ヤキモチ妬きでも許してね

分かってはいるつもりだった。悟にセフレが何人もいることくらい。特定の彼女はいないみたいだったけど、それでも実際に女と腕を組んで歩いているのを何度も見かけたことがあるし、悟の携帯に女から“早く会いたいよー♡♡♡”なんてハートマークがたくさんついたメールが届いているのを見たことがある。だからこそ、今まで悟からの告白は毎回流してきた。理由は簡単、自分が傷付きたくなかったから。


「悟がたった一人の女に誠実になるとは思えないし」
「貴女もどうせそのうち捨てられるわよ」


まぁ、普通に考えたらそうだろうなとは思う。


「あんなに何度も熱い夜を過ごしたのに…」


悟はあの女に、どんな甘い台詞を吐いて、どんな風に抱いたんだろう。
私が知らない悟の顔を、あの女は知っている。
それだけで胸の奥底にどろりとしたドス黒い感情が湧き上がってくるのを感じて、深いため息を吐いた。
だから、嫌だったんだ。自分がこうなるのを分かっていたから。なのに、なんで、どうして。


「はー、あほらし」


色々考えてイライラするのもめんどくさい。
もう、いい。今は何も考えたくない。


「ねーねー。君、高校生?」
「うわっ、まじ!?ちょーーー美人じゃん!え、モデルやってる?」
「これから暇?お兄さん達とお茶でもしない?」


原宿通りを歩いてすぐに3人組の男に話しかけられた。所詮、ナンパ。見た感じ大学生くらいかな?どうでもいいけど。


「お兄さん」
「ん?なになに?どうしたの?」
「お茶、良いよ。行っても」
「まじで!?」
「うん」
「嘘だろこんな美人にナンパ成功するなんて!やべー!!」
「おいやめろ直人恥ずかしいだろ!」
「いやだってこの子まじで美人じゃん!?」
「美人だけど!!!」


男はみんな私の顔を見た瞬間、私のことを好きになる。だって私、めちゃくちゃ綺麗な顔してるもん。中身なんて関係ない。多少性格に難があっても、綺麗な顔をしていて、胸が大きくて、スタイルが良かったら、男なんて簡単にすぐに惚れる。イライラしたらこうやってわざと男にちやほやされにいって、優越感に浸る。私にとったら一種のゲームのようなもの。
この趣味の悪い遊びに悟と傑は嫌な顔を隠しもせずに何度も何度も辞めろって言ってきたからしばらく言うこと聞いて辞めていたけど、それももう今はどうだっていい。


「あのさ、名前とか聞いても良い?」
「あー…清宮「おいっ!!!!」


まー…来るわな。てか気付いてたし。悟の呪力が近づいてきているのは分かっていた。
悟はかなり慌てて来たのだろう。額からぽたぽた汗が垂れている。悟は確か今日任務がなかったから、白いカットソーに黒のスキニーパンツといったラフな普段着だ。



「希。帰るぞ」
「腕、離して。痛い」
「一緒に帰るなら離す」
「帰るわけないでしょ。私今からこの人達とお茶するんだから」


ねー?とニコニコしながら3人組の男を見ると、悟を見ながらめちゃくちゃ顔が引き攣っていた。おい待て。いくら悟が超絶イケメンだからってここでびびってどうする。私とお茶したいんじゃなかったの。もっと頑張れよ。


「あ゛?それまじで言ってんの」
「ひぃぃぃ…っ」
「まじ中のまじ。だから離して」
「おいお前ら。早く消えろ」
「悟が帰って。この人達のが先約だから」
「は?」
「は?じゃねーよ。帰れって言ってんの」
「おいお前いい加減にしろよ」
「こっちはクッソいらいらしてんだよ。これ以上いらいらさせんな」
「お前がその気なら無理矢理連れて帰るからな」
「黙れ。誰のせいでイライラしてると思ってんの」
「…傑から聞いた。それは本当に悪かったと思ってる。ちゃんと謝るから。だからお願い希、一緒に帰ろう」
「………あの、お、俺たちお邪魔みたいだし、か、かえるね?じゃ、じゃあ…っ」
「え?ちょ「あーまだいたの?とっとと失せろ」
「はー……」


もう、なんでこうなるのかなぁ…。光の速さで走り去っていく3人組の背中を見ながらため息を吐く。


「……何、そんなにあいつらとお茶したかったわけ」
「だったらなに」
「タイプなやついたの?」
「それ、悟に関係ある?」
「ある。希のことが好きだから」
「……神崎先輩にも同じこと言ったの?」


分かってる。悟が悪くないことくらい。私に何度も告白してたけど私と悟は恋人ではなかったし、今現在だってそれは変わらない。だから悟が誰と付き合おうとセフレが何人いようと私は悟を責める資格なんてないし、悟が私に謝る必要だってない。


なのに。


「………泣くなよ」
「……………泣いてない」
「頼むから泣かないで、希」


ぎゅうって悟に抱きしめられて、ここが原宿のど真ん中かだとか今までイライラしていた気持ちとか、そんなのが全てどうでも良くなる。


「神崎先輩…嫌い…」
「うん」
「悟のこと呼び捨てにしてるのもむかつく…」
「うん」
「私の方がかわいいもん…」
「あんな奴と比べ者にならないくらい希は可愛いよ」
「…1番かわいい?」
「世界中の誰よりも、希が1番可愛い」
「……後で携帯見せて。セフレだった女の連絡先全部消してあるかチェックする」
「ん、いーよ。もう消してあるけど。てか希が心配なら、毎日携帯見せるよ」
「…いいの?」
「いいよ。それで希が少しでも安心してくれるなら」
「………ありがとう」
「ん。機嫌治った?」
「………うん」
「じゃあ、一緒に帰ろ」


悟は優しくそう言って私から離れると、私の指を絡めて手をぎゅうっと握ってきた。所詮、恋人繋ぎだ。


「ねえ、希」
「……ん?」
「大好き」
「………私も」


あ、後でGPSもつけていいか聞いてみよ。

// //
top