十年後の約束

「希〜希ちゃ〜ん」
「ん〜?なぁに?悟」
「今日も可愛い〜綺麗〜大好き〜」
「ありがとぉ。悟も今日も可愛いしかっこいいね」
「ねーねー傑よりかっこいい?」
「んー。そこはノーコメントで」
「なんでだよあんな糸目より俺のが何百倍もイケメンだろうが」
「傑がいなくて良かったって心の底から思ったの今日が初めてだよ」
「きゃー!希ちゃんのハジメテもらっちゃったー♡」


テンションが高い。朝からずっとこんな感じ。
今日は傑と硝子が任務でいなくて残ったのが悟と私だけだから、よっぽど2人っきりが嬉しいのか悟はずーーーっと私にべったり。抱きついてきたり私を膝の上に乗せてきたり隙あらばチューしてきたり。「そんなに私と2人っきりが嬉しいの?」って聞いたら「もちろん!今日は希を独り占めできるからね!」って満面の笑みで言われた時は思わず胸がキュゥゥゥンって高鳴った。何それ可愛い天使。



「ねえねえ希ちゃん」
「はーい。次はなぁに?」
「俺の彼女になって」
「それはムリ」


即答したらさっきまであんなににこにこだったのに急に頬を膨らませて不機嫌顔になる悟。
不機嫌になっても可愛いってナニゴト。


「ねーねーなんで?なんで駄目なの?希は俺のこと嫌いなの?」
「嫌いなわけないでしょ。大好きだよ」
「じゃあいいじゃん。付き合おうよ。俺絶対お前のこと幸せにする自信あるよ」
「何回も言ってるけど、悟のことが大事だからこそ付き合いたくないの。もし別れたら今みたいな関係には戻れないしそんなのやだよ。寂しいもん。悟とはずっとおばあちゃんおじいちゃんになっても一緒にいたいんだよ。お願い分かって?」
「いやだ。そんなの一生分からないし分かりたくもない。てかなんで別れる前提なの?俺は絶対お前のこと振らないしもし俺達が億が1別れるとしたらそれは希が俺のことを振った時だよ」
「悟、絶対なんてこの世界にはないんだよ。呪術師なんてクソみたいな仕事してたら分かるでしょ?」
「分かった。じゃあ俺達結婚しようよ、ね?俺希のこと一生離さない。幸せにするから」
「ん?悟は一体何をどう分かったのかな?この流れでプロポーズはおかしくない?」
「高専卒業したら結婚しよう」
「待って待って会話が成り立ってない」



悟と会話が成り立たないことは別に珍しいことじゃないけど今回ばかりはちょっと焦る。
悟のことは大好きだ。本当に心の底から愛おしいって思うし、異性としても好き、なんだと思う。
ただ悟のことを深く知っているからこそ、どうしても首を縦に振れない理由がある。



「希だって俺のこと好きでしょ?結婚するのに何か問題あんの?」
「………………だって悟、ちょーー飽き性じゃん」
「え」
「私知ってるんだよ。悟が女とっかえひっかえしてるの。まぁセフレだとは思うけど。でも女だけじゃなくてゲームもお菓子も映画も勢いよくハマったらすぐに冷めるでしょ?悟は典型的な“熱しやすくて冷めやすいタイプ”なんだよ。だから私のことだって男女の関係になったらすぐに冷めちゃうかもしれないじゃん。私悟に捨てられたらこの先辛すぎて生きていけないよ。だから付き合うのも、結婚するのも無理なの。ごめんね」



今までこんなこと言ったことなかったけど流石にプロポーズまがいなことをされたら隠してはおけないから初めて悟に言ってしまった、私の本音。ドキドキ心臓が嫌な音を立てる。悟は怒っただろうか。それとも傷付いてしまっただろうか。
恐る恐る顔を上げて悟の顔を見ると、悟は私が想像していたのと全く真逆の表情をしていて唖然とする。だって、めちゃくちゃ嬉しそうに笑っているから。え、なんで?



「…そっかぁ。そうだったんだな。だから希は今まで俺がどんなに告白してもOKしてくれなかったんだ。理由が分かって結構すっきりしたっていうか、嬉しい」
「え?うん…」
「まぁ、飽き性なのは認めるよ。でもさ、希だけは別、特別だから。飽きるとか、冷めるとか、そういう次元の話じゃないの、分かる?お前は俺にとって唯一無二の存在なわけ。今もこの先もずーーっと」
「でも、信じられないよ、そんなの。私のこれまでの境遇、悟は知ってるでしょ?」
「知ってるよ。知ってるからこそ、この先も俺がお前の支えになりたいし、守ってやりたいと思ってる」
「さとる…」
「じゃあさ、俺今良いこと思いついた。お前がそこまで不安に思うならーー十年後。十年後に、俺またお前に気持ちを伝えるよ。十年間、希のことだけを愛し続ける。もちろんセフレも切る。ただただお前を想い続ける」
「え」
「だから十年後、お前は“YES”だけ用意しといて俺のことを待っていて」


そんなの冗談でしょ、とか、あの飽き性の悟がありえない、とか。
そんなことが口から出そうになるけど、悟の顔を見た瞬間、言葉にならなかった。
だって、悟が、あまりに優しく微笑んでるから。



「…………分かった」
「よし、十年後の約束な」



指切りげんまんをしてほんの少しだけ泣きそうになったのは、私だけの秘密。

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