どっちもどっち

「俺の希が今日も世界一かわいい」
「はいはい良かったね」
「いや宇宙一かわいい」
「どっちでも良いよ」
「この俺が。国宝級の男、五条悟がさ。毎日携帯見せて、GPSもつけてるんだぜ。この俺が」
「へぇ…」
「ちょっと何羨ましそうな顔してんの。言っとくけどいくら傑でも希だけは譲らないからな」
「いや引いてるんだよ」
「いや引くなよ」
「引くだろGPSは」
「はー!?!ヤキモチ妬きで心配性の希ちゃんクッッッッソかわいいだろーが!!!」
「………うるさっ」


悟がめんどくさい。いやめんどくさいのは元々なんだけど、最近の悟はめんどくささに拍車がかかってる。口を開けば希希。あいつは希以外の名前を言えない呪いにでもかかったのか?それくらい毎日飽きもせず希のことばかり。携帯の待ち受けもいつの間にかあの某有名なグラビアアイドルから希と悟の2ショットに変わっていた。いやもうとっとと付き合ってくれ。


「…で、その希は今日硝子とデートなんだ?」
「なんか希がおニューのブラとパンティが欲しいみたいでさ」
「せめて下着って言おうか悟」
「俺が選んであげるって言ったのに絶対嫌だって聞かねーんだよあいつ」
「当たり前だろ」
「は〜〜〜どの写真の希もさいっっっこうにかわいい…これなんて絶対振り向いた瞬間不意打ちで撮られたやつだよな?なのになんでこんなにかわいいの??天使なの???あ〜硝子ちゃんまじでありがとう…!やっぱり持つべきものは同期だよ…」


悟はさっきからずっとタバコ3カートンで買収したらしい硝子から送られてくる希の写真を気持ち悪いくらいニヤニヤしながら眺めてる。
希からも硝子と一緒に撮ったやつや自撮りを何枚も送られているのに、わざわざ硝子を買収する必要なかったんじゃないのかい?なんて聞いたら悟は「はー?」って意味がわからないと言いたげな顔をした。いや間違いなく意味がわからないのは悟の方だからな。


「意識して撮った希のあざとい姿と、他者から撮られた希の無防備の姿。どっちも見たいし両方欲しいに決まってるだろーが」
「……………へぇ」
「引くなよ」


いや引いてはないけど…いや引いてるのか?まぁ悟の希らぶ!は今に始まったことじゃないしな…ここ最近かなり悪化…いや、愛情表現は日に日に増している気はするけど。



「もしさ」
「んー?」
「もし、希が悟以外の男と付き合ったらどうするんだい?」
「あー…まぁそんなの考えたくもねぇけど…」
「うん」
「殺すよ」


空気が一気にピリつく。怖。目が本気すぎて笑えない。


「えーっと…それは男を?」
「うん。希の目の前で、じわじわ痛めつけて最高に苦しませて殺す。もう2度と他の男と付き合う気にならないように、トラウマになるように、ぜってー相手の男は簡単には死なせてやらない」
「……希が泣いても?」
「泣いても喚いても辞めるわけねーだろ。つか他の男のために泣く希なんて見ちゃったら嫉妬で気狂って希の目ん玉抉っちゃうかも」
「……うわぁ」
「ドン引きすんなよ」


いやこれで引かない奴なんている?いないよな?私が正常なんだよな???私の周りはなんでこうも愛情が行き過ぎてる狂った奴しかいないんだ??思わず頭を抱えたくなる。いや硝子は違うけど。どちらかと言えば硝子は私側だけど。


「ま、希に限ってそんなことはないからダイジョーブだけど♡」


ウインクする悟にははは、と乾いた笑みしか返せない。うん、まぁ、希に何かあったらその時は全力でお兄ちゃんが守ってあげるからな…。







「虫避け呼ぶ?」
「今日は硝子独り占めdayだからだーめっ♡」
「さっきから虫がうじゃうじゃ湧いて良い加減うざいんだけど」
「なんならキスでもしとく?そしたら硝子と私がデキてるって思われて害虫もいなくなるんじゃない?」
「絶対ヤメろ」


即答じゃん!希ちゃん悲しい!なんて頬を膨らませる希に冗談じゃないとため息を吐く。この女の恐ろしいところは、決して冗談ではなく平気でこういうことを公共の場でするような奴であるということだ。油断してはならない。


「今日は硝子とおソロの下着ゲットできたし嬉しいなぁ」
『ねーねー!』
「ほぼ無理矢理だったけどな」
『お姉さん達めちゃくちゃ可愛いねー!』
「硝子があのエッチな黒のスケスケの下着身につけてるの想像しただけで鼻血でるんだけど…」
『今から俺たちとカラオケ行かない!?』
「お前絶対前世男だろ」


あぁぁぁぁうぜー!!!!!!次から次へと群がりやがって!!!!!!イライラが募りに募って思いっきり舌打ちをする。五条や夏油が一緒の時はびびって遠巻きで見てくるだけなのに女だけってだけでなんでこうも舐められるんだ。希は対して気にしてない感じだけど正直信じられない。


「………タバコ吸いたい」
「吸う?喫煙所行く?」


希の言葉にげっそりしながら頷いて喫煙所に向かって足を進める。その間も虫どもは懲りずに群がってくるけど、希は私と腕を組んで随分とご機嫌な様子だ。


「希は鬱陶しくないの」
「ん〜?今は硝子しか見えないから全く気にならないの」


うっとりとした顔で私を見つめながらそう呟く希に男だったらきっとイチコロなんだろうけど生憎私の性別は女だ。へーとそっぽを向くと冷たい!ひどい!と抗議の声が聞こえてくる。


喫煙所に着いて希とタバコを吸う。煙が肺に充満していくのと同時に苛立っていた気持ちが少しづつ落ち着いてくる。ふーと煙を吐きながら隣を見ると、希はタバコを吸いながら携帯をカコカコいじっていてなんとなく覗き込む。


「五条?」
「うん。硝子と撮った2ショット“めっちゃ可愛い♡”だって」
「ふーん」


なんて言いながら私も携帯を見ると五条から
“希めっちゃ可愛いんだけど”
“天使”
“硝子ちゃん新しい希ちゃんの写真はよ”
“ナンパされてない?”
なんてメールが届いていた。暇かよ。

最後のメールに少し悩んでからまぁいっかと“ナンパしかされてない”って送信したらリアルに1秒くらいで返事が返ってきてドン引きする。いや流石に早すぎだろ。まさかあいつ携帯握りしめながら待っていたのか?しかも“今からそっち行く”ってお前誰だよ。希の彼氏気取りか。まぁ私的には虫除けが来てくれるからラッキーなんだけど。


「五条来るって」
「え?」
「今から、五条来るって」
「はぁ…どうせまた硝子が変なこと言ったんでしょ」
「私は事実を言っただけです〜」
「今日はせっかく硝子ちゃんdayだったのに…」


そこでふと気付いた。


「あいつ、うちらの居場所分かんの?」
「分かるよ。私GPSつけてるから」
「……………まじ?」
「まじ。てか悟もつけてるし」


いや当たり前でしょみたいな顔で言われても。


「ま、どうせくるならナンパされてる最中に来てほしいなあ。嫉妬してる悟かわいいし」


にこにこしながらそう言う希を死んだ目で見ながら煙を吐き出す。
どっちもどっちってこういうことを言うんだな。

// //
top