「冥さぁん…ちゅーしてぇ…」
その媚びるような甘ったるい声にギョッとしながら希を見れば、希はあろうことか冥さんの膝の上に跨ってその首に腕を回しキスを迫っていた。いやいやいくら冥さんのことが大好きだとはいえ流石に大胆すぎじゃないか?同じくすでに出来上がっている歌姫先輩は「キースッ!キースッ!」と興奮気味にキスコールをしていて思わずハア、と大きな溜息を吐く。相変わらずの酒癖の悪さ…。めんどくさいことこの上ない。
「すいません…冥さん」
「ん?フフフ、大丈夫だよ。今日は随分とお酒のペースが早かったからね」
「こら、希」
「ん〜?しょーこぉ…?」
「流石に酔いすぎだ。冥さんが困ってしまうだろう。離れなさい」
「なぁに、ヤキモチ妬いてるのぉ?」
「はあ?」
「だいじょ〜ぶぅ。しょーこにもぉ、たくさんちゅーしてあげるから〜♡」
「は?なにっ…」
トロンとした瞳のまま私を見つめてそのままちゅうっと希にキスをされる。その瞬間、ヒューッと顔が真っ赤に染まっている歌姫先輩が口笛を吹いてきて、思わずグッと眉を寄せる。
「っ〜〜〜!?」
しかもこいつ舌入れてきやがった…!咄嗟に顔を逸らそうとするけど後頭部に手が回されていてビクともしない。クソッ、バカ力め…!
「希」
「…?冥さ……んっ♡♡♡」
冥さんが希の名前を呼んでくれたからようやく長いキスから解放された。ていうか名前を呼ばれだけでキスをやめる希もまあまあガチで冥さんが好きなんだろうけど(いろんな意味で)、酒が入っているとはいえしょっぱなからディープかます冥さんも流石というか…凄いですね。とりあえずスマホを手にとって動画を撮る。そういえば歌姫先輩は?と思って見渡すとニヤニヤしながら同じように二人にスマホを向けていた。なんだこの状況。
「希…」
「あっ…んんっ、冥さぁん…」
「キスだけで顔がトロトロじゃないか。希はかわいいねえ」
「やっ…冥さん、もっとちゅーしてぇ…?」
「欲張りな子だね。ほら、もっと舌をだして…?」
「んっ…♡♡♡」
もしかしなくても…これ冥さん普通に見えて実は結構酔ってるな?二人の仲が良好なのは知っているし、それこそ今日みたいに歌姫先輩がこっちに用があって来た時に冥さんも誘って度々女子会を開いたりしていたけどそれでもこの二人のこんな絡みを見たのは今日が初めてだ。珍しい絡みに、なんか面白くなってきて五条に動画を送信する。送信した後に五条が今出張中だったことを思い出したけど、はたして独占欲強め系彼氏の五条がどんな反応をするのか。今から楽しみで仕方ない。
いやでも、アイツ私と希がキスしても全く妬かないから女同士だと気にしないのかもしれない。チッ。だったらつまんねえな。
「希…綺麗だよ…」
「んっ、はぁ…冥さん、すきぃ…♡」
「ふふ。ありがとう」
前から思ってたけど冥さんと希って絵になるよなあ。二人が並んで歩いているだけで映画の撮影だって勘違いされて人だかりができたのは有名な話だ。
「うわ、電話かよ」
面白がって送ったのは私だけど急にめんどくさくなってきた。まあいいやとタップしてスピーカーをONにすると、いつもよりやや声が低めの五条の声が耳に響く。
「もしもし硝子ぉ?なにアレ新手の嫌がらせ?僕今任務中なんですけど〜」
「そもそも任務中に携帯触るなよ」
「いや〜今日女子会すんの知ってたし?硝子から動画送られてきたら流石に気になるじゃん?」
「…つーか凄い音聞こえるんだけど。もしかして今呪霊祓ってる?」
「ん〜?さっき任務中だって言ったろ?ちょっと待っててね、すぐ終わらせて飛んでくから」
「は?まさかここにくるとか言わないよね?」
「いやそのまさかですけど」
「来んな来んな。つか場所分かんないでしょ」
「GPS」
「あー…そういえばそうだったわこのバカップル…」
「よしっ。今終わらせたから5分以内にはそっちに着くよ。そしたら希連れて帰るね♡」
「…お前同性同士だと嫉妬しないんじゃなかったの」
「それは硝子だからだよ。君は特別」
「うわ全く嬉しくねえ」
「そんな照れるなよ♡」
ハア、とため息を吐きながら通話を終わらせる。ちらりと視線を向けると歌姫先輩はスマホ片手にグースカ爆睡していて冥さんと希はというとさっきよりも濃厚なキスをしていてうわマジか…と久々にヤニが吸いたくなってきた私をどうか許してほしい。いやだって冥さんばりっばり希の胸に手当ててるし希も希で冥さんの太もも触ってるし。いやいやコレは流石に…って思ってスンッてなる。そういえば私と希って別にシラフでもそれ以上のことシてるじゃん?改めて思うけど私と希って絶対親友の距離感じゃないよな。うん。以後気をつけます。
そんなことを思いながら死んだ目でビールを飲んでいると、ガラリと個室の扉が開いて目隠しをしている五条が入ってくる。そしてキスをしている二人に視線を向けた瞬間、五条の纏う雰囲気が一気に冷たくなって、わあ、修羅場だあ。なんて野次馬精神で少しだけまた面白くなる。
「希」
「んっ…あれぇ、さとるぅ?なんでさとるがここにいるのぉ?」
「希に会いたくなって急いで任務終わらせて来ちゃった♡一緒に帰ろう」
「やだぁ…まだ帰らない…冥さんともっと一緒にいるのぉ…っ」
「フフフ。そういう事だから五条くん、悪いね」
いや五条めっちゃキれてんじゃん。目隠ししていても隠しきれてないくらい激怒じゃんウケる。後で夏油に電話しよーっと。
「冥さん」
「なんだい、五条くん」
冥さんの名前を呼んだ五条は、真顔のまま「一千万」と人差し指を立てながら呟いて、その言葉を聞いた冥さんの顔つきがガラリと変わる。
「五条くん」
「なあに、冥さん」
「それで手を打とう」
「さっすが冥さん、話が早くて助かるよ♡」
冥さん酔っててもお金のことになると正気に戻るんだ。流石冥さんかっけー…。(←何だかんだ少し酔ってる)
冥さんちゅーは?さっきのきもちぃちゅーして…?とおねだりしている希の唇を無理矢理奪う五条。うわぁ…。
「あっ…んんっ、さとるぅ…っ」
「はっ…希、逃げないで、」
「んっ…♡やっ、ぁ…」
「キス、気持ち良かった?」
「……きもちよかったぁ♡」
「もっときもちいこと、たくさんシたい…?」
「ぅん…シたい…」
「じゃあ一緒に帰ろうか?」
「んっ…ぅん♡」
「五条」
「なあに、硝子」
「明日も仕事なんだからほどほどにしとけよ」
「努力しまーす♡」
ああ、これはーー。嫉妬深い彼氏持つと苦労するよなあ、なんて思いながら、またビールを口にする。希、ご愁傷様。
「…冥さんって、希のこと結構好きですよね」
「ん?ああやって分かりやすく好意を向けられるのは悪い気はしないよ。チワワみたいで、かわいいじゃないか」
「…チワワ???」
次の日
「…は??なにこれ!?」
携帯を触っていたら冥清のディープキス動画を見つけて動揺する歌姫。
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