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「染谷さんしぼみました?」
「しぼんだってやめてくんない?せめて痩せたって言って?」
「痩せましたね」
「真顔で言わないで、結構傷つく」
「注文が多い、、」
昼間のファミレスで向かいの席に座った顔がよすぎる先輩に対してため息をつく。
こっちがステーキ定食を頼んだのにこの先輩はパンケーキを頼むのだ。女子か。そんなんだから痩せるんだ。
「義輝やってたころは筋肉ついてたからね」
「落ちるの早くないですか?」
「そういうお前も丸くなったよね」
「筋肉質じゃなくなったんです〜」
サラダを混ぜている手をじっと見られて居心地が悪い。だいたいこんなイケメンとなんで真昼間から家族連れで賑わうファミレスでランチをしなきゃいけないんだ、と項垂れる。たまたま同じビルで収録してたってだけなんだけど。
水を飲む姿すら美しくてため息が出そう。
こんなこといったらきっと細貝さんは手を叩いて「ほんとそめには塩対応だよな!」と笑ってくれるんだろう。
「そういや、この前拡樹くんと対談してたね」
「ああ、雑誌の?チェックしてるんですね」
「たまたま事務所にあったから見てたんだけど、珍しいなっておもったから」
「わたしが声やったアニメの舞台版の座長をひろきくんがやってたから」
昔、座長を背負う"役者・鈴木拡樹"の凛々しい背中に憧れ、必死に追いかけていたわたしが、背中を合わせて立てるようになったのだ。
彼にバトンを渡せるようになったのだ。
ーー 「2.5次元」で交わる2人の現在地
そう煽られた対談ページの見出しに、少しだけ目頭がツンと熱くなった。
「なんか、お前とそういう形で共演できんの、いいよね」
2.5次元系の仕事がくると、自然とお前の名前を探すよ。と染さんは笑った。
私だって関わってた作品の舞台かが決まると出演者欄に知り合いを探してしまうから、所詮みんな一緒なのだ。
「あの時、ちゃんと送り出して良かったって思えるからさ」
あの時、事務所との契約が切れるって時になってオーディションに落ちて、落ちまくっていたどん底にいた時、いつも冷静で一歩引いている染谷さんが柄にもなく必死に励ましてくれた。
「お前は舞台に立ち続ける人間だよ」、そう言ってくれたのが嬉しかった。
当時共演していた舞台で憧れるほど輝いていた先輩が、まだ学生でなんの取り柄もないわたしを認めて、また一緒に舞台に立とうなって言ってくれたのが、嬉しかった。
きっとその言葉がなかったら、わたしは声優の道にすら進まずに表舞台から去っていたと思う。
そんな未来を一瞬でも考えてたと思うと、ほんとうに、
「わたしは、この道を選んで良かったっておもってます。」
染谷さんは、パンケーキにナイフを刺しながら、小さく相槌を打った。
「あのまま舞台だけにしがみついてたら、今こうやってみんなと一緒に仕事をするなんてできなかっただろうから」
「ひろきくんがさ。瑞希が路線を変えたのはこれからもずっと俺らと一緒に仕事したいって思ってくれたからだよって、昔言ってたの。
あの時俺はさ、唯一共演してた舞台も降板されちゃったしめっきり会わなくなったしもう本当に一緒に仕事できないんだなって思ってたから意味わかんねえなって思ってたんだけど、最近やっとその意味がわかったなって。
ひろきくんはずっとそれをわかって引きとめようとしないでお前の気持ちを尊重してたんだなって。」
お前はいつでもまっすぐだからな。
そう笑う染谷さんに、いつかのひろきくんが重なる。
彼の舞台を客席から眺めるたびに思う。
いつかまた、彼と舞台に立ちたい。
そう思って悔しくなる。
いつでも私の前に立ってくれる人。