六本木のカリスマと言われるほどの有名人とクラブで出会ってその日にセックスして次の日に私から告白して付き合ったのがつい二週間前のこと。
灰谷蘭の存在は勿論知っていたしそれこそ女癖の悪さも有名だったけどあまりに蘭の顔がどストライクだったから一夜限りでもいいや♡なんて軽い気持ちで蘭の誘いに乗ってそのままクラブを飛び出してラブホに直行した。今までのセックスはなんだったの?ってくらい蘭とのセックスは最高に気持ちよくて何度もイきまくって最後は意識がトんでしまったくらい。次の日もラブホでヤって一緒にお風呂に入ってる時にノリで私達身体の相性良いし付き合おうよ〜なんて言ったらいいよ〜なんてまさかのOKをもらえて驚きのあまり漫画みたいに目が点になってしまった。…軽薄というかなんというか。まあ私的にはこんなにも顔の良い男と付き合えてラッキーでしかないんだけど。
「テキトーに座っといて〜」
「はあい」
まさか付き合って二週間の私を自宅に招いてくれるなんて夢にも思わなかったら嬉しさのあまり顔が緩んでしまうのは許してほしい。今日俺1人だけどうちくる?なんてまるで本当のカップルみたい。いや、正真正銘のカップルなんだけど…なんていうか、うん。もしかして私って特別…?なんて自惚れてしまう。
ていうか、ここっていわゆるタワマンじゃない?モデルルームみたいに綺麗で広いしまるで生活感がない。両親いないみたいだけどまさかここに兄妹だけで住んでるの?…さては蘭の実家とんでもない金持ちだな?もしかして私玉の輿狙える感じ?
「蘭って弟と妹と仲良いの?」
「ん?ちょーー仲良し♡」
「やっぱりかわいい?」
「めっちゃかわいい。食べちゃいたいくらい」
「え、怖っw」
「それだけ蘭ちゃんの愛が深いってことぉ」
「ふーん」
なんとなくつまらない気持ちになってしまう。弟は同性だからまだいいけど妹は女だしあんまり蘭にベタベタしてるとヤキモチ妬いちゃうかも。
「なあ」
「え?……んんッ…♡」
「ヤろ」
「んっ♡ここでぇ?おちちゃうよぉ」
「このソファー大きいから落ちねえよ」
もう、しょうがないなあ♡蘭の首に手を回してキスをしようとした瞬間、突然バーンッとリビングの扉が開いて目を見開く。え、何事…?
「あれ?帰り早いじゃーん」
「…蘭ちゃん。今日レン学校行くって言ったよね?」
「ん?そうだっけ??」
「この時間に帰ってくるの分かってるのになんでうちに女連れ込むわけ?」
「そんな怒んなよ。かわいい顔が台無しだよ?」
「ふざけないで!!!!」
こめかみに青筋を立てながらガチギレしているセーラー服の美少女は…蘭の妹で間違いないよね?顔めちゃくちゃ似てるし。でも話の内容がなんていうか…彼氏の浮気が分かってヒステリックに怒ってる彼女みたいで違和感が半端ない。
「蘭。この子は…」
「ん?俺の妹。かわいいだろ?」
「うん。蘭に顔そっくり〜」
「弟も似てるよ」
「へえ」
「ねえ普通挨拶が先じゃなーい?ここ誰ん家だと思ってんの?」
「あっ…ごめんなさい!!えーっと…蘭の彼女の…」
その瞬間、一気に距離を詰めてきた妹に思いっきり頬を叩かれて目をこれでもかというほど見開く。……私今、この中坊にビンタされたの?は?親にも殴られたことないのに??
「は?」
「近くで見たらますます不細工。目とかレンの半分くらいしかないんじゃない?つーかつけま何枚重ねてんの?ウケる〜。よくこんな顔面で蘭ちゃんの隣歩けるよねえ。まあその神経の図太さだけは尊敬するけどぉ」
「……」
「泣くの?ねえ泣いちゃうの?彼氏(笑)の妹に図星突かれて泣いちゃうの?やめなよぉ〜ますますブスになる…」
流石に耐えきれなくてぱちん、と妹の頬にビンタをする。いくら蘭の妹だからってここまで貶されて我慢できるほど私は大人じゃないし普通にめちゃくちゃイラつく。だってこの子、私より年下でしょう?
蘭は今までの私と妹のやり取りを見てるから絶対に私の味方をしてくれる。妹を叱ってくれる。ふんっとドヤ顔で妹を見下ろすと、私にぶたれた方の頬を手で抑えながら妹はにんやりと口角を釣り上げた。…は?そして次の瞬間、その大きな瞳からぶわっと大粒の涙が溢れだす。
「なあ」
「え?…………あ゛っ…」
「オマエ俺のかわいいかわいい妹にビンタした?」
「う゛…ぁ…っ」
「なあって。早く答えろ〜?」
「い゛っ…」
拳で思いっきりお腹をパンチされてあまりの痛みに変な汗が一気に噴き出す。ぐいっと髪をつかまれて無理矢理顔を上げさせられるとその端正すぎる顔が綺麗な弧を描いて、笑っているはずなのにそのあまりの殺気に恐怖で身体が震えだす。
「蓮華に手あげるとか…オマエまじで死にてえの?」
「ごっ、ごめんなさいっ、ゆるしてっ、」
「だってよぉ。どうする?蓮華」
「ひっく…まだ頬っぺたヒリヒリするよぉ…」
「あーあ。赤くなってんじゃん。可哀想に。後でちゃんと冷やしておこうな?」
「うっうっ…お兄ちゃぁん…っ」
「よしよし。大丈夫だから。オマエには兄ちゃん達がついてる」
蘭はばっと私の髪から手を離すと妹をぎゅうっと抱きしめながら頭をよしよしと撫でている。…異常だ。この兄妹は、明らかに頭がおかしい。
そして今思い出した。風の噂で聞いたことがある。灰谷兄弟は…13歳の時、人を殺したことがあるって。その瞬間、ぞわりと背筋が粟立つ。ここにいたらヤバイ。灰谷兄妹には絶対に関わってはいけないと聞いていたはずなのに…顔が良いからなんて安易に考えていた二週間前の自分を全力で止めたい。
そして早く、一刻も早くここから外に出なければーー。
「お姉さぁん」
「えっ…」
「蘭ちゃんと今後一切関わらないって今ここで約束するなら、レンにビンタしたこと特別に許してあげる」
「………します、やくそく、します」
「あ゛?小さすぎて聞こえねえよ」
「ふははっ」
「も、もう二度と、蘭さんと会いません。今後一切…関わりません。約束、します」
「うんっ♡じゃあ約束の証として指切りげんまんしようね♡」
「えっ」
にっこりと天使のような笑顔で小指を差し出す妹に恐る恐る小指を差し出すとすぐにゆびきりげんまん〜♪と小指を絡ませて上機嫌に歌いはじめる妹に鳥肌が止まらない。
「嘘ついたら針千本のーますっ♡指切った」
もうヤダ…怖すぎる…なんなのこの子…っ。しかも絶対ガチのヤツじゃん。この子なら普通に私が嘘ついたら針千本飲ませるでしょ…!
「レンとの約束だよぉ?絶対に忘れないでね?」
「は、はいっ」
「さようなら」
ここからの記憶はほとんど残っていない。気付いたら私は自分の家に着いていて部屋のベッドで号泣していた。
最後に見たあの子の顔が今でも鮮明に脳裏に焼き付いている。人の命を心底どうでもいいと思っていそうな、あの冷たい瞳を。
“灰谷兄妹には絶対に関わってはいけない”
確かそう言っていた女の子も、今の私のように怯えた顔をしていたっけ…。
おまけ
「ただいまー。…あれ?これどういう状況?」
「あっ♡りんちゃんおかえり〜♡」
「おかえり竜胆。蓮華がバカ女にビンタされたから冷やかしてる」
「は!?!兄貴また女連れ込んだのかよ!つーかビンタってなに?!れん大丈夫か?」
「うん。痛かったけど…」
「よしよし。れん泣いちゃったもんなあ」
「泣いた?泣くほど痛かったのか?…兄貴、その女の家の場所知ってる?」
「知らねえ。つーかりんどぉ顔やばっw激怒じゃんw」
「そりゃあかわいいかわいい妹に手出されて黙ってる兄貴はいねえだろ。全身の骨折らなきゃ気がすまねえ…」
「やばぁwww」
「りんちゃん心配してくれてありがとうぉ♡蘭ちゃんがボコってくれたし今後一切蘭ちゃんに関わらないって約束もしたからもう大丈夫だよっ♡」
「ほんとか?まだ全然怒り収まらねえけど…蓮華は優しいなあ」
「んっ…♡」
「はっ…れんすきっ…」
「んんっ♡レンもりんちゃんすきぃっ…♡」
「こぉら蘭ちゃんも仲間に入れろ〜?」
「元はと言えば兄ちゃんが発端なんだからちゃんとそこで反省してて」
「りんちゃんに同意」
「2人ともひどいっ!!反抗期?!」