京都姉妹交流会

夜蛾正道は困っていた。


御三家の一つである“五条家”で400年ぶりの無下限呪術と六眼の抱き合わせの五条悟。
珍しい術式の呪霊操術と反射術を巧みに使いこなすだけでなく近接戦闘にも長かけている夏油傑と清宮希。
貴重な他者にも反転術式を使うことができる天才、家入硝子。


実力と才能だけ見れば今年の一年はとんでもない粒揃いと言えるだろう。

しかし、だ。

この4人ーーとんでもない問題児なのだ。


任務中に帳を忘れる。喧嘩で校舎や寮が崩壊。依頼人と揉める。授業をボイコット。未成年の喫煙。その他諸々。


嗚呼駄目だ、胃が痛い…。


兎にも角にもその問題児達の担任である夜蛾正道は、痛む胃痛を堪えながら現在彼等と向き合っている。



「京都姉妹交流会…ですか?」
「ああ。東京校と京都校のそれぞれの学長が提案した勝負方法を2日間かけて行うイベントだ。基本は1日目が団体戦、2日目が個人戦となっている」
「ルールは?」
「殺す以外はなにしても良い」
「随分ざっくりしてますね」
「センセー。この交流会って2.3年がメインなんじゃないの?歌姫先輩が言ってた」
「本来ならそうなんだが3年が停学中のため人数が足らないんだ…」
「だから私達が変わりに出場する、という訳ですね」
「そういうことだ。硝子は救護要員としてきてもらう」
「へーい」
「京都姉妹交流会って名前がついてるということは、交流会は京都で行われるんですか?」
「いや、前年度は東京校うちが勝ったから、今年の交流戦は東京で行われる」



その言葉を発した瞬間、ついさっきまで飴を舐めながら興味なさそうにしていた悟と、欠伸をしながら自分を髪をくるくる指で巻いていた希が眉をピクリと動かした。

何だ、何が気に食わなかった。
というかそもそも興味を持て。
担任の話を聞け。


「嘘でしょセンセ。京都だったら旅行気分味わえたのに」
「交流会は旅行じゃないぞ、悟」
「センセー私金閣寺行きたいです」
「交流会は観光じゃないぞ、希」
「じゃあ私参加しませーん。パスで」
「何?」
「え、希が参加しないなら俺もパス」
「何だと?」
「だってそもそも3年のセンパイのせいで人数足らないんでしょ?なんで私達がそのセンパイの尻拭いしなきゃなんないわけ?意味わかんな〜い。せめて京都だったら観光できるしアリかなって思ったのにぃ」
「そうだよな。なんで俺達がクソ雑魚なセンパイの尻拭いしなくちゃいけないんだって感じだよな。センセー、俺ら交流会は参加しないからそのつもりで」


そのつもりで、じゃないぞ悟。お前は希に感化されすぎだ。自分の意思はないのか。
そして希。面倒くさがるのは想定内だったがまさか参加しないと言い始めるのは予想外だった。小学生でも先生の言うこともう少し聞くぞ、お前は小学生以下なのか?ため息を吐きながら目頭を揉む。
こうなったら、頼りになるのは傑と硝子しかいない。
後は頼んだぞという意味を込めて目線を送ると、2人は死んだ目をしていた。



「…希と悟が参加してくれないと、寂しいな」
「……ワタシモ」
「「え…」」


硝子が片言すぎるのが気になるがまぁこの際良しとしよう。悟と希が明らかに動揺しはじめてる。これは良い傾向じゃないか?


「…それでも、参加してくれないのかい?」
「すぐる…」
「……フタリガイナイナンテヤダヨ…」
「硝子…」
「「サミシイヨ……」」
「「参加します」」


悟と希が勢いよく挙手をする。
……お前達、仲良しすぎないか。


とりあえず傑と硝子、さっきは4人まとめて問題児扱いしてすまなかった。







「いいかい?希。“殺す以外ならなにしても良い”つまり絶対に殺してはいけないってことだよ。分かったかい?」
「傑しつこい」
「間違っても殺すんじゃねーぞ。せめて半殺しにしろよ?半殺し。硝子が治せる範囲にしろよ。約束な」
「悟しつこい」


何なんだろう。この2人は私のことを殺人犯か何かと勘違いしているんじゃないだろうか。そうじゃないと色々おかしすぎる。
京都校の奴らと軽い挨拶を済ましてからずっと2人から殺すな殺すな言われ続けてるんだけど何なのフリなの?実は殺せってフリなの?ねえ。


「流石に殺さないよ。あんまりしつこいと怒るよ?」
「だってお前京都校の奴らのことスゲェ目で見てたじゃん」
「ウソだー。どんな目?」
「殺すぞって目」
「あはははっ!まじでー?ウケる。そんなつもりなかったんだけどなぁ。弱そうな奴らばっかって見下してはいたけど」
「ああ、あの目は見下してたのか。それなら良かった」
「良いんだ」
「ま、3人でそれぞれ別れてぶらついてりゃこっちの圧勝だろ」
「健闘を祈る!!」
「ふはっ、誰に言ってんの」
「それじゃあまた後でね。悟も希も気を付けて」
「だーかーらー誰に言ってんの!」







森の中を呪霊を祓いながらうろついていたら突如感じる殺気。掌印を組むと結界が私を覆い呪力を纏った攻撃が爆発音と共に跳ね返る。


「…へー。“反射術”か。面白いな」
「左腕もーらいっ。血やばいけどダイジョーブ?そういう君は氷術式だね。初めて見た」
「利き腕じゃないから問題ないよ。ご心配どうもありがとう。美人な女をいたぶるのは趣味じゃないが許してくれよ」
「知ってる?口だけ達者な男ってモテないんだよ?」


言うが早いか男が呪力を解いて攻撃を仕掛けてくる。反射術が呪力しか跳ね返さないことに気付いたのだろう。


「ラッキー。私ね、近接戦闘が専売特許なの。なんでか分かる?」


攻撃を避けながら問いかける。


「“反射術”ってお分りの通り、呪力を帯びない単純な物理攻撃には全くもって意味ないんだよね〜。一見便利な術式に見えるけど、案外不便なもんなんだよ。だから小さい頃から死ぬ程鍛えられたの。いたいけな女の子が毎日血反吐を吐く努力してさあ。そんなの、強くなるに決まってるでしょ?」


ニッと笑って、顔面を狙ってパンチしてきた男の拳を受け止めて思いっきり首目掛けて回し蹴りをする。
瞬間、崩れ落ちる男。


「ねえ聞いてる?あ、もう聞こえてないか。てか君さぁ、レディーの顔狙うなんて最低だよ。あ〜あ。モテない男ってこれだからやだ!!」











当たり前だけど、京都姉妹交流会は1日目も2日目も東京校うちの圧勝で終わりました。
ご褒美に夜蛾センセーに焼肉連れて行ってもらおうね♡

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