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「リッカ、紅茶飲む?」
「ありがとう。カリンは寝ないの?こんな時間だけど」
「起きるの遅かったから眠くないの」
「そう。星を見るならもう一枚羽織ってね」
「大丈夫、少しだけだから、ね?」
ドアを開けた瞬間聞こえた会話と甘ったるい空気に、ちょっぴりドキっとした。
今日はSolidSの収録。ギリギリになっちゃったな、と思いながら控え室に入ると既に4人は来ていて、花江くんと瑞希ちゃんが読み合わせをしている最中だった。
あ、江口さんおはようございます、と梅ちゃんと壮馬くんがニヤニヤと笑っている。渡された裏設定などがまとめられた資料の最初の一文は「オフ時:まるで夫婦のような雰囲気の二人」。二人、というのは言わずもがな、花江くん演じるリッカと瑞希ちゃん演じるカリンというキャラクターのことだ。それにしても距離が近い。
「雰囲気と距離感が掴めないっていってるんですよ、あれで」
「あんなんなのに脈ナシって弱気なのめっちゃおもしろくないですか?」
「え?花江くんが?なにそれめっちゃウケる」
「この前酔っ払ったとき言ってました」
花江くんと瑞希ちゃんがいいかんじなのは誰もが認める事実だ。ファンからも「結婚してほしい二人」みたいに言われたり、そう括られることも多い。SolidSでの絡みだって、そういう影響も少しはあると思う。
正直花江くんがうらやましい。業界でも美人で有名な久保瑞希が相手であることも、その彼女が安心しきった顔で笑ってくれることも。
どうかその気がないなら、そのポジションを代わってくれと何度願ったことか。瑞希ちゃんも、なにも茨の道を進まなくてもいいのに。俺が幸せにするのに。
「あ〜江口さんおはようございます!お疲れ様です!」
へらりと笑った彼女は何食わぬ顔で当然のように花江くんの隣に座りなおした。俺たちにとっても当たり前の光景だった。
「え、結婚?」
花江くんが幸せそうに笑った。
瑞希ちゃんが次の仕事だといって早々にスタジオを出ていった後だった。
「もう瑞希ちゃんには言ったの?」
「はい。1番に。」
「別に失恋、ってわけじゃあないんだもんなあ〜」
ツイッターを開けばお祝いの言葉で溢れかえっていた。トレンドにまで出てる。すげえ。
すかさず自分もおめでとうのメッセージを投稿してから、それでも思い出すのはやっぱり彼女のことで。LINEのトークページを開いたり消したりを繰り返しながら、ため息をつく。3日前くらいに彼女から届いた「明日もよろしくお願いします」というメッセージとお辞儀したパンダのスタンプを意味もなく上下させても新しいメッセージは更新されない。
余計なお世話かなあとか、考えすぎかなあとか、嫌われたくないなあとか、俺は男子高校生かとツッコミたくなる。
こんな時に彼女が喜んでるのか泣いてるのか、どんな言葉をいってほしいのかとか、思ったよりなにもわからなすぎて戸惑う。あー全然ダメ。花江くんだったらわかるのかなあ。瑞希ちゃんはこういう時誰に相談するんだろう。いつもは花江くん一択だろうけど。浅沼さん?小野Dさん?花澤さん?壮馬くん?梅原くん?
それでもやっぱり気になるものは気になるもので。ベッドの上で寝返りを打ってから気合いを入れ直す。
「今度の収録後飲みに行かない?」