔から分かりやすすぎるんだよ、オマエ達は。希まだ五条が部屋にいるのに気にせず部屋から出て行くし」
「あー…やっぱり希怒ってるのかなぁ」
「心当たりあんの?もしかして浮気でもした?」
「いや心当たりはあるっちゃあるけど…別にアレは僕悪くないし。ていうか断じて浮気ではない。僕の希への愛を見くびるなよ」
「仲良くやれよ、ああ見えて希は繊細なんだから。彼氏の五条がきちんと支えてやれ」
「…硝子ってさ」
「何?」
「めちゃくちゃ希のこと好きだよね」
「…そりゃあ、まあ、親友だからな」
「僕のことは好きー?」
「は?そーいうの気持ち悪いからやめろ」
「ひどっ!悟くん泣いちゃうっ!」
「……」
「ウソウソだからそんなゴミ屑を見るような目で僕を見ないでっ!」
「…はーー。私なんかに構ってないでさっさと希んとこ行ってきなよ」
「…ねえ一つ聞いてもいい?」
「何?」


「傑って希のこと好きだよね?」


「…親友だから、好きなのは当たり前じゃない?」
「うん、そっか、今ので分かった。ありがとう、硝子」
「おい待て今のでなにが分かったんだ」
「ん〜?別にぃ。硝子はなーんにも心配しなくていーよ」
「……五条。怖いよオマエ。頼むから変なこと考えるなよ?」
「えー?変なことって?」
「…私は五条も夏油も同じくらい大切なんだよ」
「ははっ。なんだかんだ硝子ってお人好しだよねえ」


ニコニコしているのに目は全く笑っていないしなんなら殺気すら感じる五条に小さなため息を零す。
とりあえず今日のことは夏油に報告しようと思う。頼むから親友同士で殺し合いとかやめてくれよ…。いやマジで。


今夜の4人での飲み会が憂鬱すぎて禁煙5年目なのに久々にヤニが吸いたくなってきた。ああ、胃が痛い

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