アオハルかよ

「十年後。十年後に、俺またお前に気持ちを伝えるよ。十年間、希のことだけを愛し続ける。もちろんセフレも切る。ただただお前を想い続ける」





あの日以来、何故か悟と目が合うと無意識に視線を逸らしてしまうし、悟が話しかけてきたらすぐに話を終わらせて硝子や傑のところに行ってしまう。その自分の謎行動の意味が分からずに私は思い悩んでいた。
当たり前だけど、今まで悟にこんな素っ気ない態度をとることなんてなかったし、私が悟を避けていることに勘が良い悟が気付かないはずがない。
もし万が一このまま悟とまともに話せなくなったらどうしよう……。


『20時。私の部屋に各自お菓子と酒とつまみを用意して集合』


焦りに焦った私は悟だけが任務の日にちに自分の部屋に傑と硝子を呼んだ。緊急招集だ。このままではいけない。



「単刀直入に言うね。私、今悟とまともに話せないの」
「うん、そうだろうね。希が悟を避けてるのはなんとなく気付いてたよ」
「五条明らかに落ち込んでるしな」
「えっ…やっぱり悟落ち込んでるの?」
「そりゃあ、大好きな希に避けられたらねぇ…」
「てか希があからさますぎるんだよ。避けるならバレないようにもっと上手くしろ」
「まじかー…」


はーとため息を吐くと、傑がぽんぽんと優しく頭を撫でてくれる。


「悟となにかあった?」
「うーん…なにかあったといえばあったけど…」
「なんだよハッキリしねぇな」
「希、良かったら私達に話してくれないかい?」
「うん…」


1週間前に悟と話した内容を2人に話すと、傑と硝子は目をまんまるにして固まっていた。


「え、なんか反応してよ…」
「……」
「……」
「ねえ、聞いてる?」
「……」
「……」
「おーい。傑?硝子?」


2人の前で手をふりふり振ると、2人はハッとした感じで私をガン見する。
え、なに怖い。





「………あの悟が、ねえ」
「……あいつどんだけ希のこと好きなの」
「だから希は照れ臭くなっちゃったわけだ」
「ん?照れ臭い?」
「うん。だから希は悟と目が合ったり一緒に話してると恥ずかしくなって逃げちゃうんだよ」
「恥ずかしい」
「うん」
「嘘だろ希その感情にも気づいてなかったわけ」
「ハズカシイ…テレクサイ…」
「やばい希がバグった」
「まぁ仕方ないよ硝子。希にとったらきっと初めての感情なんだよ」
「ハジメテノカンジョウ」


おっぱい揉まれてもお尻触られてもキスされても恥ずかしいなんて全く思わなかったのになんで今更??あの悟に私が照れてる?え?なんで???頭の中はハテナマークでいっぱい。



「…希はさ、悟のこと好き?」
「うん。大好き」
「私のことは?」
「傑?大好き」
「じゃあ私は?」
「硝子も大好き」


なんでいきなりそんなこと聞くんだろう。私が3人を大好きなことなんて傑も硝子も分かってるはずなのに。


「希は悟のこと…異性として、好き?」
「異性」
「うん。男として好き?」
「好き、だと思う。タイプだし」


なんたって悟は顔が良い。そう、顔が良いんだ。もっと言ってしまえば悟の顔は私のドストライクなのだ。
だから悟といてドキドキすることもたくさんあったし、きゅんきゅん胸が高鳴ることもあった。
だからこれは恋、なんだと思う。
硝子は酒のつまみのスナックを指でつまみながら、でっかいため息を吐いた。


「そう、それなんだよ」
「それ?」
「希はさ、今まで五条のことそういう意味で好きじゃなかったってこと」
「ん??どういう意味??」
「まぁ簡単に言うと、今まで異性として五条を好きだと思ってた気持ちは勘違いだったってこと」
「勘違い??」
「そう。好きな芸能人にキャーキャー言ってるのと同じ」
「好きな芸能人」
「だから五条にキスされても何も感じなかったんだよ。普通、好きな相手にキスされたらドキドキとかするじゃん?」
「…ドキドキ、はしたと思う、けど」
「顔がタイプだから?」
「うん」
「そういうこと」


え、どういうこと??
硝子の言ってる意味が分からずぽかんとしてると硝子は呆れ顔をして「あーーー……夏油…パス」と両手を挙げて降参のポーズをとった。傑ははいはいと困ったように笑う。


「…じゃあ希。もっと分かりやすく説明するね?今まで希が悟に感じていた感情は、私や硝子に対しての想いと全く一緒だったってこと」
「うん?」
「つまりは友愛」
「友愛」
「友情ってこと。それを希は悟の顔がタイプだから恋慕と勘違いしていたってわけ」
「な、なるほど…」
「ここまでは理解できたかな?」
「はい先生」
「ブッ……」


硝子が吹き出して傑が少しむっとして硝子の頭を軽く小突く。仲良しか。


「…でも今は違うと思うよ」
「え?」
「希が悟に対して抱いてる感情は、きっと今は友愛ではないと思う」
「それってつまり…」
「うん。悟に初めて真剣に告白されて、意識しちゃったんじゃない?」



流石にここまで言われたら、分かる。2人が私に何を言いたかったのか、なんで私が悟を避けてしまっていたのか。理解した瞬間、ぶわって顔が熱くなる。こんなの、知らない。



「希顔めっちゃ赤い」
「言わないで硝子」
「希、可愛い。照れてるのかい?」
「うるさい傑」


バクバクバク。心臓が煩くて胸をギュッとおさえる。
硝子に頭をよしよしされて、傑には背中を優しくさすられる。どうしよう。なんか、なんか、自覚してしまったら、急に悟に会いたくなってしまった。


悟が、恋しい。


そんなことを思っていたら、鳴り響く着信音。
ディスプレイを見るとそこには悟の名前が表示されていて、思わず目を見開く。
私の様子に傑も硝子も誰からの着信か気付いたみたいで、2人ともニヤニヤしながら「じゃあ私達はそろそろ戻るね」「上手くやれよ」なんて私が引き止める間もなくささっと部屋から出て行ってしまった。


ぱたん、と扉が閉まる音が響く。


ふーとまた心臓のあたりをおさえると、バクバクと鼓動が煩い。これが、恋。恋って、こんなにもすごいものだったんだ。知らなかった。私はなにも、本当に知らなかったんだ。


ドキドキしながら電話にでると、すぐに悟の声が聞こえてきて、なんだか涙が出そうになる。


「もしもし希?あー…良かった。でてくれなかったらどうしようかと思った…」
「さとる、」
「ん?なぁに?希」
「さとる、あいたい」
「……」
「あいたい…」
「俺も、希に会いたい」
「うん…」
「さっき任務終わって後30分くらいで高専に着くから…そしたら希の部屋行っても良い?」
「うん…待ってる」
「ん、なるべくすぐ戻る」





「……夏油」
「どうしたんだい硝子」
「あの希がさ、あの頭おかしいイかれたクズの希がさ」
「ははっ。流石にそれは言い過ぎじゃないかい?」
「普通の恋する乙女に見えたんだけど、私とうとう目がおかしくなったのかな?」
「うん?奇遇だな。私も目がおかしくなってしまったみたいだ」
「あー……うん、あの希がねぇ」


「硝子。目から汗がでてるよ」
「夏油。お前もな」

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