不機嫌なお姫様

今日は希と2人で任務だった。
窓からの報告で都内の廃業されたホテルに1級相当の呪霊が2体。2人でした打ち合わせ通り、呪霊からの攻撃を希の反射で跳ね返して弱ったところを私が取り込んだ。あっという間に終わって補助監督にピックアップの連絡を入れると後15分くらいで着くとのこと。


「希。後15分くらいで迎え来るって。後、現場が近かった任務終わりの4年の先輩が先に乗っているみたいだから、くれぐれも失礼がないようにね」
「ん〜傑は私のお母さんなのかなあ」
「せめてお兄ちゃんにしてくれないか」
「すぐるお兄ちゃーん♡」
「はーい。希ちゃんどうしたのかな?」
「えっまさかのノっちゃうんだ」
「ちょっと希笑いすぎじゃないかい?」


ひーひー目に涙を溜めてお腹を抑えながら爆笑する希とそれを冷めた目で見る私。
どういう絵面だこれ。

しばらく笑って少し落ち着いた希は、目に溜まっている涙を指で拭いている。


「あ〜笑った笑った…。は〜…お腹痛い…。ねぇ暇だしホテルぶらぶらする?」
「え、廃業されたホテルを?」
「うん。まぁ、ロマンのかけらもないけどさあ」
「そんなものがあったら私は悟に殺されるよ」
「そしたら私は少女漫画のヒロインみたいに“私のために喧嘩はやめてぇぇ!”って2人の間に入ってとめるね」
「はいはい」
「はいはい傑くん流さないでくださーい」


希とくだらない話をしていると補助監督が運転する車が到着して、扉を開けて軽く挨拶をする。
4年の女の先輩は運転席側の後部座席に座っていたので、男で体格の良い自分は助手席に座った方が良いだろうと判断してすっと助手席に座る。希はしぶしぶといった感じで後部座席に座っていた。


「私、4年の神崎麗華。よろしくね〜」
「1年の清宮希です」
「同じく1年の夏油傑です。よろしくお願いします」


「……清宮希ちゃん。知ってるわよ〜。悟のお気に入りの子。悟が気にいってるだけあってやっぱりめちゃくちゃ美人さんだわあ。羨ましい〜」
「は?」


あ、これはやばいと直感で判断した。



「悟ね、よく貴女の話してたのよ〜。私といる時くらい他の女の話はやめてって言っても聞かなくて」
「……神崎先輩、ちょっと」
「それが最近になって急に“もう連絡してくんな”って言われちゃって…あんなに何度も熱い夜を過ごしたのに…ねぇ、酷いと思わない?清宮さん」


嘘だろあいつ高専内にもセフレ作ってたのかよ…!
知らなかった事実に頭が痛くなる。
ただならぬ雰囲気に隣に座っている補助監督さんの顔がめちゃくちゃ引き攣っていて思わず同情の気持ちが湧いてくる。



「……まさかとは思うけど、悟、貴女のために私を振った…なんてことはないわよねえ」
「……」
「悟がたった一人の女に誠実になるとは思えないし」
「……」
「貴女もどうせそのうち捨てられるわよ」
「……神崎先輩、いい加減に」
「さっきから黙って聞いてたら言いたいことはそれだけですかセンパイ」


希が呪力が格段に上がる。嫌な汗が背中を伝う。これはまずい。非常にまずい。

希が本気でキレてる。


「は?なにい「センパイ。次悟の名前出したらーー私、センパイのこと殺しちゃうかも」
「は、」


「聞こえませんでした?ーーーーお前を消すって言ってんだよ」


凄まじい殺気に車内がピキリと凍りつく。さっきまであんなにペラペラ話してた神崎先輩も流石に命の危機を感じたのかそれから高専に着くまでの間一言も言葉を発さなかった。かなり頭が弱そうに見えたが、懸命な判断だと思う。希は本気で先輩を殺りかねない。


車が高専に到着するないなや先輩は逃げるように外に飛び出した。希はずっと無表情で、これはなかなかまずいことになったとため息が出る。元はと言えば高専内にセフレを作った悟が悪いのだけれど、あの先輩も希に何言ってくれてるんだ。


「希。どこに行くんだい」
「渋谷」
「なにしに」
「傑には関係ないでしょ」
「…どうせナンパされに行くんだろ?」
「だったらなに」
「悟が心配するよ」
「あんなヤリチン知らねーよ」


こうなった希はなかなか機嫌が治らないから大変なんだ。私がいくら引き止めたところで希は聞かないだろうし、とりあえず悟にさっきあった出来事を報告するために電話をかけた。



「……あ、もしもし悟?実はねーー」

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