弱さも何もかもを食べてあげる
「ひまりに全部話すよ…俺の本当の気持ち。もう一度ひまりに、信じてもらえるように」
「……うん」
「とりあえず近くの公園に行く…?」
こくん、と頷けば、徹はホッとしたような顔をする。そのままいつものように手を差し出されたけれど、すぐにハッとした徹が「ごめんっ」と慌てて手を引いて、気まずそうに頭をぽりぽりとかいている。…こんな徹は珍しいなあ、なんて思って、隣を歩く徹の顔をじーっと見つめてしまう。
「…えーっと、俺の顔になんかついてる?」
「ううん」
「あっ!じゃあ、及川さんの顔に見惚れてるとか!?」
「違うよ」
「即答!!!!」
「こんなワタワタしてる徹は珍しいなあって、思っただけ」
「……男はみんな好きな女の子の前だとかっこつけたい生き物なんですよ」
「えっ」
「着いたよ」
思わず顔が熱くなって、今が夜で良かったと思った。だって、こんなに真っ赤な顔、徹に見られたら恥ずかしすぎる…。
公園に着いて、2人並んでベンチに座る。
徹は緊張した面持ちですーはーと深呼吸をすると、バッと私の方を見て、思わずその圧にビクッとしてしまう。
「ひまりのことが、好きです」
「……あっ、はい…」
「入学式の時から、ずっと…」
「……………え?」
一瞬徹の発している言葉の意味が理解できなくて、口を開けたままぽかんとしてしまう。徹から見る私は随分と間抜け面をしているだろうな…。でも、それくらい、驚いたから。
「あっ。信じられないって、顔してる」
「いや…うん…だって…」
「…初めて入学式でひまりを見た時、あまりにも綺麗で目を奪われてさ…なんかこう、ひまりの周りだけ光り輝いてるっていうの?そんな感じで、凄いドキドキして。周りがひまりのことを見て騒いでるのを見て、それでひまりがかなり人気のある読者モデルだって知って…それからひまりが載ってる雑誌は全部買ったりして…」
「……」
「え…もしかして引いてる?」
「ちょっ、ちょっとまだ、信じれなくて…」
「俺、女の子を本気で好きになったの、ひまりが初めてでさ」
「うん」
「何度も告白しようとして…でももし振られたらどうしようって怖気づいて…それでもやっぱり好きだから!の繰り返しで…それで岩ちゃんに何回ぶん殴られたか…っ」
「でもそんなこと、岩ちゃんからはなにも…」
「…ああ、それは…俺がひまりに告白されて付き合った時、岩ちゃんにこんなのダサすぎるから絶対にひまりにだけは言わないで!!って口止めしといたから…」
「…じゃあ、岩ちゃんは最初から全部知ってたんだ」
「うん、いつも俺の悩みや相談聞いてくれてた」
「……そうだったんだ」
「だから、ひまりから告白された時、本当はめちゃくちゃ…めちゃくちゃ嬉しかった。顔には出さないように努力したけど、ひまりの姿が見えなくなった瞬間、思わず嬉し泣きしたくらいだし」
「………それは流石にうそだぁ」
「ほんとですぅ!あまりの幸せに及川さんは号泣しましたぁ!」
「ふっ…ふはっ…なにそれ…」
思わず吹き出して笑うと、キョトンとした徹がじーっと私のことを見つめてきて…そしてすぐに眉を下げて泣きそうな顔をするから、なんでいきなり泣きそうになるの?なんて、少しばかり戸惑ってしまう。
「とおる?」
「好き…ひまりのことが、めちゃくちゃ好き…」
「…っ」
「愛してる。世界中の誰よりも…」
「……と、」
「だからお願い…別れるなんて、言わないで…っ」
「じゃあなんで…」
「え?」
「私のことをそんなに好きなら…なんで他の女の子に優しくしたり…声かけたりできるの…?」
やっぱりどれだけ愛の言葉を囁かれても、それだけは納得できなくて、拳をぎゅっと握る。すると徹は、「あー…」と気まずそうに目を泳がせて、そして「…カッコ悪くても、嫌わないでね?」なんて自信なさげに言うものだから、思わず目を瞬きさせてしまう。
「徹のことを嫌うなんて、きっとこの先、一生ない」
「…っ」
「だから全部…徹の気持ち、教えて」
「……ほんっとひまりには敵わないなあ」
フー、と小さく息を吐いて、徹と私の視線が絡み合う。
綺麗…なんて、男の人にそんなことを思うのは、徹が初めてだ。
「簡潔に言うと、」
「うん」
「…ひまりにヤキモチ妬かれたかったん…デス」
「…ヤキモチ?」
「ハイ…」
「え…ヤキモチ?」
「なんで二回も聞くの??」
「え、だって…私めちゃくちゃヤキモチ妬いてたし…」
そう言えば、ただでさえ大きな目をこれでもかと言うほど見開く徹。その反応が面白可笑しくて、ついクスッと笑ってしまう。
「う、うそでしょ!?!?」
「ふっ…嘘じゃないよ」
「いやっだって!俺がファンの女の子に差し入れされたりボディータッチとかされてもずーっとニコニコしてたじゃん!なんにも気にしてませんよ!みたいな顔してさぁ!」
「うん。だって徹にヤキモチ妬いてるのバレないようにわざとそうしてたもん」
「なんで!?!?」
「………徹って女の子に束縛とか干渉されるの好きじゃないだろうなあって、ずっとそう思ってたから」
「はあ!?!?むしろ束縛!干渉!大好きデス!!ひまり限定で!!!!!」
「ふっ…ふふ…へ、」
「へ?」
「変態、じゃん」
「でもそれが及川さんなんで」
「キメ顔やめてくださぁい」
「「……ふはっ」」
おでこをコツンとくっつけて、クスクスと笑い合う。
「ひまりヤキモチ妬いてくれてたんだぁ…不安だったからすごい嬉しい…」
「めちゃくちゃ妬いてたもん…」
「嫌だなあって思ってくれたの?」
「ずーっと心の中でおいブス私の徹に近づくなって思ってた」
「…まじで??」
「うん。幻滅した?」
「まさか。嬉しすぎて死にそう…」
そのまま徹の唇が私の唇に触れそうになって、徹の顔に手のひらを押し付けると、徹が「んぐっ」と間抜けな声を上げる。
「ひまり〜…」
「この際だから今まで聞けなかったこと聞いとこうと思って」
「え、なに怖い」
「……徹はなんで、私には悩みを打ち明けたり相談してくれないの?弱音を吐いてくれないの?」
「…え?ひまりそんなこと気にしてたの?」
「そんなことじゃないっ!ばかばかっ!」
「いてっ…ごめんってぇ」
ポカポカと徹の頭を叩くと、徹は困ったように眉を下げて、そしてポツポツと言葉を発する。
「……さっきひまりが載ってる雑誌買ってるって言ったじゃん?」
「うん」
「“好きな男性のタイプは?”ってインタビューに、“ 強くてかっこいい人”って書いてあったから…」
「えっ」
「…ひまりに嫌われないように俺なりに努力してたんですぅ」
「…とおる、」
「な、なに…言っとくけど俺は絶対にひまりと別れないからね!絶対!俺がどれだけお前のこと好きか「すき…」えっ」
「すき、だいすき、あいしてる…」
「えっ、えっ」
「徹の弱いところも…カッコ悪いところも…全部全部、私に見せて。そういうところも含めて、私は徹のことが好きだから。私が徹のことを、支えるから」
「……っ」
「仲直り…しよう?」
「っ、ひまり〜…」
ぎゅうっと苦しいくらいきつく抱きしめられて、ゆっくりとその背中に手を回す。徹の端正な顔が近づいてきて、今度はすっと瞼を閉じて、すぐに唇に柔らかなものが触れる。ちゅっ、ちゅっ、と何度も触れるソレが心地いい。すき、すき…。すきが溢れて、どうにかなってしまいそうだと思った。
「口、開けて…」
「んっ…ふっ…」
「はぁっ…んっ…」
ねっとりと舌を絡め合って、徹に上顎を舌先でなぞられると…気持ちよくて腰の辺りがぞくぞくして、あっという間にそういう気分になってしまう。徹はキスをしながら私のTシャツの中に手を入れると、ブラ越しに胸を優しく揉みはじめて、こらっとその手を制止する。
「んっ…だめ、外だから…」
「…勃っちゃった」
「明日もうちの親、帰り遅いから…」
「え?」
「続きは明日…ね?」
徹の下唇をはむっと挟みながら上目遣いでそう言うと、「…明日、覚悟しといてね?」なんて熱を孕んだ瞳に捕らえられて、それだけで全身が沸騰したみたいに熱くなる。
「仲直りエッチ…だよね?」
「もぉぉぉぉそういうの我慢できなくなるからやめて!」
「ふはっ」
かわいくてかっこいい…私だけの、徹。
もう我慢なんてしない。
他の女の子なんかに、絶対に徹は渡さないんだから。