4月。晴れ渡る青空と満開の桜の元、中学校の入学式が行われた。
私と悟は同じ中学。校門をくぐってすぐに私達の周りにはきゃーきゃーと取巻きが騒ぎ立てている。小学校が同じだった見慣れた顔もあれば全く見慣れない顔もあってげんなり。
頬を染めて悟に熱い視線を送るブス共に心の中で盛大に舌打をして、悟の腕に自分のソレを絡める。
「さとるぅ…」
「ん〜?いきなりどうしたの?甘えんぼ?」
「うん…好きって言って」
「かあいい♡なまえだあいすきっ♡」
「私も悟のこと大好きぃ…♡」
お互いに見つめあって、そして引き寄せられるようにちゅっと唇を重ね合う。私達が恋人同士なのを知っている取巻きはきゃああああっと喜びの歓声をあげて、知らないヤツらはサーーーッと顔を青ざめさせている。悟は私の男だから手出すなよっていう、牽制。まあ、悟が私以外の女にふらつくなんて死んでもありえないけど。
「うそでしょ…」
「やだやだやだやだやだ!なまえと同じクラスじゃなきゃ死んじゃう!!!ぜってえ認めねえから!!」
私と悟は別のクラスだった。ショックのあまり呆然とする私と子供のようにわんわん泣きじゃくる悟。そんな私達を必死に宥めようと頑張る取巻き。まさにカオス状態。
ーーそんな時。ふと懐かしい気配を感じて視線を向けると、そこには誰もいなくてこてんと首を傾げる。…気のせいかな?
最悪の気分のまま迎える入学式。小学校の時もクラスが別々になるたびに二人して先生に抗議しに行ってたのが懐かしい…。
体育館に入場して一際目立つ私と悟の両親が笑顔で手を振ってくる。恥ずかしいからやめてくれ。離れた場所にいる悟が私の名前を呼びながら必死に手を伸ばしていて今すぐ悟を抱きしめたい気持ちでいっぱいになる。こんなの辛すぎるよぉ…っ。
悟は私。私は悟しか見えていなかったから気付かなかった。新入生の挨拶で立っている、私達の大切なあの人に。
「本日より、私達新入生はーー」
ーーえ?
「ねえあの人めちゃくちゃかっこよくない?!」
「背たかっ!!モテそ〜」
懐かしいその声色に、目を見開く。
うそ…うそだ…だってこの声は…!
「「すぐるぅぅぅぅぅぅぅぅう!!!!!」」
「コラー!!そこ!!静粛に!!!」
「…ふはっ」
吹き出してクスクス笑う傑を見つめながら目頭が熱くなる。すぐる…すぐるだぁ…っ。ちらりと悟を見ると悟も瞳をウルウルさせていた。分かるよ。私も悟も、今でも傑のことが大好きなんだ。
入学式が終わって下校する時に、女子に囲まれている傑の元に悟と駆け寄る。そもそも傑は私達のことを覚えているのだろうか。少しの不安と傑にまた会えたんだという嬉しさが混ざり合って、心臓がドキドキと脈打つ。
「「「キャァァァァァァァ!!!」」」
私と悟と傑の三人が揃うと、甲高い声が学校中に響き渡る。まあ、自分で言うのもなんだけど私達くらいのレベルの顔なんてそうそういないし当たり前か。それにしてもうるさいけど。
「「傑」」
悟と一緒に、傑の名前を呼ぶ。
どんな反応するのかな。誰?なんて言われたら、仕方ないのは分かってるけどやっぱり寂しいよ…。
「久しいね。悟、なまえ」
グッと目頭が熱くなって、ポタポタと涙が溢れ落ちる。
覚えてたんだ…
傑も前世の記憶があったんだ…っ
ずっと傑に会いたかった。だけどそれと同じくらい、会うのが怖かった。お互いに口には出さなかったけど、多分悟も私と同じ気持ちだったんだと思う。
もしも傑が私と悟のことを忘れていたら?共に過ごしたあのかけがえのない日々を、全て綺麗に忘れ去っていたら?
「えー…そんなに泣く?」
困ったような笑みを浮かべる傑はあの頃と全く同じで、嬉しさのあまり悟と飛びつくように傑に抱きつく。「うおっ…!」なんて足元がふらついても倒れないあたり、今世でもかなり鍛えてるんだろうなあ。
「す゛ぐる゛ぅぅ!!」
「悟、鼻水でてる」
「す゛ぐる゛ぅぅ!!」
「なまえ、そんなに泣いたらかわいい顔が台無しだよ?」
子供みたいにわんわん泣いている私と悟を優しく抱きとめてくれる傑。そんな私達の姿を取巻きは鼻血を出しながらスマホで写メってた。おいお前ら盗撮ヤメろ。
「硝子はどこにいんのかなあ」
「硝子にも会いたいよぉ〜…」
「ふふっ」
「なあに笑ってんだぁすぐるぅ!」
入学式が終わってそのまま私の家に三人集合。
私と悟と傑。三人揃ったけど後もう一人、私達の大切なあの子だけがここにいなくて、寂しくなって悟の腕にぎゅうってしがみつく。傑は硝子を恋しがっている私達を見て可笑しそうにクスクス笑うと、「ほら」とスマホの画面を私達の顔の前にかざした。
「え…いきなりなに……はあ!!??」
そこには傑とあの頃と全く変わらない容姿をしている硝子とのツーショットがあって、悟と食い入るようにその画面を見る。
「「硝子じゃん!!!」」
「ふはっ。うん。硝子だよ」
「「なんで!?!?」」
「小学校の時に通いはじめた塾で偶然会ったんだよ。驚きだよね」
悟と目をまんまるに見開いて、そしてぐわっと傑に詰め寄る。
「「硝子に会いたい!!!」」
「…ぶはっ!そう言うと思ってもうLINEしといたよ。悟となまえに会ったよって送ったらウケる。だって」
「ウソでしょ…硝子たんクールすぎるぅ…」
「流石硝子様…」
「今近くのOO駅にいるって。…行く?」
「「行く〜!!」」
硝子に会える。嬉しい。本当に嬉しい…っ。顔のにやけがとまらない。しかも硝子も私達のこと覚えてたんだ。
悟と傑と手を繋いで家を飛び出す。あらあ、仲良しねえ♡なんてママが嬉しそうに微笑んでいる。そうだよママ。私達、本当に仲良しなの!
駅で気だるげに携帯をいじっている黒髪ボブの美少女。周りの男達がチラチラと頬を染めながらそんな硝子のことを見ている。
「マジで硝子じゃん…」
「相変わらずクールビューティ…♡」
悟と顔を見合わせて、そしてくしゃりと笑う。
傑が優しい眼差しでそんな私達の頭をよしよしと撫でてくれる。
悟と傑と硝子。
私の特別な人。
ずっと。ずーっと。変わらない。
「「「久しぶり!硝子!!!」」」
ようやくみんな、揃ったね。
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