「ごめんて!!マジごめん!!この件から手を引く!!呪詛師もやめる!!勿論『Q』もだ!!そうだ!!田舎に帰って米を作ろう!!」
「…?」
「聞こえてるだろ!!」
「呪詛師に農家が務まるかよ」
「聞こえてんじゃん!!学生風情がナメやがって…!!だがここにはバイエルさんとイザベラさんが来ている!!『Q』の最高戦力だ!!オマエもそいつらもーー」
「ねぇ。バイエルとイザベラってこの人?」
「え?」
悟から送られてきた伸びてる呪詛師達の前で肩を組んで笑顔でピースサインをしている悟と希の写真を見せれば、目の前の呪詛師は汗を垂らしながら目を見開いて「……この人達ですね」と呟いた。はあ、口ほどにもない。
そしてこの呪詛師はあろうことか、希の顔を見た瞬間鼻の下を伸ばしてデレデレし始めた。ーーは?お前…今の自分の立場きちんと理解してる?
「び、美人すぎないか」
「当たり前だろ、希だぞ」
「どうせ殺りあうならこの子とが良かったな」
下品な顔をし始めたこいつにピキピキと青筋が浮かぶ。嗚呼駄目だ、イライラする。
「ーーそんな死に急ぐなよ」
▽
ありえない。つまらない。信じられない。だから乗り気じゃなかったのに!!!
硝子には会えないし悟は他の女をお姫様抱っこしてるし本当今すぐ帰りたい。……帰ってい?
「一応医者診せる?」
「硝子がいればねぇ」
普通に会話してる二人にイライラしすぎてタバコを取り出してライターの火をつける。
こんなの浮気だ。浮気だもん。悟なんか知らない!
「お姫様はいつまで拗ねてるの?」
傑が困ったように笑いながら私の頭を撫でる。
「悟なんか知らない」
「まぁ、ああ見えて悟は意外と優しいところがあるからね」
「悟は他の女になんて優しくしなくていい!私と硝子にだけ優しくすればいいの」
「私は希にだけ優しい?」
「ううん、傑は八方美人」
「はは、酷い言い草だなあ」
「傑も私と硝子にだけ特別優しくして」
「ん〜?私は初めからそのつもりだけど?」
傑は優しい。いつも私の欲しい言葉をそのままくれる。大好き。本当に好き。タバコを灰皿に押し付けてからぎゅーって傑に抱きつくと、傑は背中をぽんぽんしてくれる。
悟は私達を見るなり目を見開いて、すぐに眉間に皺を寄せながらズカズカと距離を詰めてくる。
「おい傑!お前何希に抱きついてるんだよ!」
「誤解だよ。“希から”抱きついてきたんだ」
「そこ強調すんな!腹立つなあ!」
私の方が腹立つわ!なんなの自分のことだけ棚に上げて!!悟が騒がしいからか星漿体の女の子の目がぱっちり開いた。
「お。起きた」
その瞬間、べちぃと星漿体の女の子が悟の頬にビンタをして、思わず傑とプッと吹き出す。ウケる。ダッサ。
「下衆め!!妾を殺したくばまずは貴様から死んでみせよ!!」
え、何この喋り方。何時代?
「理子ちゃん、落ち着いて。私達は君を襲った連中とは違うよ」
すぐに傑が貼り付けたような笑みを浮かべながら星漿体の女の子に話しかけるけど、私はもうその話し方が気になって仕方なかった。え、むしろなんで誰もつっこまないの??
「嘘つきじゃ!!嘘つきの顔じゃ!!前髪も変じゃ!!」
ブハッッッ!
思わずお腹を抱えてゲラゲラ笑う。
悟と傑は怒りのオーラを纏いながら星漿体の女の子を左右でギリギリと引っ張っている。
「ぃいやーーーーー!!!不敬ぞー!!」
「おっおやめ下さい!!」
「黒井!!」
「お嬢様。その方達は味方です」
「……何に乗っておるのだ?」
「これは、前髪の方の術式です!!」
「その言い方やめてもらえます?」
「………っ!!」
「希めっちゃゲラじゃん」
あー…笑いすぎて涙がでちゃう…。悟はすぐに指で涙を拭ってくれたけどそんなことじゃ私の機嫌は治らないからな。キッと睨み付けると悟は嬉しそうにニヤニヤしながら私の顔を覗き込んでくる。…あ、コイツ、私に嫉妬されたくてわざとこの子をお姫様抱っこしたな。もうなんなの!腹立つなあ!
「『呪霊操術』文字通り取り込んだ呪霊を操れるのさ」
「思ってたよりアグレッシブなガキんちょだな。同化でおセンチになってんだろうからどう気を遣うか考えてたのに」
「フンッ!!いかにも下賤な者の考えじゃ」
「あ゛?」
「いいか天元様は妾で、妾は天元様なのだ!!貴様のように“同化”と“死”を混合している輩がおるがそれは大きな間違いじゃ」
スイッチが入ったのかペラペラ語り始める星漿体の女の子を無視して傑の背中の上に乗りかかって甘えると悟がまたキー!となって怒りはじめた。フンッ。さっきの仕返しだもん。
そんな私達に星漿体の女の子は「聞けぇ!!」と怒りはじめる。
私は星漿体の女の子をジーっと見つめると、距離を詰めてぐいっと顔を覗き込む。瞬間、ボンっと可哀想なくらい顔が真っ赤に染まる星漿体の女の子。
「なななななんじゃ…(美人すぎる!人間!?)」
「ねぇこの喋り方で友達いるの?」
「学校じゃ普通に喋ってるもん!!」
恥ずかしそうにそう言う“理子ちゃん”は、“星漿体”じゃなくて年相応の普通の女の子に見えるんだけどなあ。
「……学校!!黒井!!今何時じゃ!?」
「まだ昼前…ですがやはり学校は」
「うるさい!!行くったら行くのじゃ!!」
『はぁ!?さっさと高専戻った方が安全でしょ!!』
夜蛾センとの電話で酷く苛立った様子の悟。どうやらすぐには高専に戻らないらしい。
まぁ、天元様と同化したら自由なんてものは全て奪われてしまうしね。
舌打ちをしてイライラしている悟に、傑は冷静に宥める。
「ああは言っていたが、同化後彼女は天元様として高専最下層で結界の基となる。友人、家族、大切な人達とはもう会えなくなるんだ。好きにさせよう。それが私達の任務だ」
「理子様にはご家族はおりません。幼い頃事故で…それ以来、私がお世話して参りました。ですからせめてご友人とは少しでもーー」
「それじゃあアナタが家族だ」
「……はい」
家族。
理子ちゃんには、家族が、いない。
ーーアンタなんか産まなきゃ良かった
ーーこんな化け物娘じゃない
ーー母親にも父親にも似ていない。なんて薄気味悪い
ーー今日からお前は“清宮”だ
「…希?」
「ん?なぁに?」
「大丈夫か?ぼーっとしてたけど」
「…んー大丈夫。少し眠たかっただけ」
「…希は、一人じゃないから」
「え?」
「俺達がずーっと傍にいる」
「…ありがとう、悟」
ギュッと悟に手を握られて、さっきまでのイライラがどうでもいいことのように思えてしまう。
だって、悟はいつだって私のことを一番に考えてくれているから。
しばらく悟と見つめ合っていると、酷く焦った様子の傑がポンッと悟の肩を叩く。
「悟。希。急いで理子ちゃんの所へ」
「あ?」
「監視に出してる呪霊が2体祓われた」
「天内は!?」
「この時間は音楽なので音楽室か礼拝堂ですね」
「「レーハイドゥ!?」」
「音楽教師の都合で変わるんです。あとここはミッションスクールです」
「悟と希は礼拝堂。黒井さんは音楽室。私は正体不明2人を」
「えーーー!!」
「承知致しました」
「傑やだよ!さみしいよ!私も傑と一緒に行く!!」
「は!?俺と一緒じゃ不満なのかよ!」
「希、すまない。今は悟で我慢してくれ」
「あ゛?おい傑!お前言い逃げすんな!」
「すぐるーーー!!」
走り去って行く傑に必死に手を伸ばすけど、あっという間に姿が見えなくなって涙が出てくる。さみしい…すぐる…一緒にいたいよ…。悟は眉間に皺を寄せながら私の頭を軽くチョップしてくるけど手加減されているとはいえ地味に痛い。
「希ちゃーん?そんなに俺を怒らせたいわけ?」
「てか目の届く範囲で護衛させてって言ったのに…はあ」
「申し訳ありません。移動の度にメールするよう言ったのですが…」
「友達に見られたくなかったのかな?はは、思春期だねえ」
「え、希ちゃん無視?無視なの?酷くね?」
「うるさい悟大好きだバカ」
「え、何。今日はツンデレの日なの?なんなの?可愛すぎてマジ無理。大好き希」
「(頬にキスした…!仲良しだな〜!)」
▽
「天内!!」「理子ちゃん!!」
悟とバァーンと思いっきり扉を開けば一斉に女生徒達の視線が此方に向く。理子ちゃん…理子ちゃん…と辺りを見渡すと、いた。理子ちゃんは私達を見ながら「なっ…なな…」と顔を真っ赤にして口をはくはくさせている。ん〜正直理子ちゃんに会うまでは全くこの子に興味なかったけど、今は少しだけかわいいと思っている自分がいる。私と同じ家族がいないという事実に同情しているだけかもしれないけど。
「「「え〜〜〜〜〜〜!?」」」
女生徒達の叫び声が部屋中に響き渡る。
悟は不思議そうに「ん?」と言って、私はあまりの煩さに顔を顰める。
「何、理子、彼氏!?てか隣の女の人は誰?!美男美女〜!!」
「違っ…いとこ!!2人とも、私のいとこだよ!!」
「高校生!?背ェ高!!女の人はスタイル抜群〜!」
「おにーさんグラサン取ってよ!!」
「イケメンじゃん!!」
「おい調子乗んなよ!!」
ノリノリでサングラスを外してキメ顔をする悟の足を思いっきり踏む。のに触れられない。クソ、無下限め。ニヤケ顔の悟に、さっきの仕返しだなと小さく舌打ちをする。
「コラ!!皆さん静粛に!!はしたないですよ!!」
パンパンと手を叩きながら此方に向かってくる先生。
「困りますよ。身内とはいえ勝手に入られては」
この教師…悟しか見えてねーじゃん。死ね。
「あーいや緊急なもので。スイマセンね」
悟の前に立ってにこりと笑いながらそう言えば、先生はひくりと顔を引攣らせてはーーー…と大きなため息を吐いた。
「なんだよ、彼女持ちかよ。しかもスゲ〜美人」
「お゛ぉ゛ーい!!条例違反!!」
「るせー!!教職の出会いのなさナメんじゃないわよ!!」
「それは私達だって同じでしょ!?教師が年下趣味とか見損なったわ!!」
「はぁ!?光源氏ディスってんの!!」
一気に騒がしくなった教室を悟と一緒に理子ちゃんを引き連れて後にする。
「賑やかな学校だな」
「てか教師がアレってヤバくない?」
「馬鹿者!!あれ程皆の前に顔を出すなと」
「呪詛師襲来。後は察しろ」
「!」
「理子ちゃん。このまま高専に行くよ。お友達が巻き込まれるのは嫌でしょ?」
そう言えばぐっと堪えるような….諦めたような顔をする理子ちゃんに少しだけ胸が痛む。…え?胸が、痛む?
自分が会ったばかりの人間に情を持てる人間であったという事実に驚きを隠せない。私はいつからこんなにお人好しになったんだ?それともただの同情からきている感情なのか?まあそれも今はどっちだっていい。私はただ、与えられた任務を全うするだけ。
「そのガキを渡してもらおうか」
嘘だろ。なんだそのダッセー覆面。
つかお前誰だよ。“Q”?盤星教?
どっちにしろ理子ちゃんを狙っているなら私達の敵であることに間違いない。
「悟。理子ちゃん連れて先に行って」
「希。さみしーこと言うなよ。早くお遊び終わらせてこっち来いよ?」
「秒で片付ける」
「待て!まさか本当に女の子1人を置いて行くつもりなのか!?」
「は?お前ソレ誰に向かって言ってんの?」
ーー轟音。
「心配しなくとも希はーー強い」
「で、お前は“Q”?盤星教?」
理子ちゃんがいないから遠慮なくボコれるわ。
頭を脚でグリグリ踏みつけると、覆面を被った男はゴボゴボ血を吹き出しながら蚊の鳴くような声で情報を吐き出した。
「呪詛師御用達の闇サイトでっ…う゛…期限付きの…あのガキを殺せば3000万の懸賞金が貰えるんだっ」
「は?期限付き?いつまで」
「明後日の…!午前11時までだ…っ」
「マジで?はー……あのさあ。こっちは暇じゃないんだわ。年中人手不足なの。勘弁してよ、ほんと」
「ちゃんと言ったから!どうか!どうか命だけはーー」
「あ゛?誰が吐いたら見逃すって言った?」
ブシュッと血しぶきが顔を汚してぺっと唾を吐く。もうやだ。こんな綺麗な女の子にこんな汚い血なんて似合わないよ。はー…と今日何度目かも分からないため息を吐けば携帯がバイブ音で震えて手に取る。パカッと携帯を開くと、悟からの着信。ああ、なんだか嫌な予感がする。
『…………は?黒井さんが拉致された?』
ーー予感的中。マジ最悪。