悟と電話を切った後、酒の空き缶やら食べかけのお菓子やらでぐちゃぐちゃに散らかってる部屋を慌てて片付ける。自分で呼んどいてあれだけどせめてある程度片付けてから出て行ってよ…!と心の中で傑と硝子に悪態を吐く。
悟は後30分くらいで高専に戻ると言っていたけど、実際はもう少し早く着くだろう。今までだったら散らかったままの部屋でも平気で悟のこと呼べたのに、自覚した恋心と言うものは人なりまで変えてしまうのか。だとしたら恋というものは存外恐ろしいものではないだろうかと、ふと思った。
とんとん
控えめなノック音が部屋に響いて、心臓がどきりと音を立てる。
今までノックなんてしたことなかったくせに。
「思ったより早かったね」
「だって希に早く会いたかったから」
照れ臭そうに頬を染めながらポツリと呟く悟の破壊力ったら凄まじいもので、私の心臓はドキドキしすぎて爆発するんじゃないかと本気で思った。
いつも天使の様に美しい悟の顔が100倍増しでかっこよく見える。いや、キラキラして見える。あれ、悟ってこんな顔だったっけ…?
「……私も、悟に会いたかった」
「……」
「さとる?」
「…抱きしめてもいい?」
「…ん、いいよ」
そう言えば身体を優しく包み込むように抱きしめられて、その瞬間ふわりと悟の香りが漂ってくる。ほんの少し汗の匂いも混じっていて、高専に着いてから私の部屋まで走ってきてくれたのかな、なんて思ってしまうのはきっと私の自惚れではない、はず。
「さとる」
「うん?」
「シャワー浴びる?」
「あ、もしかして俺汗臭い?」
「いやそういうのじゃなくて、任務終わりだしさっぱりしたいかなぁって思って」
「ん〜じゃあ入ろうかな」
私の部屋には悟の下着や部屋着がたくさんあるからいきなりシャワーを浴びることになっても全く困らない。悟だけじゃなくて傑や硝子のもある。大体私の部屋に来るとそのままシャワーを浴びて一緒に寝るパターンだからいちいち持ってくるのが面倒になったのか気付いたらみんな必要なものを私の部屋に置いていくようになっていたのだ。
「おまたー」
シャワーを浴び終えた上下黒のスウェットを着た悟が首にタオルをかけたままぱたぱた歩いてくる。
「あれ?髪乾かしてないじゃん」
「夏は自然乾燥派なんで」
「初めて聞いたぁ。面倒だっただけでしょ」
「バレた?」
「ほら、こっちおいで」
「なに?希が乾かしてくれんの?」
「10分1万ね♡」
「たかっ!!ぼったくりかよ!!」
ゲラゲラ笑いながら私の脚の間に大人しく座る悟の髪をドライヤーで乾かす。
さらっさらの髪。悟はシャンプーとかトリートメントに特にこだわりがないタイプだからそもそもの髪質が良いんだろうな。くそぉ、羨ましい。
「さとる〜乾いたよ」
「…ん。ちょっと寝そうだった」
「ん?寝る?寝てもいーよ。でもその前に一緒に歯磨きしよ」
「ん…」
目が虚ろでうとうとしている悟はよっぽど眠たいんだろう。きっと遅くまで任務があったから疲れてるんだろうな。それなのに、真っ先に私に会いに来てくれた。その事実に胸がじんわりと暖かくなる。
並んで歯磨きをして、当たり前の様に一緒にベッドに入って、布団をかぶる。
「……希」
「ん?なぁに?」
「…俺さ、希に嫌われたかと思って」
「……」
「避けてたでしょ?俺のこと」
やっぱりバレてたか。
「…うん」
「あの十年後の約束が重かったのかなとか、嫌になったのかなとか…色々考えて、辛かった」
「違う!違うのさとる…」
「……」
「あれはその…て、照れちゃって……」
「え?」
「照れてたから、悟の顔がまともに見れなかったっていうか…」
そう言った瞬間、ガバッと布団から起き上がって私を凝視する悟。え、さっきまであんなに眠そうだったのに、なんでそんな目冴えてんの。てかそんな顔見ないで。流石に恥ずかしい。
「それはさ、希」
「う、うん?」
「俺の自惚れかもしれないけど、」
「……」
「俺のこと、意識してくれてたってこと…?」
「………………………ぅん」
「……………………マジで」
「………ぅん」
「…そっかぁ。…うん、そうだったんだぁ…」
「な、なに…」
「ちょーーー嬉しい」
くしゃりと笑ってそのままぎゅうって抱きしめてくる悟の背中に腕を回す。
今頃リンゴみたいに真っ赤になっているだろう自分の顔を見られたくなくて悟の胸にぐりぐりと顔を押し付ける。
「…希」
「ん?」
「顔、見せて」
「…やだ」
「なんで」
「なんでも」
「お願い」
「……」
「希の顔が見たい」
「……」
「お願い、希」
…………負けた。チョロい。チョロすぎる私。
そっと悟の胸から離れて悟の顔を見ると、ビー玉みたいに綺麗な蒼がじっと私を見つめていて、目が離せなくなる。
「可愛い…希」
ちゅ、と唇にかさついた悟の唇が触れて、すぐに離れると顔の角度を変えて何度もキスをする。
そのうち悟の唇が私の唇をはさみながら舐めてきて、それが合図のように口を開けると悟の舌が入ってきて私の舌を絡めとる。
歯茎を舐めれたり上顎を舌先でなぞるように刺激されて、クチュクチュといやらしい音が部屋中に響く。
「んっ…」
「………はっ…」
唇が離れると飲み込みきれなかった唾液がつーっと垂れてきて、その唾液をあろうことか悟にぺろりと舐められる。ぶわっと顔が熱くなるのが分かる。恥ずかしい。
「ねぇっ…さとる、当たってる…」
「…この先は、付き合ってからのお楽しみにとっとく」
「この先?」
「セックス」
……これは私の方が10年間も待てないかもしれないと、確信に近い予感を感じた。