犬猿の仲とはまさに

「歌姫せんぱーい。後輩に守られるとか恥ずかしくないのぉ?あー頭ぶって脳みそいかれたとか?ダイジョーブ?」


にんやり笑って下から顔を覗き込んでくる希にわなわな震える拳。
クッッッッソむかつくな!!!!!
なんで私の後輩はどいつもこいつも生意気な奴ばかりなの?!!?
頭の中で白いクズが指差して笑ってくる。
ほんと呪術師はクズばっかだな!!!











今日は久しぶりに希と2人で任務だった。
夜蛾先生から任務を言い渡された時からそれはそれは希は不機嫌で挙げ句の果てに「こんな任務私1人で充分なんですけどー。弱っちぃ歌姫センパイは良い子でお留守番でもしてな。まーーー仮にね?仮に寂しくて私について来たとしても精々お荷物にならないように気を付けてね?言いたいこと分かるよね?頼むから私の足だけは引っ張るなってこと。あ、ごめーん。弱い弱い歌姫センパイはいるだけでお荷物だったよね?私ってばうっかりぃ☆」なんて信じられないくらいムカつく顔をしながらペラペラペラペラ私を馬鹿にする言葉を吐き続ける希に、夜蛾先生はピキピキ青筋を立てながら「おっまえはいい加減にしろ!!!!」と思いっきり拳骨を希に食らわした。
ゴツン、とありえない音が廊下に響く。

「っっっ〜!!!ったぁぁぁっ!!!」
「ふんっ!自業自得よ」
「歌姫てめぇふざけんなよっ!」
「敬語!!!!!!」


















ここまでのやり取りを見てお分りいただけただろうか。



そう、何を隠そう私と希は、信じられないくらい仲が悪いのだ。
そもそも希は私のことを酷く毛嫌いしてる。
事の発端は数ヶ月前、硝子が希の遊びの誘いを断って私と先約だった映画を一緒に見に行ったことがきっかけだった。


硝子と今流行りの映画を見終わって、感想をファミレスで言い合って、夜は肉が食べたいと言う可愛い後輩のご要望に答えるために焼肉に行ってお腹いっぱい食べて、あー久しぶりにこんなに笑った!本当に楽しかった!なんて硝子と笑いながら帰ってきたら、一体全体何が起きたのかとか自分の目を疑った。


だって、校舎が、崩壊しているのだ。


え……!?な、何事……!?まさか襲撃……!??!


人間驚きすぎると声も出ないらしい。
口をはくはく動かしながら隣にいる硝子を見ると、硝子は頭を抱えながら携帯を見ていた。


「すいません歌姫先輩…これ多分私のせいです」
「え!!?どうい「硝子」


「………希」


凄まじい殺気を感じて目を向けると後輩の清宮希がニコニコしながらこっちを見ていた。
え…怖…。目全然笑ってないし。


「何回も何回も電話したのになんででてくれないの?ねぇ、留守電にもいれたしメールだって何通も送ったのになんで?硝子は私より歌姫センパイが大事なの?なんで?私のこともう嫌いになっちゃったの?私のがそいつなんかより強いし硝子を守れるのは私だよ」
「映画始まる前に携帯の電源切っててそのままつけるの忘れてた。ごめん」
「うんうんそっかぁ。映画の時は電源消さなきゃだめだもんね?そりゃそうだよね。うん。映画楽しかった?私も見たかったなぁ」
「希」
「うん?」
「お前、流石にやりすぎ」


待て待てこのやり取り的にこの校舎壊したのって希なの!?嘘でしょ!?なんで!?!?
顔がさっと青ざめると希の後ろから疲れた顔をしてる五条と夏油がやってきた。


「お前反省文書いてる途中に抜け出してんじゃねーよ」
「だって硝子の気配感じたから」
「凄まじい執着心だな」
「おいクズ共。お前らいるなら希の暴走止めろよ、なんで校舎崩壊させてんだよ」
「はー?止めようとしたに決まってんじゃん。止めようとして傑と術式乱発しまくったらこうなった」
「嘘だろクズじゃん」
「私は悪くない。悪いのは歌姫センパイ。まじでムカつくありえない」
「はいはい希、少し落ち着こうか」
「夜蛾セン早く連れ戻せって言ってたし希そろそろ戻るぞ。これ以上反省文増やしたくないだろ?」


いや待て待て待て待て待て情報量が多すぎて何も入ってこないわ!!!!
そもそもなんで希は私にむかついてるの!?
会えば軽く挨拶する程度だし一応連絡先は交換してるけどお互い任務の連絡事項以外は連絡取り合ってないし希が私に怒ってる理由に全く心当たりがないんですけど…!!!
てか、校舎崩壊させる程怒ってるってことだよね!?!待ってめちゃくちゃ怖いんだけど!!誰か助けてまじで!!!


私の想いが通じたのか硝子が申し訳なさそうに口を開いた。


「…歌姫先輩は何も悪くないです。私が希の電話に出ていればきっとここまでの惨事にはならなかったはずですから…」


硝子が遠い目をしてそう言った。


「もしかして……今日希と遊ぶ約束とかしてた…?」
「いや、誘われましたけど歌姫先輩が先約だったんで」
「あのさあ、歌姫センパイ」
「!?」


はっっっっや!!早すぎて気付かなかった!!
いつの間にか目の前にきていた希はそれはもう天使のように綺麗な笑顔で私にこう言ったのだ。


「硝子の一番は私だから」











その日から、私は希に毛嫌いされるようになった。
いや私何にも悪くないよね?!むしろこれって被害者だよね!?!?



「これくらいの雑魚にやられそうになるとか歌姫センパイ呪術師むいてないんじゃない?もう辞めたら?」


そして冒頭に戻る(白目)。




あ゛ぁぁぁまじでむかつく!!!!お前何度も何度も言うけど一応後輩なんだからな!!
でも今回ばかりは希に助けてもらった手前何も言えない。ぐっと堪える。怒りで唇がワナワナ震えてるけど。








今回の現場は窓からの報告で2級レベルの呪霊が複数いるとされる廃墟だった。そりゃ1年ですでに階級が1級の希にとったら退屈すぎて欠伸が出ちゃうくらい簡単な案件でしょうね。でも流石に欠伸しすぎでしょしすぎて涙でてるじゃんむかつくな!カリカリしてたら希が「とりあえず二手に別れて終わったら入口んところで。ま、やられそうになったら流石に助けてやるから安心しろよ歌姫」なんて手をひらひらさせながら去っていった。だーかーらー!
「敬語!!!!!」





そしてこのザマである。
2級呪霊2体に同時に攻撃されそうになって流石にヤバイってなったところに希が現れて術式の反射を使って2体まとめて祓ってくれた。
悔しいけど、やっぱり強いな。悔しいけど!!


「いつまで床とオトモダチになってんの?センパイ。とっととこんなところ帰りましょ」


脇の下に手を入れられグイッと身体を持ち上げられる。
むかつくけど、流石に今回は命を助けてもらったわけだから、言わなきゃ。早く、お礼を、言わなければ。(むかつけど!死ぬほどむかつくけど!!)



「…希」
「はい?」
「さ、さっきはありがとう」
「……」
「あんたがいなかったら、私、今頃死んでた。だから、本当に、ありがとう」
「……」
「な、なんとか言いなさいよ」
「……やられそうになったら流石に助けるって言ったでしょ」


ほらさっさと帰るよ。スタスタ歩き出す希の耳はほんの少し赤くなっていて、思わず目を見開く。
え…嘘でしょ。あの希が?私に会えば雑魚だの呪術師辞めろだのうざいだの消えろだの悪態しかつかないあの悪魔みたいなあの希が…?え、まさか、嘘、ほんとに…?!


「…………希、私初めてあんたのこと可愛いって思ったわ」
「殺すぞ」


……お礼を言われて照れるなんて可愛らしいところもあるんじゃない。
ま、めちゃくちゃ嫌いだけどね!!!!!

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