私の幼馴染はかわいい。かわいいだけじゃない。優しくて好きな男の子に振り向いてもらうために一生懸命頑張ってる、中身もとってもかわいい女の子。
キーンコーンカーンコーン
授業の終わりを告げるチャイムが校内中に響いて、終わりの挨拶がはじまる。いつもと変わらない日常風景。ぼんやりと教室の窓からグランドを眺めていると、後ろから背中を指でツンツンされて、ため息を吐く。
「エマ〜なによ〜」
「この後クレープ食べに行こぉ」
「やだよ。ダイエット中だって言ってんじゃん」
「ねえ前も言ったけどそれ嫌味?これ以上痩せて一体どうするつもりよ」
「どうって…」
別にどうもしないけど。ただ、好きな人に少しでもかわいいって思ってほしいから。そんなことエマに口走ったら絶対にその“好きな人”を言うまで離してくれないから口が裂けても言えないけど。
「…別に。最近少し太ったから元に戻したいだけ」
「は〜〜やっぱり嫌味だ!なまえのバカ!!」
「は〜?バカって言う方がバカなんですー!!」
「おい佐野、みょうじ!うるさいぞ!」
「「……すいません」」
クスクスと同級生達に笑われて少しだけ恥ずかしくなって俯いた。もう全部エマのせいだ、バカ。
「あ、佐野さんとみょうじさんだ」
「やっぱ二人ともかわい〜」
「佐野さんがかわいい系でみょうじさんが綺麗系だよな」
「はあ…二人があの東卍の総長の妹と幼馴染じゃなければ絶対アタックしてたのによー」
「やめろって相手にされねーよ」
「うっせーわ夢くらい語らせろ!」
エマと腕を組みながら廊下を歩いていると、嫌でも周りからの視線を感じてしまう。それもそうだ、私達はこの学校で有名人なんだから。多分、悪い方の意味で。
「あ、エマとなまえじゃーん」
「え?マイキーとドドドドラケンっ!」
「ははっ。お前どもりすぎ」
「へー今日“は”学校きてたんだ〜」
「はー?毎日ちゃんと来とるわ。なんなら皆勤賞だし。なあケンチン?」
「いやそれは嘘だろ」
「そこはノれよな」
「あ、これからなまえとクレープ食べに行くんだけどド、ドラケン達もどう?」
「は!?ちょっエマ、私行かないって言ってんじゃん」
「えー一緒に行こうよ」
「行かない」
「行かねえの?」
「え?」
「久々じゃんこの4人で出掛けんの」
そんな風に残念そうな顔をされたら断ることなんてできるはずもなく、渋々こくんと頷いたらエマとマイキーに「なまえはほんとドラケンに甘い!!」なんてぶーぶー文句を言われてドキッと心臓が嫌な音を立てる。私ってそんなにドラケンに甘いのかな…?大丈夫かな、バレてないよね?
「ほら、そうと決まればさっさと行くよっ。周りからの視線が痛すぎる」
「それは言えてる」
「あれー誰のせいかなあ?」
「「マイキーのせいだよ!!」」
エマの一つ上の兄で私の幼馴染でもある佐野万次郎。通称、マイキー。そしてその隣にいる大きいのが、私の片想い中の相手、龍宮寺堅。通称、ドラケン。詳しくは知らないけど二人とも東京卍會っていう大きな暴走族に属していて、マイキーはそのトップでドラケンはNo.2らしい。そりゃあそんな大きなチームの総長と副総長の妹と幼馴染となれば私とエマが悪目立ちするのは当然なわけで。
教師にすら恐れられている私達に新しい友達なんてできるはずもなく、必然的に中学2年生になっても仲良しの女友達は幼馴染のエマ、たった一人だけ。元々姉妹みたいに仲が良かったけれど、中学に入学してからは更にエマとの絆が深まった気がする。
「つーかさ、ケンチンって甘いもの苦手じゃなかったっけ?」
「あー…?んなこと、ねぇよ」
「ふーーーん」
「おいマイキー、ニヤニヤすんな」
二人がこんな会話をしていることは露知らず、私達は原宿に向かうのだった。
▽
「君たちかわいいね〜。お兄さん達とちょっと近くのカフェでお茶しない?」
「…人待ってるんで」
「女の子?じゃあその子達も連れてお茶しよーよ♡」
「無理です。他当たってください」
「えーかわいい顔してそんな冷たいこと言っちゃうんだー」
「お兄さん泣いちゃうっ!」
隣にいるエマが手をぎゅっと握ってくる。エマが食べたがっていたクレープ屋さんはなんでも雑誌に載るほどの人気店だったらしく、あまりの行列にドラケンとマイキーが代わりに並んでくれることになった。(マイキーは嫌そうだったけど)
近くのベンチにエマと座りながら二人を待っていたらいかにもチャラそうな高校生くらいの男4人に声をかけられて、断ってもなかなか退いてくれずあまりのしつこさにグッと眉間に皺が寄る。
「ちょっといい加減に…「俺らの連れになんか用?」
「は?なんだおまっ……じゃ、じゃあお友達来たみたいだから俺らもう行くね〜」
ドラケンとマイキーを見た瞬間、サーーッと顔を青ざめさせたチャラ男達が一斉に逃げるように走り去っていく。あの様子だと二人が東卍の総長と副総長だって知ってたな。ダサすぎ。
「大丈夫か?悪ぃな、遅くなって」
「う、ううん。大丈夫」
「ド、ドラケンッ、ありがとう!」
「いや俺は??」
「「マイキーなんもしてないじゃん」」
「はー?!お前らのためにあのクソなげー行列に並んでわざわざクレープ買ってきてやったんですけど!!」
「それはありがとう」
「マイキー大好きっ」
「初めからそう言えよなっ」
相変わらず仲良し兄妹だなあ。なんて二人を微笑ましく眺めていたら、横から視線を感じてふとそっちに視線を向ける。瞬間、ドラケンとばっちり視線が合わさって、ドラケンが少し慌てたように顔をそらす。
「……あ、これ、クレープ」
「あ、ありがとう…」
「おう」
それから特に会話が続くわけでもなく、なんとなく二人並んでクレープを口に含む。瞬間、口の中いっぱいに広がる甘さに思わず頬が緩む。おいし〜!流石原宿の人気店。ダイエットは…うん。また明日から頑張ろう。
「なまえ」
「え?なに…「クリームついてる」…あ、ありがと」
顔がカーッと真っ赤に染まるのが分かる。身体中が熱くてたまらない。その光景を見ていたらしいエマが、クリームをわざと頬につけてドラケンにとってー!とお願いしている。「はあ?お前今自分でつけただろ」「いいじゃん!エマのも取って!」「…仕方ねえな、」そのやり取りはまるで付き合いたての恋人同士そのもので、ズキリと痛む胸には気付かないフリをした。純粋でかわいいエマ。大好きで大好きでたまらない、私の幼馴染。なんで私は、大好きな子の好きな人を、好きになってしまったんだろう。
「ウチ、ドラケンのことが好きになっちゃったみたい…」
中学一年の夏。いつも通りお昼休みに屋上でエマとお弁当を食べていたら、突然エマがそんなことを言ってきて、思わず口からポロリとタコさんウインナーが落ちた。え?すぐにエマを見れば、耳まで真っ赤に染まっているエマがもう一度恥ずかしそうに「ドラケンのことが好きみたい…」小さな声で俯きながらそう呟いた。そしてゆっくりと顔を上げて、私のことをジーって見つめてくる。その時のエマの顔は、今でも鮮明に覚えている。それくらい、かわいかった。本当にドラケンに恋してるんだ、って思った。
「まじ?ドラケンとエマお似合いじゃん。応援してる」
心からの言葉だった。エマは嬉しそうに笑っていた。大好きな幼馴染の恋が叶ってほしいと、この時は本気でそう思っていたはずなのに。
あの日から数ヶ月が過ぎた、日曜日のことだった。
エマと遊ぶ約束をしていて待ち合わせ場所に向かう途中で、いかにもガラの悪そうな不良数人に絡まれてしまった。何度断っても遊びに行こうとしつこくて、痺れを切らしたのか一番ガタイの良い男に肩に腕を回されて無理矢理連れて行かれそうになって、恐怖のあまり視界がじわりと滲む。やだ、怖い、だれか、だれか助けてーー。
「俺の女になんか用?」
ヒーローかと、思ったの。
聞き慣れたその声に安堵して、ぽろぽろと涙が地面に零れ落ちる。
肩に回されていた男の腕がドラケンの手によって払われて、あ゛?と凄む不良にドラケンは鋭い目つきで射抜く。
「俺の女に手ぇ出すんじゃねえよ。ーー殺すぞ」
鳥肌が立つ程の殺気に不良達はチッと舌打ちをしながらその場を去って行って、ひっくひっくと未だに泣き続ける私の頭にドラケンの大きな手のひらが乗って乱雑に髪の毛をわしゃわしゃされる。
「…怖かったろ」
「………っ、うん、」
「一人でよく頑張ったな」
え、と顔を上げると、少し照れ臭そうなドラケンがふいっと視線を逸らす。
「そういう時はさ」
「ぅん」
「すぐに電話しろよ。飛んでくから」
「えっ」
「…いや、俺じゃなくてもマイキーや場地でもいいから」
「……」
「…普通にあんなん見たら心配すんだろ。偶然俺が通りがかったから良かったけどよ…」
「………ふふっ、ありがとう」
「あ、やっと笑った」
「え?」
「…いや、なんでもねえ」
「……うん、」
うだるような暑さの夏が終わり、涼やかな風が吹きはじめる秋の出来事だった。
この後ドラケンとバイバイしてエマと一緒に遊んだけれど、この日のことはあまりよく覚えていない。ずっと頭の中がフワフワしていて、胸がドキドキうるさかった。
私は中学一年の秋にーー幼馴染の好きな人に、恋をした。
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