「ねえ聞いて〜!この間任務で助けた非術師のセレブ風のお姉さんにお礼にって〇〇ホテルのビュッフェの招待券2枚貰ったのー。ここのホテルのビュッフェ前から気になってからちょー嬉しい♡」


ニコニコしながらじゃーん!と招待券2枚を自慢気に見せてくる希に思わず笑みが溢れる。かわいい。希のこの天使のような笑顔は世界を救えると思う。いやマジで。


「「今度休み合わせて一緒に行こうか」」


ーーは?

思わず隣をバッと見ると、傑も信じられないという目で俺をガン見していた。
いや俺はともかくなんでお前がそんな顔してるんだよ、意味わかんねーよふざけんな。


「希。ビュッフェは私と一緒に行こう」


すぐにいつもの胡散臭い笑みを浮かべた傑は希の手を取りそう言って、俺は反射的にその手をバッと引き離した。


「す ぐ る く ん ?お前何言ってんの?希の彼氏は俺だよ?もう忘れたの?普通に考えてそのビュッフェは彼氏である俺と一緒に行くのが道理だろうが」


おい傑、お前マジでどうした?
ここ最近お互いの任務が忙しすぎて俺らがまともにデートできてねぇのお前知ってるよな?
ギロリと傑を睨みつけると、傑も負けじとキッと睨みつけてくる。いやだからなんでお前もそんな顔してんだよ。


「悟と希が交際し始めてから私と希が一緒に出かける頻度が格段に減った。何故だと思う?悟が希を独占しようとするからだ」
「いや彼氏なんだから当然の権利だろ」
「はー……またでた。悟の“彼氏”だから。それが何?希の“彼氏”だから希を独り占めして当然だって?そんなの理由にはならない。私だってたまには希と2人で出掛けたいんだ。希だってそうだろう?」


珍しく感情的な傑に少し驚くも、すぐにああ、確かこいつも最近任務の連勤えげつねえことになってたから苛ついてるんだなと悟った。でもだからといってビュッフェを希と傑の2人で行くことなんて許せるはずがない。俺だって!マジで!希と久しぶりのデートを楽しみたいんだよ!深刻な希不足なの!気付けよ!!そして譲れよ!!


傑に問いかけられた希は一瞬キョトンとして、そしてん〜と悩むそぶりを見せると、傑に向かってにこりと微笑んだ。


「傑、かわいい。そんなに私と一緒にお出かけしたいの?」
「うん。したい」
「ちゃんと言葉にして言って」
「希と一緒にお出かけしたい」
「はは、傑私のこと大好きじゃん」
「大好きだよ。希は?」
「ちょー大好き」


え?なに?俺は一体何を見せつけられてんの?
2人のイチャイチャに思わず持っていたコーラのペットボトルを握りつぶしそうになる。つか彼氏の前でイチャイチャするこいつらの神経ヤバくね?


「希」


後ろからぎゅーって希を抱きしめて頬にキスをする。


「希と久しぶりにデートしたいんだけど。だめ?」


わざと希の耳元で吐息を吹きかけるようにそう囁けば、希は「んっ…」と色っぽい声を漏らしながら俺を見つめる。


「私も悟とデートしたい…」
「じゃあ俺と一緒にビュッフェ行こう?」
「うん…」


はあああかわいい…。マジで俺の彼女世界一かわいい…。見つめ合いながら、ちゅ、ちゅ、と何度も啄むようなキスをする。横目でちらりと傑を見ると、傑はフッと不敵な笑みを浮かべながら希の手を取った。


「希。私と一緒にビュッフェ行ってくれないのかい…?」
「えっ…」
「寂しいな…」


こいつっっっ!!!希が傑に甘えられるのに弱いのを分かった上でわざとやってやがる!クソっ!タチ悪すぎだろ!つかどんだけ必死なんだよ笑えるな!!いや全く笑えねーけど!!!


案の定傑の寂しげな表情に揺れ始める希。
どうしたものかと必死になって考えていたら、ガラッと突然開いた教室の扉。
俺らを見てうわぁ…って明らかにめんどくさそうな顔をした硝子が教室に入ってきて、「おつー。任務終わり?」と声をかければ「うん」とだけ返ってきた。よっぽど疲れてるんだな。気持ち分かるよ。

希はガタンと席を立って「硝子〜♡」と嬉しそうに駆け寄る。その姿がなんだか家に飼い主が帰ってきて尻尾振って喜んでる犬みたいに見えて、傑と一緒に微笑ましく見守っていたのが間違いだった。


「あれ?希、これなに?」
「え?ああ!これね!前に任務で助けた非術師の人にお礼にって○○ホテルのビュッフェの招待券を2枚貰ったのー♡いいでしょー?」


ニコニコしながらまた自慢気にそう硝子に話す希にかわいいなあ♡なんて呑気に思っていた俺は次の硝子の言葉にピシリと固まる。


「あ、私ここのホテルのビュッフェ一度行ってみたかったんだよね」
「えっ」
「希。一緒に行こ?」
「行く!!!!」


目をハートにしながら即答する希に傑と一緒に項垂れた。


「すぐる…」
「なんだいさとる…」
「自腹で着いてくか、ビュッフェ…」
「うん…そうしよう…」


だって硝子相手に敵うわけねーもん。

結局ビュッフェには4人で行きました。








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夏油が恋心を自覚する前のお話。